見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
八話
その後、遅めの晩飯を食べ終えた俺は、アミィとイレーヌさんの二人と別れて自室に戻り、その日はそのまま眠りについた。
どうやら自分で思っていた以上に、ボスコーカトリとの戦闘で疲労していたみたいだ。肉体的にも精神的にも。
そして次の日。
今日も二人と一緒に果ての洞窟探索をする予定だ。
アルクの護衛が三週間後だから、あと二週間は果ての洞窟探索をする予定になっている。
流石に一週間前になると、アルクと打ち合わせとかもあるかもしれないから、果ての洞窟探索をしている時間はないだろう。
「八層はゴーレムが多く出現する階層だから、先にギルドでゴーレム関連の依頼を受けておこう」
ギルドで依頼を受けてから果ての洞窟に潜る。これは最近、俺達が果ての洞窟に潜る時の定番の流れだ。
俺は各階層にどんな魔物がいるかなんて分からないから、どんな依頼を受けるかはフーリとマリーに任せてある。
といっても、二人も果ての洞窟は十五層までしか潜った事がないらしいから、この流れも十五層までになるだろうけど。
「そうだな。今回はこの「アイアンゴーレムの素材納品」の依頼を受けてみようか」
「ん? 素材納品? そんな依頼もあるのか?」
てっきり今日も討伐依頼を受けるのかと思っていたら、聞き慣れない内容の依頼が出てきたので、フーリに尋ねてみた。
「ああ、カイト君はまだ討伐依頼と採取依頼しか受けた事が無かったんだったな。冒険者はランクが上がってくると、ただの討伐依頼だけではなく、指定された魔物の素材をギルドに納品する「納品依頼」という依頼が受けられるようになるんだ」
なるほど、だから納品依頼なのか。確かに魔物の素材は色んな物に使えるっていうのは、異世界のお約束だ。
となると、今までみたいに「ただ適当に殴る」だけじゃなく、それ以外の技術も求められる事になるだろう。
「まあカイトさんがいれば、納品依頼も随分楽になりそうですけどね」
「ん? 俺がいると? って、そっか、ストレージ」
ストレージなら適当に魔物を狩って収納すれば、後は分解で魔物を解体出来る。つまり、解体の手間もかからない上に、持ち運びも通常より楽になるという事だ。
「まあ、肝心の魔物を倒せなければ意味はないのだが、カイト君の場合、それに関しても心配する必要はないだろう」
「実際ここまで特に危な気なくついて来てるし、なんならまだまだ余裕がありそう。流石ですね、カイトさん」
唐突に褒められた件について。
まあそれは置いておいて、二人が俺を見ながらそんな事を言うが、実際どうなんだろう?
確かに七層まで潜った感想としては、特に厳しいとは思わなかった。むしろ楽だとすら感じていたぐらいだ。
これは順調に実力がついてきていると考えても良いのだろうか?
「カイトさん、あまり深く考えなくても大丈夫ですよ。カイトさんは充分強いです」
「そうかな?」
自分では実感が湧かないんだよな。二人の動きを見ていると、自分の未熟さの方が目立つぐらいだし。
確かに一芸には秀でているのかもしれないけど。
「まあ、それぐらい慎重になる方が丁度いいのかもしれないな。さて二人共、この依頼で問題はないか?」
「あ、うん、私は大丈夫」
「俺も問題ない」
「分かった。それじゃあちょっと受付を済ませてくる」
フーリはそう言ってギルドの受付に向かって行った。
その様子を眺めながら、俺はさっきの会話を思い出す。俺が充分強い、ねぇ。確かに身体能力的には充分強くなった自信はある。
でも経験がなぁ。圧倒的に足りないんだよな。
まあそこは気長に身に付けるしかないんだろうけど。
「カイトさんはやっぱり「自分はまだまだ」だと思いますか?」
俺がそんな事を考えていると、隣のマリーが心配そう顔をして尋ねてきた。
「まあな。冒険者になって日が浅いからかもしれないけど、やっぱり二人に比べると、まだまだだなって感じるよ」
Bランク冒険者相手に何を言ってるんだって思うかもしれないけど、やっぱり比較しちゃうもんなんだよ。
比較対象が他にいないというのもあるけど。
「前にも言ったと思いますけど、カイトさんは充分強いですからね?」
マリーが俺を気遣う様に励ましてくれる。
「ありがとう、マリー。分かってはいるつもりなんだけど、つい、な。もう大丈夫だから」
「待たせたな、二人共。ところで、何の話をしていたんだ?」
マリーと話をしていたら、受付を済ませたフーリが戻ってきた。随分早かったな。人が少ないからか?
「いや、別に大した話じゃないんだ。な、マリー?」
「え? ええ、そうですね」
マリーに同意を求めると、咄嗟の事でつい頷いてしまったという感じだった。
「そうか? まあそれは良いとして、カイト君」
「ん? 何だ?」
マリーの方に視線を向けていたフーリが、改めて俺の方に向き直り。
「おめでとう、Cランク冒険者に昇級だ」
「……ホワット?」
あまりにも突然すぎる情報に、脳内処理が追い付かなかった。
Cランク? 誰が? ……俺が?
「姉さん、唐突過ぎてカイトさんが固まっちゃってるでしょ! もうちょっときちんと説明しないと」
隣ではマリーがフーリに何か注意している様だが、耳に入ってこない。
「そ、そうか、すまない。カイト君には今から軽い面談を受けて貰い、問題なしと判断されれば、晴れてCランク冒険者に昇級出来る、という訳だ。そういう事だから、今から面談を受けてきてくれ。その間、私とマリーは適当に時間を潰しておくから」
「やりましたねカイトさん! Cランク冒険者ですよ! こんなに早くCランクになれるんですから、やっぱりカイトさんは充分強いですよ!」
マリーが改めて口にしてくれたおかげで、ようやく俺も理解が追い付いてきた。
俺がCランク冒険者? マジで? ていうか、マリーの口振り。絶対この事知ってただろ。
「……とりあえず、受付に行けばいいのか?」
「ああ、そうだ。受付に行けば、後はエレナさんが案内してくれる筈だ」
俺の問いかけにフーリが頷いた。それなら一先ず受付に行かないと。
「分かった。とにかく行って来る」
「ああ」
「行ってらっしゃい、カイトさん!」
フーリとマリーに見送られ、俺は未だ現実感が湧かない状態でギルドの受付へと向かった。
「お待ちしてました、カイトさん。どうぞ中に入って下さい」
受付に顔を出すと、俺の事を待っていたのであろうエレナさんに促され、壁際の入り口から受付内部へと足を踏み入れた。
「それじゃあついて来て下さい」
受付の奥にある扉を開け、前を先導するように歩き始めたエレナさんと共に、俺は扉の更に奥へと向かう。
一歩中へ入ると、そこは長い廊下になっていた。途中いくつかの扉が点在しており、一番奥には他の扉よりも一回り程大きな、両開きの立派な扉がある。
エレナさんは両サイドにある扉には目もくれず、真っ直ぐに一番奥の扉を目指している様だ。
俺もその後に着いて行き、その扉の前で立ち止まる。
扉にかけられているプレートには「ギルド長室」と書かれていた。
え? ここって、あのいかついギルド長の部屋なの?
「さあ、入って下さい。中でギルド長がお待ちです」
「お疲れさまでした!」
俺は迷わず回れ右をしてそのまま歩き出……そうとしたら、その肩をエレナさんに掴まれた。
「待って下さい。今帰られると困ります」
丁寧に、しかし有無を言わさないとばかりに力強く肩を握られ、俺はこの場からの離脱を諦めた。
出来ればあのギルド長と一対一で話とかしたくないんだけど。
チラッとエレナさんの方を見ると、にこやかスマイルを浮かべている。が、決して俺を逃がさないという固い鉄の意志を感じる。くっ、やはり離脱は無理か!
……まあ冗談はこのぐらいにして。
エレナさんがギルド長室の扉を短くノックし「カイトさんをお連れしました」と言うと、中から「入れ」と、短く返事が返ってきた。
「失礼します。さ、カイトさんも」
扉を開けて中に入るエレナさんに促され、俺も「失礼します」と、一言断ってから、ギルド長室に足を踏み入れた。
中に入ると、そこには執務机を挟んだ対面に座るギルド長の姿が。
「よく来てくれたな、カイト。さあ、とりあえず座ってくれ」
ギルド長が促す先には簡素なテーブルと、その両側に椅子が二つずつの計四つ並んでおり、俺は「ありがとうございます」と一言断ってから、その内の一つに腰かけた。
おお、意外と良い座り心地だ。
そんな感想を抱いていると、俺の対面にギルド長が腰を下ろした。
すると、俺達の前に湯気を上げるカップが置かれる。カップの中は茶色い液体――紅茶で満たされていた。チラッと横を見ると、どうやらエレンさんが用意してくれた様だった。
ありがたい。俺は出されたばかりの紅茶に口をつけ、一口飲む。
「わざわざ呼び出してすまなかったな。最初に言っておくが、Cランク昇級の為の面談だと言ったが、正直お前なら面談なんてしなくても問題はないんだ」
「ッ!」
そしてそのまま吹き出しそうになった。が、それを何とか堪え「ゴクリッ」と飲み込んだ。予想外に、熱い紅茶が食道を通って胃の中まで流れ落ちていく感覚をしばらく味わう事になってしまった。
それにしても、いきなり何言ってんだこの人!?
Cランク昇級の面談は、こうして波乱と共に幕を開けた。
どうやら自分で思っていた以上に、ボスコーカトリとの戦闘で疲労していたみたいだ。肉体的にも精神的にも。
そして次の日。
今日も二人と一緒に果ての洞窟探索をする予定だ。
アルクの護衛が三週間後だから、あと二週間は果ての洞窟探索をする予定になっている。
流石に一週間前になると、アルクと打ち合わせとかもあるかもしれないから、果ての洞窟探索をしている時間はないだろう。
「八層はゴーレムが多く出現する階層だから、先にギルドでゴーレム関連の依頼を受けておこう」
ギルドで依頼を受けてから果ての洞窟に潜る。これは最近、俺達が果ての洞窟に潜る時の定番の流れだ。
俺は各階層にどんな魔物がいるかなんて分からないから、どんな依頼を受けるかはフーリとマリーに任せてある。
といっても、二人も果ての洞窟は十五層までしか潜った事がないらしいから、この流れも十五層までになるだろうけど。
「そうだな。今回はこの「アイアンゴーレムの素材納品」の依頼を受けてみようか」
「ん? 素材納品? そんな依頼もあるのか?」
てっきり今日も討伐依頼を受けるのかと思っていたら、聞き慣れない内容の依頼が出てきたので、フーリに尋ねてみた。
「ああ、カイト君はまだ討伐依頼と採取依頼しか受けた事が無かったんだったな。冒険者はランクが上がってくると、ただの討伐依頼だけではなく、指定された魔物の素材をギルドに納品する「納品依頼」という依頼が受けられるようになるんだ」
なるほど、だから納品依頼なのか。確かに魔物の素材は色んな物に使えるっていうのは、異世界のお約束だ。
となると、今までみたいに「ただ適当に殴る」だけじゃなく、それ以外の技術も求められる事になるだろう。
「まあカイトさんがいれば、納品依頼も随分楽になりそうですけどね」
「ん? 俺がいると? って、そっか、ストレージ」
ストレージなら適当に魔物を狩って収納すれば、後は分解で魔物を解体出来る。つまり、解体の手間もかからない上に、持ち運びも通常より楽になるという事だ。
「まあ、肝心の魔物を倒せなければ意味はないのだが、カイト君の場合、それに関しても心配する必要はないだろう」
「実際ここまで特に危な気なくついて来てるし、なんならまだまだ余裕がありそう。流石ですね、カイトさん」
唐突に褒められた件について。
まあそれは置いておいて、二人が俺を見ながらそんな事を言うが、実際どうなんだろう?
確かに七層まで潜った感想としては、特に厳しいとは思わなかった。むしろ楽だとすら感じていたぐらいだ。
これは順調に実力がついてきていると考えても良いのだろうか?
「カイトさん、あまり深く考えなくても大丈夫ですよ。カイトさんは充分強いです」
「そうかな?」
自分では実感が湧かないんだよな。二人の動きを見ていると、自分の未熟さの方が目立つぐらいだし。
確かに一芸には秀でているのかもしれないけど。
「まあ、それぐらい慎重になる方が丁度いいのかもしれないな。さて二人共、この依頼で問題はないか?」
「あ、うん、私は大丈夫」
「俺も問題ない」
「分かった。それじゃあちょっと受付を済ませてくる」
フーリはそう言ってギルドの受付に向かって行った。
その様子を眺めながら、俺はさっきの会話を思い出す。俺が充分強い、ねぇ。確かに身体能力的には充分強くなった自信はある。
でも経験がなぁ。圧倒的に足りないんだよな。
まあそこは気長に身に付けるしかないんだろうけど。
「カイトさんはやっぱり「自分はまだまだ」だと思いますか?」
俺がそんな事を考えていると、隣のマリーが心配そう顔をして尋ねてきた。
「まあな。冒険者になって日が浅いからかもしれないけど、やっぱり二人に比べると、まだまだだなって感じるよ」
Bランク冒険者相手に何を言ってるんだって思うかもしれないけど、やっぱり比較しちゃうもんなんだよ。
比較対象が他にいないというのもあるけど。
「前にも言ったと思いますけど、カイトさんは充分強いですからね?」
マリーが俺を気遣う様に励ましてくれる。
「ありがとう、マリー。分かってはいるつもりなんだけど、つい、な。もう大丈夫だから」
「待たせたな、二人共。ところで、何の話をしていたんだ?」
マリーと話をしていたら、受付を済ませたフーリが戻ってきた。随分早かったな。人が少ないからか?
「いや、別に大した話じゃないんだ。な、マリー?」
「え? ええ、そうですね」
マリーに同意を求めると、咄嗟の事でつい頷いてしまったという感じだった。
「そうか? まあそれは良いとして、カイト君」
「ん? 何だ?」
マリーの方に視線を向けていたフーリが、改めて俺の方に向き直り。
「おめでとう、Cランク冒険者に昇級だ」
「……ホワット?」
あまりにも突然すぎる情報に、脳内処理が追い付かなかった。
Cランク? 誰が? ……俺が?
「姉さん、唐突過ぎてカイトさんが固まっちゃってるでしょ! もうちょっときちんと説明しないと」
隣ではマリーがフーリに何か注意している様だが、耳に入ってこない。
「そ、そうか、すまない。カイト君には今から軽い面談を受けて貰い、問題なしと判断されれば、晴れてCランク冒険者に昇級出来る、という訳だ。そういう事だから、今から面談を受けてきてくれ。その間、私とマリーは適当に時間を潰しておくから」
「やりましたねカイトさん! Cランク冒険者ですよ! こんなに早くCランクになれるんですから、やっぱりカイトさんは充分強いですよ!」
マリーが改めて口にしてくれたおかげで、ようやく俺も理解が追い付いてきた。
俺がCランク冒険者? マジで? ていうか、マリーの口振り。絶対この事知ってただろ。
「……とりあえず、受付に行けばいいのか?」
「ああ、そうだ。受付に行けば、後はエレナさんが案内してくれる筈だ」
俺の問いかけにフーリが頷いた。それなら一先ず受付に行かないと。
「分かった。とにかく行って来る」
「ああ」
「行ってらっしゃい、カイトさん!」
フーリとマリーに見送られ、俺は未だ現実感が湧かない状態でギルドの受付へと向かった。
「お待ちしてました、カイトさん。どうぞ中に入って下さい」
受付に顔を出すと、俺の事を待っていたのであろうエレナさんに促され、壁際の入り口から受付内部へと足を踏み入れた。
「それじゃあついて来て下さい」
受付の奥にある扉を開け、前を先導するように歩き始めたエレナさんと共に、俺は扉の更に奥へと向かう。
一歩中へ入ると、そこは長い廊下になっていた。途中いくつかの扉が点在しており、一番奥には他の扉よりも一回り程大きな、両開きの立派な扉がある。
エレナさんは両サイドにある扉には目もくれず、真っ直ぐに一番奥の扉を目指している様だ。
俺もその後に着いて行き、その扉の前で立ち止まる。
扉にかけられているプレートには「ギルド長室」と書かれていた。
え? ここって、あのいかついギルド長の部屋なの?
「さあ、入って下さい。中でギルド長がお待ちです」
「お疲れさまでした!」
俺は迷わず回れ右をしてそのまま歩き出……そうとしたら、その肩をエレナさんに掴まれた。
「待って下さい。今帰られると困ります」
丁寧に、しかし有無を言わさないとばかりに力強く肩を握られ、俺はこの場からの離脱を諦めた。
出来ればあのギルド長と一対一で話とかしたくないんだけど。
チラッとエレナさんの方を見ると、にこやかスマイルを浮かべている。が、決して俺を逃がさないという固い鉄の意志を感じる。くっ、やはり離脱は無理か!
……まあ冗談はこのぐらいにして。
エレナさんがギルド長室の扉を短くノックし「カイトさんをお連れしました」と言うと、中から「入れ」と、短く返事が返ってきた。
「失礼します。さ、カイトさんも」
扉を開けて中に入るエレナさんに促され、俺も「失礼します」と、一言断ってから、ギルド長室に足を踏み入れた。
中に入ると、そこには執務机を挟んだ対面に座るギルド長の姿が。
「よく来てくれたな、カイト。さあ、とりあえず座ってくれ」
ギルド長が促す先には簡素なテーブルと、その両側に椅子が二つずつの計四つ並んでおり、俺は「ありがとうございます」と一言断ってから、その内の一つに腰かけた。
おお、意外と良い座り心地だ。
そんな感想を抱いていると、俺の対面にギルド長が腰を下ろした。
すると、俺達の前に湯気を上げるカップが置かれる。カップの中は茶色い液体――紅茶で満たされていた。チラッと横を見ると、どうやらエレンさんが用意してくれた様だった。
ありがたい。俺は出されたばかりの紅茶に口をつけ、一口飲む。
「わざわざ呼び出してすまなかったな。最初に言っておくが、Cランク昇級の為の面談だと言ったが、正直お前なら面談なんてしなくても問題はないんだ」
「ッ!」
そしてそのまま吹き出しそうになった。が、それを何とか堪え「ゴクリッ」と飲み込んだ。予想外に、熱い紅茶が食道を通って胃の中まで流れ落ちていく感覚をしばらく味わう事になってしまった。
それにしても、いきなり何言ってんだこの人!?
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