見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

二十二話

「うおっ!」

 洞窟内に入ると、途端に周囲の景色が塗り替わった。
 入る前に外から見ていた時は薄暗い洞窟という印象だったのに、中に入った途端広く明るい空間が目の前に広がっていたのだ。

 まるで、洞窟の中と外で別の空間が繋がっているのではないかと思ってしまう程に。
 いや、実は本当に別の空間と繋がっていたのでは?

 なんせここは異世界。どんな非常識が起ころうとも「魔法」の一言で全て解決できてしまうのだ。
 異世界マジですげぇ。心の底からそう感じた瞬間だった。

「ん? どうかしましたか?」

 俺が呆気に取られていると、それに気付いたマリーが声をかけてきた。

「いや、何か凄いなと思ってさ」
「凄い?」
「ああ。だってここって、さっきまで見ていた洞窟の中だろ? 外から見た時と全然雰囲気が違うもんだからさ。異世界って凄いんだなって改めて思ってな」
「あー、なるほど。そういう事ですか」

 マリーは何か納得したのか、しきりに頷いている。

「そうか、カイト君は果ての洞窟は初めてだからな。その反応が普通か」

 ん? 何か気になる言い回しだな。

「どういう事? 果ての洞窟はって事は、この現象って果ての洞窟限定なのか?」
「はい、そうですよ。果ての洞窟の入り口には認識阻害の魔法が掛けられていて、外からはただの薄暗い洞窟に見える様になっているんですよ」
「そうなのか? でも、何で認識阻害なんて掛けられてるんだ?」

 ギルドの手が入っているなら、認識阻害もギルドが?
 でも、だとしたら何でそんな事をするんだ? 危険だからとか?
 だが、俺の推測とは裏腹に、二人からは予想外の返事が返ってきた。

「「さあ?」」

 さあ!? 今この二人「さあ?」って言ったか!?
 何で果ての洞窟だけそんな事になっているかとか、気になったりしないの?

「一応、何十年も昔から研究自体はされているんですけど、何で認識阻害が掛けられているかは、未だに解明できていないんですよ」
「あ、そうなの?」
「はい。今の国王様に代替わりしてからは、研究機関の規模自体が縮小されちゃったみたいで、ここ数年は研究もほとんど進んでないみたいです」
「今の国王様は実績至上主義らしくてな。いつまでも成果が出ない研究なんてする意味はない、と言われているらしい」

 えぇ、それはどうなんだ?
 確かに実績は大事かもしれないけど、世の中それだけじゃないと思うんだけど。
 まるで、ノルマ達成出来ないと降格や減給されるブラック企業みたいじゃないか。

 まあ俺は国王じゃなければ国の重鎮でもないし、どうでもいいと言えばどうでもいいんだけど。

「最近では、実績欲しさに王都の学者さんが、護衛の冒険者を雇って果ての洞窟に潜ったりしているみたいですよ」
「へえ、そうなんだ」

 やっぱりそういう事を考える人も出て来るよな。
 今はまだ縮小されただけで一応研究機関そのものは残ってるみたいだけど、いつ廃止されるか分からないという状況は、存外に焦りを生みやすいだろう。

 でも、そうか。だからなのかな。

「もしかして、果ての洞窟にギルドが明かりを設置しているのって」
「察しが良いな。カイト君が考えている通り、そういう学者達の為というのが一番の理由だ」

 やっぱりな。
 さっきから見ていると、洞窟内の色んな場所にランタンみたいな物が設置されていたり、明らかに商売人ですといった人がちらほらと見えている。

 いくら護衛を雇っているとはいえ、それだけで確実に安全とは言い難い。
 だからこそ、事故死なんかが出ない様に、ギルドが安全確保に努めているという事だろう。

「まあ、それでも魔物の数自体は減らせませんけどね。出来る事と言えば、精々が明かりの設置と、洞窟内の定期巡回ぐらいですしね」
「そうなのか?」

 もしかして、さっきからたまに見かける、騎士みたいな恰好をした人って、ギルドから派遣された巡回員だったりするのか?
 でも、だとしたら、明らかに冒険者には見えない行商人なんかは何なんだろう?

 直接ギルドから派遣された訳ではなさそうだけど。

「ええ、そうです。ちなみに行商人の人達はギルドから派遣された訳じゃありませんよ。あの人達は、最近果ての洞窟を訪れる学者さんや、護衛の冒険者を中心に商売をしようと考えて集まってきた行商人です」

 俺の考えている事が分かったのか、マリーが説明してくれた。
 いわゆるフリーの行商人という感じか。なんというか、こんな場所まで来るなんて、商魂逞しいな。

 確かに顧客の母数が増えているのなら、売り上げも比例して上がっても不思議ではないけど、だからと言ってこんな所まで個人で来るなんて。
 命がいくつあっても足りないんじゃないか?

 現に今だって、物影からこっちを伺うゴブリンの気配をひしひしと感じてるのに。
 洞窟に入ってからずっとフーリについて歩き続けているが、魔物の気配は奥に進めば進むほど増えている気がする

 こんな中で行商人達は商売をしているのか。
 護衛を雇っている者もいるが、中には護衛も雇わず一人で活動している人もいるが、よほど自分の腕に自信があるのだろうか?

「まあ、彼らの目的はあくまでこの洞窟の最下層だろうから、今の私達にはあまり関係ない話だ」
「最下層? 最下層に何かあるのか?」

 異世界のお約束と言えば貴重なレアアイテムなんかが眠っていたりするけど、ここにもそういう物があるとかか?

「何かが「ある」というより、何かが「あって欲しい」が正しいだろうな」
「……あ、そういう事か」

 つまり、実績を出す為に最下層に希望を賭けているって事か。
 悲しいなぁ。

「まあ仕方ないですね。学者さん達にとっては死活問題ですから」

 ……学者っていうのも大変なんだな。
 俺は哀れみの感情を向けるしかなかった。
 ブラック企業ダメ絶対。



「いたぞ、あれがオークだ」

 しばらく歩くと、少し先の方に二足歩行の豚の様な魔物が数匹まとまっていた。
 その見た目はまさしく俺の想像通りだった。ていうか、漫画なんかに出て来るオークそのままだ。

「カイトさん、獲物が来ましたよ!」

 獲物!? 今獲物って言ったマリー!?
 やっぱり二人にとってオークは魔物であると同時に食料でもあるのかな。

「それじゃあ私が切り込むから、カイト君とマリーは魔法で援護してくれ」

 フーリは言うが早いか、早速腰の剣を引き抜いていた。
 今回俺は後衛か。まあ後衛もこなしたいと思っていたし、丁度いい練習になるかもしれない。

「ああ、分かった」
「任せて!」

 と、返事をしたはいいけど、援護ってどうやればいいんだ?
 目潰しとかして視界を奪うとか?
 それかオークの足元を凍らせて固定してしまうとか。それとも背後から迫るオークの足止め?

 様々な思考が浮かんでくるが、とりあえず今は自分に出来る事を精一杯やるしかない。
 と、そうこうしていると、フーリが一番手前にいたオークの背後に接近し、横薙ぎに刃を一閃。その一撃でオークの首と胴体は真っ二つ。

 その刃が描く軌跡は、見る者全てを魅了しそうな程に美しいと思えた。

「すげぇ」

 語彙力が足りないと思うかもしれないが、ただただ凄いの一言に尽きる。それほどまでに見事な一撃だった。
 と、そこでフーリの背後から一匹のオークが近づいているのが目に入った。

 慌てて魔法を放とうとするが。

「させません!」

 それよりも早くマリーが杖を構え、オーク目掛けて複数の氷柱を飛ばしていた。
 突然背後から飛んできた氷柱にオークが反応出来る筈もなく、フーリの背後にいたオークはマリーの氷柱に全身を貫かれ、膝から音もなく崩れ落ちた。

 その光景を目撃し、ようやく自分たちが攻撃を受けている事に気が付いたらしい残りのオーク達が、フーリ目掛けて一斉に襲い掛かった。
 その手には刃渡り六十センチ程はありそうな剣鉈が握られている。

 それらが一斉にフーリに向かって振り下ろされる……が。

「遅い!」

 フーリは地面を軽く蹴って後方に跳ねる事でそれらを躱し、着地と同時にもう一度地面を蹴り、今度は右前方のオークとの間合いを一瞬で詰め、その首をまたも一撃で刎ねる。

「さあ、私の動きに着いて来れるか?」
「「「「「ブギイィィッ!」」」」」

 フーリが不敵に笑い、オークが雄叫びを上げ、戦闘が開始された。

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