見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

十四話

「よくやったマリエール!」
「これなら!」

 二人が凍り付いたスライム目掛けて飛び掛かり、その氷ごとスライムを砕かんと攻撃を加えようとして。

「私もそろそろ参戦しないとね」

 その声は、やたら鮮明に耳に届いた。
 それはスライムに攻撃を加えようとしていた二人も同じだったらしく一度ロザリーの方を見て、また攻撃を再開していた。

 ロザリーさんが何もない空間に手をかざすと、次の瞬間真っ赤な鞭がその手に握られていた。

「喰らいなさい!」

 それを凍ったままのスライムに向かって振るうと、氷の塊は一撃で粉々に砕け散った。
 うわ、マジか。威力えげつな! その鞭何で出来てんの? もう今のでスライム倒しちゃったんじゃない?

 そう考えていると、砕け散った氷からスライムの体が這い出てきて、一か所に集まり始めた。あ、これはもしかして。

「ちっ、やっぱり再生しやがるか」
「だが、サイズは僅かに小さくなった。これを延々と繰り返せば倒せない事はないだろうが」
「時間が掛かりすぎる上に、魔力と体力の消耗が激しいですね」
「流石にこれで倒すのはキツイよ」

 四人が一度集まってそんな会話をしていた。
 マジか。スライムって再生すんのか。厄介だな。
 それにしても。

「今のって、もしかしてアイテムボックスってやつか?」

 初めて見たので確信はないが、俺のストレージと似た様な感じだったし、間違いないだろう。
 ロザリーさんってアイテムボックス持ちだったのか。知らなかった。

「っと、俺はさっさと火魔法の準備をしないと」

 四人の戦闘に目を奪われ、つい自分の役目を忘れてしまう所だった。
 俺の役目はスライムを火魔法で焼き払う事だが……どうしよう。
 これ周囲に被害を与えずに倒すの難しくない?

 スライムを火魔法で焼き払うと、間違いなく周りに引火する。俺のストレージで燃えた物全部回収してもいいけど、もっといい方法はないものか。

 考える事数十秒。
 俺は妙案を思いついた。

「これなら、上手くいけば被害ゼロでスライムを倒せるかもしれない」

 あとはイメージの問題だが、とりあえず一つずつ使っていこう。
 まず、スライムを見えない壁で覆いつくすイメージで空間魔法を使用。
 っと、その前に。

「みんな、ちょっとスライムから離れてくれ!」

 俺が声をかけると、四人が俺に視線を向けた後、急いでスライムから距離をとっていた。

「準備出来たんだな! やれ!」

 ヴォルフが離れ様にそんな事を言ってきたが、生憎ヴォルフが考えている様な事とは少し違うだろう。

 俺は全員がスライムから離れたのを確認すると、空間魔法でスライムの周囲を覆いつくした。
 突然自分から離れていった四人を追いかけようと、スライムが広範囲に広がりながら飛び掛かろうとして、不可視の壁に阻まれる。

「「「「はい?」」」」

 そして四人全員が全く同じ反応をしていた。

「っ? ―― 」

 スライムは何が起こったのか分かっていない様で、何度も移動しようとしては不可視の壁に阻まれていた。

「よし、まずは第一段階成功っと」

 次に壁の内部にストレージを多重展開。そして。

「串マシンガン!」

 スライム目掛けて串マシンガンを放った。

「カイトさん? スライム相手にそれはあまり効果がありませんよ?」
「何をやっているんだカイト君? 火魔法を使うんじゃなかったのか?」
「うん、言いたい事は分かるから。まあ見てて」

 スライム相手に串マシンガンが効かない事など百も承知している。
 俺の目的は串マシンガンでスライムに攻撃する事ではなく、スライムの体内に大量の串を――というより大量の可燃物を送り込むことだ。

 よし、大分溜まったな。

「そんじゃあ最後に壁の中に木材を大量投入してっと。ついでにオークの血もぶっかけよう」

 最近分かったのだが、オークの血は可燃性で、よく燃えるのだという。それをスライムと木材にかければ……うわぁ、事件現場みたいな光景だ。

 ま、まあ、なにはともあれ、これで準備完了だ。
 俺がやろうとしている事が分かったのか、四人が表情を引き攣らせた。
 いや、これが一番確実だと思うけど。

 俺はストレージ内に収納したままだった火を壁の内部に射出した。
 それは元々あった木と、追加で送り込んだ木材、それとオークの血に引火し、数分ほどで壁の内側は火の海と化した。

 突然現れた大量の炎。それから逃れようとスライムは動き回るが、不可視の壁がスライムを取り囲んでいるせいでそれは叶わない。
 やがて炎はスライムを焼き始め、体内にあった串にまで引火し始めた。

 流石にあの量の串を消化しきるのには時間がかかるのだろう。体内の串は、ほとんどが消化されずに残ったままだった。
 その串に引火するとどうなるか。結果は見ての通りだ。

 スライムは壁の中で成す術なく、体の外と中を同時に炎に焼かれ、やがて完全に燃え尽きてしまった。
 念の為、壁の内側にある物を全てストレージで回収し、空間魔法を解除した。

 ふっ。

「またつまらぬ物を焼いてしまった」
「お前……まあいいか。とりあえずスライムは倒せたみたいだからな。結果オーライって奴だ。カイ……いや、何でもねえ」

 ヴォルフが何か言いかけたが、途中で言葉を切ると、スライムを燃やした跡地まで歩いて行った。
 いや、そこは最後まで言えよ。気になるじゃん。

「すみませんカイトさん。ヴォルフは多分照れているだけなんです」
「照れている?」

 歩いていくヴォルフを見ていると、入れ替わる様にロザリーさんが近くまで来てそんな事を言うが、何に照れているっていうんだ?

「実はカイトさんがシンを倒してから、ヴォルフはずっとカイトさんの事を名前で呼ぼうとしていたんです」
「へ? 名前?」

 何でそんな事を? 確かに途中ヴォルフが珍しく俺の事を名前で呼んでるなって思いはしたけど、それで何で照れる必要が?

「ヴォルフってカイトさんが思っている以上に子供っぽいんですよ。だから「名前で呼ぶ」ただそれだけの事で変に身構えちゃうんですよね」
「はあ、そうなんですか」

 そんなもんかね? 名前ぐらい好きに呼べばいいだろうに。
 確かにあまりいい出会いじゃなかったし、その時の流れで未だにルーキーって呼んでいたのは確かなんだろうけどさ。

「だから、あまりツッコまないであげて下さい」
「まあ、そういう事なら」

 ヴォルフも変に何か言われるのも嫌だろうし、そんな事するつもりもないけど。

「おいロザリー! お前も早く来いよ!」
「うん、今行く! それじゃあカイトさん、お先に」

 それだけ言い残し、ヴォルフの元に駆け寄っていくロザリーさん。
 心なしか、いつもより少し機嫌が良さそうに見えるが、ロザリーさんに何かあったのだろうか?

「カイトさん、私達も行きましょうか」
「ん? ああ、そうだな」

 ロザリーさんが駆けて行くのを見て、マリーが俺に声をかけてきたので、俺もマリーと一緒にヴォルフ達の元へと歩き出した。

 フーリも一緒に、と言おうとしたが、フーリは既にヴォルフ達と一緒にいた。いつの間に。

「それにしてもマリー。さっきの魔法、凄かったな」
「え? 何がですか?」

 マリーはコテンと小首を傾げ、よく分からないといった表情をしていた。マリーってこういうのを狙ってやっている訳じゃないんだよな。

「いや、さっきのスライムを凍らせた魔法」
「ああ、あれですか。別に大した事ありませんよ」

 マリーは何でもない事の様に言うが、本当にそうだろうか?
 俺にはアレが大した事の様に思えて仕方ないんだけど。

「あれぐらいなら簡単に使えますよ? あまり広範囲に使うと魔力消費が激しくなるので、そこがあの魔法の課題ではありますけど」

 そういうマリーは、本当に簡単そうに言ってのけた。
 簡単に出来ると断言出来るぐらいには魔法の練習をしたんだろうな。

「私はそれよりも、カイトさんの魔法の方がすごいと思いますけどね」
「俺の?」

 それこそ何でだ? 俺は別に大した事はしてないぞ?
 ちょっとスライムを閉じ込めて燃やし尽くしたぐらいだし。

「カイトさんの場合、魔法の使い方がすごいんですよ。発想力が違う、とでも言えばいいんでしょうか?」
「発想力?」
「はい、発想力です」

 はっきりと断言されてしまった。
 と言っても、そんなに変わった使い方をした覚えは「人間ロケット」以外本当に無い。
 マリーの買い被り過ぎじゃないだろうか?

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