見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

三話

「……は?」

 俺の勘違いじゃなかったら、あのボスコーカトリ、今鼻で笑わなかったか?
 ……いや、きっと勘違いだろう。笑われる理由がないし、そもそもアレは魔物だぞ?

「カイトさん! どこかやられましたか!?」

 俺がボスコーカトリに気を取られていると、それに気付いたマリーから声を掛けられた。

「いや、大丈夫。何でもない」
「そうですか?」

 マリーは俺に話しかけながらも、自分の周りに水の壁を展開し、コーカトリが突っ込んできた瞬間に凍らせて砕くという、なんとも器用な事をやっていた。

 水の盾だと勘違いし、強引に突破しようとすると、実は相手を捉えて氷漬けにし、あまつさえそれを砕いてくる罠だなんて、普通は思わないよな。
 いつも思うけど、マリーって結構えげつない事やるよな。

 何度かそれを繰り返す内、コーカトリ達はマリーに突っ込むのは危険だと判断したのか、今までマリーに攻撃していたコーカトリ達が、攻撃対象を俺とフーリに切り替えてきた。

 だが、既にコーカトリの数は最初の半分以下。二十にも満たない。
 確かにコーカトリ達は、ボスコーカトリが現れる前よりも強くなっている。もしかしたら、あのボスコーカトリがバフでも掛けているのかもしれないが、それを確認する術はない。

 だが、別に勝てない訳じゃない。

「串マシンガン!」

 俺に向かって突っ込んできたコーカトリ三羽の前にストレージを展開し、まとめて串マシンガンの餌食にする。

 どれだけ反応速度や身体能力が上がろうとも、不可視の君感から射出される串マシンガンを躱すのは難しかったようだ。

 まああの速度で突っ込んできているのだ。いきなり目の前から高速で、しかも不可視の空間から飛来する串を躱す事なんて不可能だろうけど。
 三羽のコーカトリはそのまま頭を串に貫かれ、あっけなくその命を散らす。

 他のコーカトリも同じ要領で次々と葬っていく。

 だからと言ってフーリに向かって行っても、難なく切り刻まれる。マリーに向かって行ったら、そもそも近づく事さえ出来ずに氷漬けにされて砕かれる。そして、俺に向かってくれば串マシンガンの餌食。

 そうなると、後はひたすら流れ作業。コーカトリの群れは数分と経たずに全滅し、残すはボスコーカトリと、その周りに侍る数羽のコーカトリのみ。

「気を付けて下さい、カイトさん。ボスコーカトリは強いですよ」
「ああ、分かった」

 マリーに忠告され、俺は気合を入れなおす。
 フーリの隣に並んで金棒を構え直し、ボスコーカトリの動きに集中していると。

「コケコケ、ケッケッケッ」

 ボスコーカトリは俺を見下ろし、まるで嘲笑うかのような鳴き声をあげた。
 何だ、こいつ? 仲間を失い過ぎておかしくなったか? いや、そういえばさっきも俺を見て、鼻で笑う様な仕草をしていたよな?

「なあフーリ。なんか俺、さっきからこいつに馬鹿にされてない?」
「あー、いや、何だ。きっと気のせいじゃないか?」

 ボスコーカトリの行動がどうしても気になった俺は、フーリに尋ねてみたのだが、どうにも歯切れが悪い。
 何と言うか「言い難い事をどう伝えようか思いつかない」といった感じだ。

「何か気になるな。フーリ、俺に何か隠してないか?」

 ボスコーカトリに視線は向けたままフーリに尋ねてみると、フーリは少し考え込む様な仕草をした後。

「はぁ、仕方がない。落ち込むんじゃないぞ、カイト君」
「え? あ、ああ、分かった?」

 フーリに念を押され、俺は頷いたが、落ち込むってどういう事?

「ボスコーカトリの周りに、コーカトリが何羽かいるのが見えるだろ? アレはあのボスコーカトリの番なんだ」
「番?」

 確かに、よく見たらあのコーカトリ達にはトサカが無い。つまり、あれはメス?
 番を周りに沢山侍らせ、俺を見ては鼻で笑うボスコーカトリ。

 人間で言うなら、ハーレム状態の男が非モテの男(俺)を見て見下す状態と似ている。ていうか、それって。

「なあ、フーリ?」
「何だ?」

 フーリが白々しく返事を返す。

「俺ってもしかして、あのボスコーカトリに見下されてる?」
「……多分な」

 そっか、俺は見下されてるのか。自分にはこんなに女がいるのに、お前にはいないのかよ、ダッサって?
 たかが鶏風情が? この俺を? そうかそうか。

「……上等だ! このクソ鶏風情が! 焼き鳥にして食ってやらぁ!」

 鶏の分際で俺の事を見下すボスコーカトリ、許すまじ!
 俺は怒りのままに人間ロケットでボスコーカトリとの距離を一瞬で詰め、その脳天に向かってオーガの金棒を力の限り振り下ろす。
 俺の怒りを思い知れ!

「コケェェェェ!」

 それをボスコーカトリは、地面を蹴ると同時に振り上げた足を使って防ごうとしたようだが、関係ない! だったらその足ごとまとめて殴り潰すのみ!

「コケッ!?」

 ボスコーカトリの驚愕の声が聞こえる。
 俺の一撃の威力が思いの外強いと判断したのか、ボスコーカトリは自ら足を滑らせて倒れ込む事で俺の攻撃を回避した。

 チィッ、逃げられたか! やっぱりこの金棒よりもアレの方が軽くて扱いやすいか。
 ストレージにオーガの金棒を放り込み、代わりにトレントの棍棒を取り出して構え直す。

 今度こそ、確実に……殺る!

 それをボスコーカトリは本能的に感じ取った様で、片足を引いて体制を低くし、いつでも飛び出せるように身構えている。

 俺とボスコーカトリの間に緊張が走る。

 深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。呼吸を整え、タイミングを見極める。

 パキン

 ボスコーカトリが僅かに後退り、その拍子に小枝を踏み折った音が辺りに響き。

「コケェェェェ!」

 ギイアアァァァァ!

「くたばれや、クソ鶏野郎がぁ!」

 その音を合図に、俺とボスコーカトリは同時に飛び出した。

「カイトさん……」
「カイト君……」

 マリーとフーリの呆れる様な声が聞こえた気がしたけど、きっと気のせいだ。こんな状況で聞こえる訳がない!

 俺はボスコーカトリに向かって、トレントの棍棒を振り下ろす。
 狙うは脳天ただ一つ!

 ボスコーカトリが放った蹴りを、足の裏から炎を噴出して加速する事で躱し、そのまま背後に回り込む。
 すると、俺の姿を見失うボスコーカトリ。

 その一瞬の隙を見逃さず、がら空きの脳天に向かって力一杯トレントの棍棒を振り下ろした。

「ゴ……ゴ、ゲェ、ェ……」

 会心の一撃。

 確かな手応え。

 脳天を打ち砕かれたボスコーカトリは断末魔の声を上げ、そのまま地面に倒れ込んでいった。

「ふっ、俺を馬鹿にするからだ」

 無様に倒れ込むボスコーカトリに向かって、俺は吐き捨てる様に言い放った。
 まあ何にせよ、色々ありはしたがこれで終わりかな?
 さて、二人はどうしてる?

「ファイアランス!」
「アイスニードル!」

 二人の方を見ると、ボスコーカトリに侍っていたメスのコーカトリ相手に各々魔法を放って殲滅していた。
 ていうか、フーリは別に魔法を使わなくても、剣で戦えばいいんじゃない?

 フーリの魔法「ファイアランス」は、ランスというよりも巨大なドリルという方が相応しい様な規模の魔法だった。

 フーリの爆炎以外の魔法は初めて見たけど、すげえ威力だな。たった一本のファイアランスで、残りのコーカトリ全部巻き込んでるじゃん。

「終わったようだな、カイト君」
「ああ、そっちももう終わりそうだな」
「カイト君がボスコーカトリを持っていったから、私の魔法を披露する機会を失ってしまったじゃないか」

 あ、そういう事か。フーリはボスコーカトリを魔法で仕留めるつもりだったんだな。だから憂さ晴らしをするかの様に、コーカトリにあんな派手な魔法を。

 だったら悪いことしたな。でも、正直そのファイアランスだけでも充分過ぎるぐらい魔法は披露出来てると思うけど。

 それに、ボスコーカトリが俺の事を馬鹿にしてくるのが悪いんだ。
 俺は二人がコーカトリの殲滅を済ませるのを待つ間、コーカトリの群れとボスコーカトリの素材をストレージに回収する事にした。

 といっても、フーリのファイアランスでほとんど全滅してるけど。

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