見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

二十八話

「どうかしたんですか?」

 俺がトレントの棍棒を気持ち悪いと言っているのを聞いたマリーが、俺に近寄ってきて。

「え、気持ち悪っ!」

 俺と全く同じ反応をしていた。
 うん、普通そうなるよな。当事者だからよく分かる。

「二人共、どうかし……え、気持ち悪っ!」

 そしてフーリもこの反応である。
 満場一致で「気持ち悪っ!」という評価になったトレントの棍棒だが、もう少しどうにかならなかったのか、このデザイン。

「……いや、こういうのは性能だ! 高性能な棍棒なら多少デザインがアレでも!」

 そう自分を鼓舞し、近くに試し殴り出来る物が無いか探してみた。
 周囲を見回してみると、すぐ近くに丁度いい大きさの岩があるじゃないか。まさに俺に殴られる為にあるかのようだ。

「カイトさん? 何を?」
「任せろ! この岩で試し殴りを!」

 俺は満場一致で「気持ち悪っ!」と言われたトレントの棍棒を振りかぶり、岩に向かって思いっきり叩きつけた。すると。

「ギィアアァァァァッ!」
「「「……」」」

 おどろおどろしい奇声を発しながら、あっさりと岩を砕いたトレントの棍棒。
 確かに性能は上がっている。賢者の森で岩を殴りつけた時は、砕く事は出来なかったが、今回はあっさり砕く事が出来た事からもそれは明らかだ。

 だが、最早それは些末な問題と言っても差し支えないだろう。

「不気味だな」
「不気味ですね」

 二人から辛辣な言葉が飛んでくるが、それも仕方がない。
 誰だって、あんな奇声を発する棍棒は不気味に思うだろう。俺だってそうだ。何が悲しくてこんな不気味な棍棒を持たなければならないのか。

 だが如何せん、性能は明らかに上がっている。下手するとオーガの金棒にも迫るかもしれない。これを使わない手はない。ないんだけど……。
 しばし考えた末、俺はトレントの棍棒をそっとストレージに仕舞った。

「「あっ」」

 二人の声が見事にハモる。

「ま、まあ、今の棍棒でも充分だろ! それに、いざという時はオーガの金棒もあるにはあるし。……折れてるけど。もしどうしてもダメそうなら、その時はあの棍棒を使おう!」

 正直使う機会が来ない事を祈るばかりだが。

「……そうですね。カイトさんには魔法もありますし、なによりストレージもありますしね。三層程度なら特に問題ないと思いますよ」
「だよな!」

 いやあ、マリーは本当に話が分かる!

「まあ、カイト君がそれでいいのなら、私は一向に構わないぞ。それより、そろそろミスリル探しを始めたいんだが?」
「あ、そうだな、ごめんごめん」

 トレントの棍棒の所為で、危うく当初の目的を忘れる所だった。

「それじゃあ気を取り直して、先へと進もう。ここから少し進んだ先に開けた場所があるから、とりあえず今日はそこで採掘をしてみよう」
「分かった、少し開けた場所だな」

 二人が先導するように先を歩き始めたので、俺もそのまま二人の後について行く。
 五分程歩くと、フーリの言う通り少しだけ開けた空間に出た。

「うん、ここだな。さて、では早速採掘を始めようか。確かこの辺に」

 フーリは壁面の一部に手を当て、パンパンと叩きながら何かを確認するように壁沿いに歩き。

「お、あったあった、ここだな」

 何かを見つけたのか、その壁面の一部をグッと押す様な仕草をした。
 何をしているんだと思ったが、俺の疑問は次の瞬間あっさりと解決した。

 フーリの手が壁にめり込んでいき、カチッと音がしたと思うと、壁の一部が「ゴゴゴゴッ」と音を立てながら横にスライドしていき、その中に隠し部屋が現れたのだ。

「ふおぉぉぉっ! すげぇ!」

 秘密基地みたいじゃん! やべぇ、忘れかけていた童心が刺激される!

「え、そんなにすごいですか?」
「そりゃすごいよ! こんな秘密基地みたいな部屋があるなんて!」

 隣のマリーが尋ねてきたので、俺は興奮を抑えきれないまま答え、隠し部屋の中に入ってみた。

 部屋の中はそれなりの広さがあり、沢山のツルハシとスコップがまとめて保管してあった。更に部屋の端の方には、床に魔法陣の様な物が描かれた場所がある。
 ……何だあれ?

「なあマリー、アレ何?」

 俺は魔法陣を指差しながらマリーに尋ねてみた。

「アレ? ああ、転移魔法陣の事ですか?」
「転移魔法陣?」

 何だか聞いた事がある単語が聞こえてきたぞ。転移っていう事は、あれを使えば入口までショートカット出来るとか?

「丁度いい、カイト君も魔法陣に登録しておくといい。次からは三層までの道のりをショートカット出来る上、入口まで一瞬で戻る事が出来るぞ」

 やっぱり、思った通りだ。
 こういうのは大体一定階層毎に設置されているのがお約束だ。これ以降の階層でも設置されているかもしれない。

「分かった。悪いけど、登録の仕方を教えてもらってもいいか?」

 流石にどうやれば魔法陣を使えるかまでは分からないから、素直にフーリに教えて貰おうと声をかけると。

「ああ、もちろんだ。着いて来てくれ」

 二つ返事で了承したフーリに連れられ、魔法陣のすぐ傍まで近寄った。

「手を出してくれ」
「ん? こうか?」

 フーリに言われ、右手を差し出すと、フーリは懐からナイフを一本取り出し、それを俺の手に近づけてきた。

「ちょちょ、ちょ、待った! 急に何するんだよ!」

 そのナイフで俺の手の指先を切ろうとしたので、慌てて手を引っ込めた。
 びっくりした! 俺何か恨まれるような事したか?

「あ、すまない。そういえば説明がまだだったな。実はこの魔法陣に血を垂らすのが、登録の条件なんだが、先に言っておくべきだった」
「え? あ、ああ。何だ、そういう事か。そういう事なら」

 フーリが申し訳なさそうな顔をして謝ってきたので、俺は慌てて右手を再度フーリに差し出した。

 理由が分かっていれば、別に何も言う事はない。ちょっと痛みはするだろうが、その程度だ。
 と、そこでふと気になった事があった。

「そういえばあの時……ちょっと待ってくれフーリ」

 俺は気になる事が出来、フーリに差し出していた手を引っ込めた。

「ん? どうかしたのか?」
「ああ、ちょっとな」

 昨日賢者の息吹で自分の指に串を突き立てた時、思った以上に力を入れすぎてそのまま貫通させてしまったんだった。
 今まで特に意識してなかったけど、実は俺の力って結構強くなっているのでは?

 そう思い、ストレージから串を取り出し、昨日と同じ様に自らの指に突き立てて、ほんの少しだけ力を込めてみた。
 すると、串は「プツッ」という感触と共に、指先に少しだけ刺さっていた。

 ……俺は今、かなり力を抜いていた。なのに、いくら指先に少し突き刺すだけといっても、こんなにあっさり刺さるものだろうか?

 考えられる理由としては、この木の串が想像以上の鋭さを持っているか、それとも俺の力が想像以上に強くなっているかだ。

 だが、どう見てもこれが特別な串には見えない。とすると、消去法で俺の力が強くなっているって事になるけど。

「カイト君? どうしたんだ? 急に黙り込んで」
「え? あ、いや、別に何でも」

 フーリに声をかけられ、俺は自分が思考の海に沈みこもうとしていたのに気が付いた。
 いかんいかん、今は目の前の事に集中しなくては。

「それより、これからどうすればいいんだ? もう魔法陣に血を垂らしてもいいのか?」
「ああ、もういいぞ。場所も魔法陣の上ならどこでもいい」

 その言葉を聞き、俺は早速指先から魔法陣に血を垂らしてみた。
 すると次の瞬間、魔法陣がパッと光り輝き、俺の体に光の粒子がまとわりついてきた。
 その光景を見て、俺はこの世界に転移してきた時の事を思い出した。

 あの時も全身に光の粒子がまとわりついてきたっけ? あの時と雰囲気も似ているし、もしかしたら女神様が俺を異世界に送った時に使っていた魔法と、この転移魔法陣は、根本的な部分は同じ原理なのかもしれないな。

 そんな事を考えていると、俺の体にまとわりつく光は徐々に霧散していき、やがて完全に消え去ると、魔法陣の輝きも失われていった。

「これで終わりか?」

 フーリに尋ねてみると。

「ああ、これで終わりだ。これで三層までは直接転移出来る様になった筈だ」

 と答えてくれた。
 転移の魔法陣か。早く使ってみたいな。
 そんな事をぼんやりと考えている時だった。

「だ、誰かぁ! 助けてぇ! 誰かぁ!!」
「「「っ!」」」

 隠し扉の向こう側から助けを求める男の悲鳴が俺達の耳に届いた。

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