見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

三十七話

「ぶぁっくしょい!」

 突然盛大なくしゃみが出た。

「風邪ですか?」
「いや、違うと……はぁっくしゅん! はっくしょい! ああ」

 そのごも立て続けに、計三回のくしゃみが出て、そこでピタリと止まった。うーん、誰か噂でもしてるのか?
 三回くしゃみが出ると……何だっけ? 確か四回はただの風邪だった気がするけど……まあいいか。

 結局ミスリルは見つからなかったよ。
 いや、冗談とかじゃなくて。
 結局あの後、三層でミスリルの採掘を進めたけど、結果は芳しくなかった。

 アルクを助けていた事もあって、時間的にも今日はもう宿に帰ろうという話になった。そして現在、俺達は宿屋の酒場で晩飯を食べている。
 ちなみにアミィにオーク肉をお土産で分けてあげたら随分と喜ばれた。オーク肉は地味に高いとの事。

「今日は残念だったけど、明日こそは見つかるといいな」

 ミスリルが全然見つからなかったのは本当に残念だったが、また明日がある。三層の魔法陣に登録は済ませてあるし、明日は最初から三層スタートだ。
 きっと今日よりも採掘は捗る筈。

「ああ、そうだな」
「まあ流石にすぐ手に入るとは思っていませんでしたし、しばらくは果ての洞窟通いですね」

 二人も特に気にした様子はなく、むしろ想定の範囲内といった感じだった。
 そりゃそうか。そんな簡単に手に入るなら苦労はしないよな。

「でも、代わりに鉄鉱石はそれなりの量採掘できたな」

 確かにミスリルは全然手に入らなかったけど、鉄鉱石はそれなりに手に入ったのだし、有意義な時間ではあった。

「そうだな。あれだけの量の鉄鉱石があれば、鉄の武具なら一式揃えられそうだ」

 フーリの言う通り、ガンツ武具店に持って行ったら「カイトの防具なら一式揃えてお釣りがくる量だな」とガンツさんも言っていた。

「カイト君、どうする? 先に鉄の防具一式揃えるか?」
「うーん、そうだなぁ」

 正直俺はミスリルの武具が欲しい訳でもないし、それなら鉄の防具を先に揃えて、果ての洞窟探索をより安全に出来る様にしてもいいだろう。
 でもこの鉄鉱石は三人で集めた物だし、俺の防具に使うっていうのもちょっとな。

 でも持ち込みなら価格も大分抑えられるみたいだし、これを利用しない手は無い。
 うーん……あ、そうだ。

「なあ、俺は今日アルクから貰ったミスリルはいらないから、代わりに鉄鉱石を譲ってくれないか?」
「何? ミスリルをいらないだと? カイト君、本当にいいのか?」
「私達は別に問題ありませんけど、カイトさんは本当にそれでいいんですか?」
「ああ、問題ない。ていうか、現状俺はミスリルの武器が欲しい訳でもないからな。むしろ鉄鉱石を譲ってくれた方が俺としては助かる」

 俺の提案に、二人が怪訝そうな表情で問いかけてきたので、問題ない旨を伝える。
 確かにミスリルは鉄鉱石より価値があるんだろう。でも、これだけの鉄鉱石を譲って貰うには、それ相応の対価は必要だと思う。

「まあ、カイトくんがそれで良いと言うなら、私は一向に構わないが」
「私も。カイトさんがいいなら問題ありません」
「本当か? 二人共、ありがとう」

 鉄鉱石を譲って貰える事になり、俺は安堵の息を漏らした。
 今の俺なら、防具一式を揃えるだけの資金は貯まっているから、問題ないと言えば問題ないのだけど、やっぱり節約出来るならしたい。

 いつ入用になるか分からないしな。
 貯められる時は貯めておかないと。
 そんな事を考えていると。

「お兄ちゃん、防具作るの?」

 両手に料理を持ったアミィが、それらをテーブルに並べながら尋ねてきた。
 ちなみにメニューはオイ椎茸のグラタンとパン、サラダという最早定番となった組み合わせに、オーク肉の串焼きだ。
 昼間食べた時点で大分慣れたので、今は問題なく食べられる。むしろ旨い。

「ああ、俺もそろそろきちんと防具を揃えたいと思ってな。明日ガンツ武具店に行って、一式見繕ってくるつもりだ」
「うん、それがいいよ! 実は私、鎖帷子だけで冒険に出るお兄ちゃんの事、心配してたんだ」
「そうだったのか?」

 知らなかった。まさかアミィに防具の事で心配されていたなんて。

「お兄ちゃんって結構無茶するみたいだし、いっそ鎖帷子の上から重鎧を装備した方が良いんじゃないかって思ってた」
「いや、それ動けないから」

 流石に俺の筋力で鎖帷子の上から重鎧まで装備したら、多分一歩も動けない気がする。
 いや、確かに身体強化と筋力強化、剛力の合わせ技なら問題なく動けるとは思うけど、三つも重ね掛けすると、体への負担が大きすぎる。

「でも、かっこよさそうじゃない? 騎士様みたいな鎧を身に付けたお兄ちゃんが、剣片手に魔物を次々倒していく姿!」
「え? そ、そうか?」

 アミィに言われて想像してみる。
 白く輝く鎧を身に纏い、次々と襲ってくる魔物の攻撃を時には躱し、時には盾で防ぐ。そして隙あらば右手に持った武器で魔物に斬りかかり……。

 ギィアアァァァァッ!

 ……うん、ダメだ。
 想像の中の俺はトレントの棍棒を振り回していた。棍棒で殴り掛かる度に響く魔物の悲鳴と、トレントの棍棒の気味の悪い断末魔の様な叫び声。
 そしてそんな男に守られる人々。もし俺が守られる側なら即逃げ出す。迷いはない。

 これじゃあどっちが魔物だか分かったもんじゃない。

「うん、俺もフーリみたいな軽鎧を探してみるか」
「えー、何で?」

 アミィは不満げな表情で俺に問いかけてきた。いや、そんなに俺の重鎧姿見たいのか?
 そんなに良い物でもあるまいし。

「実は、俺が今使っている武器に問題があってな」
「武器に?」
「そう、武器に。今俺が持っている武器で一番いい武器がトレントの棍棒っていう武器なんだけど、それには欠点があってな」
「欠点? 棍棒が微妙って事?」
「び、微妙言うな! 棍棒は凄いんだぞ! 安価で頑丈。殴って良し、投げて良し、防いで良し、折って良しと、汎用性も高い!」

 一つ間違いがあった気がするが、問題ないだろう。
 確かに棍棒はビジュアル的に微妙かもしれないけど、使ってみると案外悪くないんだぞ! ……ビジュアル以外。

「っと、話が逸れたな。話を戻すけど、トレントの棍棒の最大の欠点、それは不気味だって事だ」

 俺がアミィにトレントの棍棒の欠点を教えると、マリーとフーリは揃って曖昧な表情を浮かべた。二人は一度アレを見ているからよく分かるよな。

「ん? だから微妙って事でしょ? 違うの?」

 アミィは小首を傾げて疑問符を浮かべているようだが、分かってないな。この不気味さを。
 俺はストレージからトレントの棍棒を取り出し、アミィに差し出して見せた。

「え、気持ち悪っ!」

 おお、アミィよ、お前もか。

 ていうか、これ見た反応が皆同じ件について。確かに気味の悪い見た目をしているけど、一人ぐらい「きゃあ、かわいい!」とか言っても……いや、ないな。もしそんな事をいう奴がいたら、俺は迷わず「病院に行け」と言うだろう。

「どうだ? この棍棒片手に華麗に魔物と戦う姿を想像してみ? ちなみにこれ、殴りつけると悲鳴みたいな奇声を上げるから」
「…………控えめに言って、衛兵さんに通報するかな」
「控えめでそこまで!?」

 不審者扱い通り越して通報案件かよ! 酷くない!?

「あははっ、やだなぁお兄ちゃん、半分冗談だよ」

 半分本気やないかい。
 そんな事を言いながらトレントの棍棒をしげしげと眺めるアミィ。
 不気味と言いながらもこの棍棒に興味津々の様だ。

「ところで、話は変わるけど、イレーヌさんはあの後どうだった?」

 俺はこの酒場に来てから気になっていた事をアミィに尋ねてみた。

「あ、そうだ! お兄ちゃんにも教えとかないと!」

 アミィは視線をトレントの棍棒から俺に移し、嬉しさが滲み出ている様な笑顔を俺に向けてくれた。
 その表情から、悪い話ではなさそうだと察する事が出来た。

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