見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

五話

 その後、七層も無事攻略し終えた俺達は、そのまま八層へと下りてから転移魔法陣に登録を済ませ、ペコライへと戻る事にした。
 七層の攻略はそこまで難しいものではなかったのだが、如何せん、とにかく広かった。

 八層へと下りる時には既に結構いい時間になっているぐらいに。
 なので、とりあえず転移魔法陣に俺の登録だけでも済ませておこうという話になり、登録を済ませてからそのまま地上へと戻ってきたという訳だ。

「なあマリー、悪かったって。だから、いい加減機嫌直してくれないか?」
「知りません」

 そして現在、俺はマリーに頭を下げている。
 俺が謝ると、マリーはそれだけ言ってまたそっぽを向いてしまう。取り付く島もないとは、まさにこの事だろう。

 ちなみに俺は、果ての洞窟からマリーにずっと平謝りしている。マリーは地鶏の件からずっとこんな感じだ。

 一体何が原因でこんなに機嫌が悪くなったというのだろうか?
 俺は少し後ろを歩いていたフーリの隣まで行き、アドバイスを貰おうと思ったのだが。

「なあフーリ」
「すまんな。だが、これは自分で何とかした方が良い」

 フーリの方も、こんな調子で助けてくれない。俺なんか悪い事でもしたかな? コーカトリの肉を焼いて食べただけだよ?

 ……駄目だ。全く心当たりがない。でも、マリーのこの感じ、俺が何かしたのは間違いなさそうなんだけど。

「そうだな。流石にこのままというのもかわいそうだ。ヒントをあげよう」
「ヒント?」

 俺がうんうん唸って考えていると、それを見かねたのか、フーリが俺にヒントをくれると言い出した。

「カイト君は、マリーと何か約束をしていなかったか?」
「え? 約束?」

 俺がマリーと約束? はて? そんな事したっけ?

「ヒントはこれだけだ。後は自分で考えるように」

 それだけ言うと、フーリは歩く速度をあげ、マリーの隣まで行ってしまった。
 それにしても、約束か。オイ椎茸を食べるっていう約束なら既に済ませているし、なんならマリーは毎日オイ椎茸を食べている。

 つまり他に何か約束したって事だよな? うーん……。
 しばらく考えてみたが、結局答えは浮かんでこないまま、俺達は冒険者ギルドまで辿り着いてしまった。

「皆さん、おかえりなさい……何かあったんですか?」
「別に、何でもありません」

 ギルドの受付に行くと、エレナさんが出迎えてくれたのだが、マリーの様子がいつもと違う事に気付いたようだ。
 だが、当のマリーがそれを否定してしまった。

「すみません、エレナさん。なんでもないんで、査定お願いしてもいいですか?」
「はあ、それは構いませんけど」

 俺の言葉にエレナさんはまだ納得がいってなさそうだったが、とりあえず査定の準備を始めてくれた。

 エレナさんがカウンターの下から収納ボックスを取り出し、俺はその中にコーカトリの魔石をいくつかとコーカトリの素材を転送し、ボスコーカトリの魔石はカウンターの上に取り出す。

 最近定番となりつつあるこの査定。エレナさんも慣れたもので、特に何か言われる事もない。

「はい、コーカトリの魔石五つですね。残りはいつも通り手元に残しますか?」
「はい、それでお願いします」
「かしこまりました。それではこちらが報酬になります」

 エレナさんは収納ボックスの中身を確認すると、カウンターの下から硬貨の入った麻袋を取り出し、俺達に差し出してくる。

 それを一旦ストレージに収納し、エレナさんに一言挨拶をしてから、いつも通り受付を後にしようとしたら、エレナさんがそれに待ったをかけた。

「あの、良かったらこれ、皆さんでどうぞ」

 そう言ってエレナさんが差し出してきたのは、綺麗にラッピングされた小箱だった。

「これは?」

 小箱はきちんと蓋がされており、見ただけでは中身が何なのか分からない様になっていた。
 俺が尋ねると、エレナさんは恥ずかし気に頬を掻き。

「私が作ったお菓子です。もしよかったら皆さんで召し上がって下さい」

 と、照れくさそうに中身の説明をしてくれた。
 エレナさんが作ったお菓子……って、エレナさんの手作り?
 ふと、二人に視線を向けてみると、二人もこれには驚いているみたいだった。

「エレナさん、気持ちは嬉しいんだが、何故急にお菓子など?」

 俺の疑問を代弁するかの様なフーリの質問。
 それはマリーも同じだった様で、俺と同じくマリーも視線でエレナさんに問いかけているみたいだった。

「いえ、何だか皆さんいつもと様子が違っていたので。何があったか分かりませんけど、これでも食べて、またいつも通りになって貰えたらな、と。少し失敗してしまったので、本当は自分で食べるつもりだったんですけど」

 どうやらエレナさんは俺達の様子がいつもと違う事を心配して、少しでも何かしたいと思った様だ。
 そして、その瞬間。

「……あ、そうか、料理」

 エレナさんの手作りのお菓子を見て、俺の脳裏に一週間前の出来事が思い出された。
 そうだ。そういえば魔導具のお礼に、マリーに料理を教わる事になってたんだっけ?
 初日に簡単なのを教わって以降、一度も教わってなかった。

 それで、俺は今日コーカトリの肉の調理をアミィにお願いしようとしたんだ……マリーには相談せずに。
 そっか、そういう事か。

「エレナさん、ありがとうございます。おかげで助かりました」
「え? そ、そう、なんですか?」
「はい!」

 エレナさんのおかげで、マリーが何で怒ってるのか見当がついた。
 フーリが教えてくれたヒント「約束」というのにも合ってるし、多分間違いないだろう。

 ふと隣を見ると、さっきの俺の呟きが聞こえていたのか、フーリが俺の方を見てニヤリと笑っていた。
 マリーの方を見ると、すぐに視線を逸らされてしまったが。

 とにかく、原因は分かったんだ。後は行動に移すのみだ。
 俺達はそのままエレナさんに見送られながら、冒険者ギルドを後にした。



「なあ、マリー」
「……何ですか?」

 ギルドを出てすぐ、俺がマリーに声を掛けると、マリーは渋々といった様子で返事を返してくれた。

「もしマリーが良かったら、これから買い物に付き合ってくれないか?」
「買い物?」

 俺の言葉が予想外だったのか、マリーはいつもの調子で返事を返してくれたが、すぐにはっとなって視線を逸らしていた。
 その様子を見て、俺は言葉を続ける。

「ああ、買い物だ。コーカトリの肉を美味しく食べる為の調味料が欲しくてな。マリーにも手伝って欲しいんだ」
「……別に調味料ぐらい、一人で選べるじゃないですか。それに料理はアミィちゃんに任せるんでしょう? だったらアミィちゃんの方が適任じゃないですか?」

 ぐっ、痛い所を。確かにそうなんだけど、それは約束を忘れていたからで。
 ……いや、ここはまず先にやる事があるな。

「マリー、ごめん」

 俺はマリーに頭を下げて謝った。

「え? きゅ、急にどうしたんですか!?」

 俺が突然頭を下げた事でマリーは驚いた様だったが、気にせず話を続ける。

「マリーに料理を教えて貰う約束してたのに、俺すっかり忘れてて。今回の話も、真っ先にマリーに相談すればよかったんだ。本当にごめん」

 誠心誠意、頭を下げる。
 こういう時は、四の五の言わず誠意を示す。それが正解だと思うから。

「分かりました! 分かりましたから、とにかく頭を上げて下さい!」
「ぷっ! そうきたか! あっはははは!」
「姉さんも! 笑ってないで助けてよ!」

 俺はそのまま何度も頭を下げ、最終的にマリーが折れて許してくれるまで謝り続けた。
 ちなみにフーリはそんな俺と、それを見て慌てるマリーとを眺めて終始面白そうに笑っていた。

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