見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
三十一話
また兄さんの夢を見た。
今度は兄さんが空を飛んでいる夢だ。いや、冗談でも何かの間違いでもなく、実際に空を飛んでいたのだ。
夢なのに「実際に」というのも変な話かもしれないけど。
夢の中で兄さんはそれを「人間ロケット」と呼んでいたけど、そのネーミングセンスは正直どうかと思う。
『え? 兄さん、着地はどうする気なの?』
兄さんは空に向かって飛び上がり、そこで何かに気付くと、かなりの速度で飛んで行ってしまった。でも、その速度では着地なんて出来る訳がない。
そんな事をしたらミンチは免れないだろう。
もしかして何も考えていないとか? いや、流石にそんな事は……。
『ああぁぁぁぁぁぁぁぁ! 誰か止めて、受け止めてぇ!』
……そのまさかだったらしい。って、いや、そんな事を考えてる場合じゃない!
兄さんのミンチなんて絶対に見たくない!
しかし、次の瞬間私の視界に飛び込んできた光景は、小学生ぐらいの男の子の顔にドロップキックを叩き込んでいる状態の兄さんの姿だった。
いや、どういう状況?
『そうだ、それより兄さんは!?』
あの子供には申し訳ないけど、今は兄さんの安否の方が大事だ。
急いで兄さんの方を見てみると、当の兄さんは何事もなかったかの様にピンピンしていた。
『はあ、良かったぁ』
兄さんが無事で一先ず安心した。私が会いに行く前に兄さんが死んだりしたら本末転倒だ。……まだ会えると決まった訳じゃないけど。
そんな事を考えていると、何故か無傷のさっきの子供と兄さんが一騎打ちを始めていた。
子供の方は素手で、兄さんは棍棒で戦っている。
……素手と棍棒の戦い。普通もう少しまともな武器を使うものじゃないの?
一進一退の攻防が続いていたが、子供――シンが結界を展開してから状況に変化が生まれた。
兄さんがどこからか取り出した指輪をその手にはめてから、雰囲気が変わったのだ。
なんというか、まるで兄さんじゃない誰かになってしまったのではないかと錯覚してしまいそうになるというか。
でも、それも一瞬の事で、すぐにいつもの兄さんに戻っていた。
『今のは一体何だったの?』
あの指輪が関係しているのかしら?
それを確かめようにも、今の私には確かめようもない。
考えていても仕方がないし、今は目の前の兄さんに集中しよう。目が覚めると、また一人に戻ってしまうのだから。
と、そんな事を考えている時だった。
どっがぁぁぁぁぁぁん
『っ!?』
突然の爆発音。
慌てて爆音がした方に視線を向けると、結界内が真っ赤な炎に包まれていた。
『……え? 兄さん!?』
どうして突然爆発なんてしたのか? いや、そもそも何で爆発なんてしたのか?
気になる事はあるけど、そんな事よりも今は兄さんの安否の方が大事だ!
と、その時、私の視界が徐々に歪み始めた。目覚めの合図だ。
『え? どうして? まだ兄さんの安否を確認してないのに!』
せめて兄さんが無事かどうかだけでも確認したいのに!
目が覚めない様に必死に意識を保とうとしていると、結界内で白目をむき、鼻血を垂らしながら倒れ込む兄さんの姿が視界に入り、私の意識は覚醒していった。
目が覚めると、いつもと同じ自室の天井が視界に入ってきた。
「……兄さん、生きているわよね?」
最後に見た兄さんの姿は、焼け焦げた姿ではなかった。それはつまり、爆発には巻き込まれなかったという事だ。
でも、だからといって無事には見えなかった。もしかしたら、兄さんは……。
「いや、きっと大丈夫。兄さんは生きている筈よ!」
そもそも私の夢が本当に異世界を覗き見ているのか、私の願望が生み出した妄想の産物なのか。それすらも分かってはいないのだけど。
でも、今は少しでも可能性を信じたい。
「そういえば、今日届くのよね、アレ」
数日前に頼んだ魔導書五冊。それが今日届く予定なんだけど。
「今にして思えば、何であんなサイトを鵜呑みにしたのかしら?」
あの時は兄さんの夢を見たばかりで気持ちが昂っていたのかもしれない。
今になって冷静に考えてみると、あのサイトも他のサイトと同じただのオカルトサイトだったのかもしれない。
そんな考えが脳裏をよぎる。
むしろ、怪しげな魔導書を販売しているし、オカルトサイトではなく、詐欺サイトだったのかもしれない。
「……まあ今更考えても後の祭りね。今の私に出来る事は、待つ事だけなんだし」
願わくば、あの情報が本物でありますように。
と、そんな事を考えている時だった。
ピンポーン
「っ 」
家の中にインターホンが鳴り響き、私はドキッとした。もう届いたのか。
「近衛さーん! 宅配便です!」
家の外から聞こえる配達員と思われる男の声。
都会なら、こんな事したら下手すると近所迷惑で文句を言われかねないけど、生憎ここは都会とは無縁の田舎。こういう事は日常茶飯事だ。
「はーい! 今行きます!」
そのまま部屋を出ようとして、自分がどんな姿をしているのか思い出した。
下着の上に兄さんのシャツを羽織っただけのラフな格好。
家に一人でいる時なら問題ないけど、流石にこの格好で出る訳にもいかない。
私は急いでタンスから普段着を取り出し、チャチャッと着替えて玄関に向かった。
玄関で伝票にサインをして、配達員から荷物を受け取ってリビングに戻り、私はその箱を無造作に破り開けた。
中には大学ノート程の大きさの、少し厚みのある真っ黒な本が五冊詰められていた。
これが件の魔導書。
「なんだか不気味な本ね。もう少し色合いとかどうにか出来なかったのかしら?」
いくら魔導書だからといって、今時真っ黒な装丁とか流行らないと思うのだけど……まあいい。今はそんな事より、この魔導書とやらが本物かどうか確かめないと。
とりあえず五冊全てを取り出してみると、それぞれの本の表紙に「テレポート」「時空間魔法」「電撃魔法」「魔力吸収」「再生」と書かれていた。
うん、さっぱり分からない。
「せめて取扱説明書の一つでもついてれば」
大体魔導書を手に入れたからといって、どうやって使えばいいか分からなかったら意味がないじゃない。
と、そんな事を考えながら、各魔導書をよく見てみると「再生」の魔導書の影に一枚の紙切れが隠れている事に気が付いた。
何だろうかと手に取ってみると。
【こんにちは。大変お待たせしました。この手紙を読んでいるという事は、無事魔導書が届いたという事でしょう。おめでとうございます】
という文章から始まる手紙の様だ。
この文章、あのサイトの管理人と似た様な文体をしている。
【さて、いきなり本題に入らせて貰いますが、皆さんはこうお考えじゃないですか? どうやって魔導書を使えばいいのか、と】
「いきなり確信を突いてくるわね。まあ事実だけど」
まるでこちらの思考を読んだかのような内容に、私は少し薄気味悪さを感じてしまった。
【結論から言いますと、スキルを取得する方法は簡単です。魔導書を開き「習得」と口にするだけで、各魔導書に書かれているスキルを習得する事が出来ます】
……え、それだけ? たったそれだけでスキルとやらが習得出来るって言うの?
私は本当にそれだけで習得出来るかを試す為に、五冊の中から一つの魔導書を手に取ってみた。
表紙には「電撃魔法」の文字。
これを選んだのは、正直五冊の中でこれが一番確認しやすそうだからだ。
「さて、一体どうなるのかしら?」
私は電撃魔法の魔導書を開き「習得」と呟いてみた。
今度は兄さんが空を飛んでいる夢だ。いや、冗談でも何かの間違いでもなく、実際に空を飛んでいたのだ。
夢なのに「実際に」というのも変な話かもしれないけど。
夢の中で兄さんはそれを「人間ロケット」と呼んでいたけど、そのネーミングセンスは正直どうかと思う。
『え? 兄さん、着地はどうする気なの?』
兄さんは空に向かって飛び上がり、そこで何かに気付くと、かなりの速度で飛んで行ってしまった。でも、その速度では着地なんて出来る訳がない。
そんな事をしたらミンチは免れないだろう。
もしかして何も考えていないとか? いや、流石にそんな事は……。
『ああぁぁぁぁぁぁぁぁ! 誰か止めて、受け止めてぇ!』
……そのまさかだったらしい。って、いや、そんな事を考えてる場合じゃない!
兄さんのミンチなんて絶対に見たくない!
しかし、次の瞬間私の視界に飛び込んできた光景は、小学生ぐらいの男の子の顔にドロップキックを叩き込んでいる状態の兄さんの姿だった。
いや、どういう状況?
『そうだ、それより兄さんは!?』
あの子供には申し訳ないけど、今は兄さんの安否の方が大事だ。
急いで兄さんの方を見てみると、当の兄さんは何事もなかったかの様にピンピンしていた。
『はあ、良かったぁ』
兄さんが無事で一先ず安心した。私が会いに行く前に兄さんが死んだりしたら本末転倒だ。……まだ会えると決まった訳じゃないけど。
そんな事を考えていると、何故か無傷のさっきの子供と兄さんが一騎打ちを始めていた。
子供の方は素手で、兄さんは棍棒で戦っている。
……素手と棍棒の戦い。普通もう少しまともな武器を使うものじゃないの?
一進一退の攻防が続いていたが、子供――シンが結界を展開してから状況に変化が生まれた。
兄さんがどこからか取り出した指輪をその手にはめてから、雰囲気が変わったのだ。
なんというか、まるで兄さんじゃない誰かになってしまったのではないかと錯覚してしまいそうになるというか。
でも、それも一瞬の事で、すぐにいつもの兄さんに戻っていた。
『今のは一体何だったの?』
あの指輪が関係しているのかしら?
それを確かめようにも、今の私には確かめようもない。
考えていても仕方がないし、今は目の前の兄さんに集中しよう。目が覚めると、また一人に戻ってしまうのだから。
と、そんな事を考えている時だった。
どっがぁぁぁぁぁぁん
『っ!?』
突然の爆発音。
慌てて爆音がした方に視線を向けると、結界内が真っ赤な炎に包まれていた。
『……え? 兄さん!?』
どうして突然爆発なんてしたのか? いや、そもそも何で爆発なんてしたのか?
気になる事はあるけど、そんな事よりも今は兄さんの安否の方が大事だ!
と、その時、私の視界が徐々に歪み始めた。目覚めの合図だ。
『え? どうして? まだ兄さんの安否を確認してないのに!』
せめて兄さんが無事かどうかだけでも確認したいのに!
目が覚めない様に必死に意識を保とうとしていると、結界内で白目をむき、鼻血を垂らしながら倒れ込む兄さんの姿が視界に入り、私の意識は覚醒していった。
目が覚めると、いつもと同じ自室の天井が視界に入ってきた。
「……兄さん、生きているわよね?」
最後に見た兄さんの姿は、焼け焦げた姿ではなかった。それはつまり、爆発には巻き込まれなかったという事だ。
でも、だからといって無事には見えなかった。もしかしたら、兄さんは……。
「いや、きっと大丈夫。兄さんは生きている筈よ!」
そもそも私の夢が本当に異世界を覗き見ているのか、私の願望が生み出した妄想の産物なのか。それすらも分かってはいないのだけど。
でも、今は少しでも可能性を信じたい。
「そういえば、今日届くのよね、アレ」
数日前に頼んだ魔導書五冊。それが今日届く予定なんだけど。
「今にして思えば、何であんなサイトを鵜呑みにしたのかしら?」
あの時は兄さんの夢を見たばかりで気持ちが昂っていたのかもしれない。
今になって冷静に考えてみると、あのサイトも他のサイトと同じただのオカルトサイトだったのかもしれない。
そんな考えが脳裏をよぎる。
むしろ、怪しげな魔導書を販売しているし、オカルトサイトではなく、詐欺サイトだったのかもしれない。
「……まあ今更考えても後の祭りね。今の私に出来る事は、待つ事だけなんだし」
願わくば、あの情報が本物でありますように。
と、そんな事を考えている時だった。
ピンポーン
「っ 」
家の中にインターホンが鳴り響き、私はドキッとした。もう届いたのか。
「近衛さーん! 宅配便です!」
家の外から聞こえる配達員と思われる男の声。
都会なら、こんな事したら下手すると近所迷惑で文句を言われかねないけど、生憎ここは都会とは無縁の田舎。こういう事は日常茶飯事だ。
「はーい! 今行きます!」
そのまま部屋を出ようとして、自分がどんな姿をしているのか思い出した。
下着の上に兄さんのシャツを羽織っただけのラフな格好。
家に一人でいる時なら問題ないけど、流石にこの格好で出る訳にもいかない。
私は急いでタンスから普段着を取り出し、チャチャッと着替えて玄関に向かった。
玄関で伝票にサインをして、配達員から荷物を受け取ってリビングに戻り、私はその箱を無造作に破り開けた。
中には大学ノート程の大きさの、少し厚みのある真っ黒な本が五冊詰められていた。
これが件の魔導書。
「なんだか不気味な本ね。もう少し色合いとかどうにか出来なかったのかしら?」
いくら魔導書だからといって、今時真っ黒な装丁とか流行らないと思うのだけど……まあいい。今はそんな事より、この魔導書とやらが本物かどうか確かめないと。
とりあえず五冊全てを取り出してみると、それぞれの本の表紙に「テレポート」「時空間魔法」「電撃魔法」「魔力吸収」「再生」と書かれていた。
うん、さっぱり分からない。
「せめて取扱説明書の一つでもついてれば」
大体魔導書を手に入れたからといって、どうやって使えばいいか分からなかったら意味がないじゃない。
と、そんな事を考えながら、各魔導書をよく見てみると「再生」の魔導書の影に一枚の紙切れが隠れている事に気が付いた。
何だろうかと手に取ってみると。
【こんにちは。大変お待たせしました。この手紙を読んでいるという事は、無事魔導書が届いたという事でしょう。おめでとうございます】
という文章から始まる手紙の様だ。
この文章、あのサイトの管理人と似た様な文体をしている。
【さて、いきなり本題に入らせて貰いますが、皆さんはこうお考えじゃないですか? どうやって魔導書を使えばいいのか、と】
「いきなり確信を突いてくるわね。まあ事実だけど」
まるでこちらの思考を読んだかのような内容に、私は少し薄気味悪さを感じてしまった。
【結論から言いますと、スキルを取得する方法は簡単です。魔導書を開き「習得」と口にするだけで、各魔導書に書かれているスキルを習得する事が出来ます】
……え、それだけ? たったそれだけでスキルとやらが習得出来るって言うの?
私は本当にそれだけで習得出来るかを試す為に、五冊の中から一つの魔導書を手に取ってみた。
表紙には「電撃魔法」の文字。
これを選んだのは、正直五冊の中でこれが一番確認しやすそうだからだ。
「さて、一体どうなるのかしら?」
私は電撃魔法の魔導書を開き「習得」と呟いてみた。
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