見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

四十一話

「それでは、カイト君の回復を祝って」
「「「カンパーイ」」」
「か、乾杯」

 フーリの音頭で乾杯し、各々グラスに口をつける。
 今まで誰かを祝って乾杯した事なら何度もあるが、自分が乾杯される立場になるのは何気に初めてだったりする。

 なんか気恥ずかしいな、これ。
 あ、ちなみに俺はお茶にしておいた。何しろ三日間何も食べていなかったのだ。いきなり酒をぶち込まれたら、俺の鋼の胃袋も流石にびっくりするだろう。


「さあ、じゃんじゃん食べて下さい! 今日のお代は結構ですから!」
「ほう、気前がいいなアミィ。それじゃあ遠慮なく」

 そしてアミィも一緒になって飯を食べている。
 もう閉店時間で客もいないので、折角だから一緒に食べないかと誘ってみたら「いいんですか!? じゃあお言葉に甘えて!」と、喜んで誘いに乗ってくれた。

 うん、やっぱり飯はみんなで食べた方が旨いからな。
 ちなみにアミィは酒ではなくジュースのようだ。いくら飲酒年齢が低いこの世界でも、流石にアミィぐらいの年の子の飲酒はダメなんだろう。

「それにしても、お兄ちゃんが目を覚まして本当に良かった。一時はどうなる事かと気が気じゃなかったんだから」
「いやいや、そんな大げさな」
「大げさじゃないですよ、カイトさん」
「え?」

 アミィが大げさに言ってるだけかと思ったんだけど、違うのか?
 ……え、何? もしかして俺って結構危なかったの?
 確かにあの時は自分でも死んだと思ったけど。

「初日なんて特に酷かったんですよ。一応呼吸はしてたので、生きているのは分かってたんですよ。でも、顔からは血の気が引いていて、呼吸も浅く、今にも死んでしまいそうな感じだったんですから」

 マリーの話を聞いていると、確かに危なそうだ。アミィが「気が気じゃなかった」というのにも頷ける。ていうか、よく生きてたな俺。
 シャキッ。お、このサラダ旨いな。

「カイトさん、真面目に聞いてますか?」
「ん? うん、聞いてるけど」
「本当ですか?」

 マリーが疑いの目を向けてくるが、別に嘘は言ってない。
 ただ、空腹は待ってくれないので、手は動かし続けてるけど。お、これブルーベアーの串焼きか。ここ串焼きもあったんだな。

 え? そんなの食べて、胃は大丈夫かって? 旨い飯が体に悪い訳ないのでノーカウント。問題なし!

「はあ、まあいいですけど。それよりカイトさん。このオイ椎茸とブルーベアーの炒め物もおいしいですよ」
「どれどれ。お! 本当だ、旨い!」

 オイ椎茸のシャキシャキ感と、ブルーベアーの肉の旨味が一体となって、絶妙な味わいになってる。
 これは酒が進むだろうな。飲まないけど。

「カイト君。誘った私が言うのもなんだが、いきなりそんなに食べて大丈夫か? もっと軽い物の方が良いんじゃないか?」

 俺の胃を気遣ってか、フーリが俺に「無理はするな」と暗に伝えてくる。だが、そんな心配、俺には不要だ。

「俺、今まで食べ物で腹を壊した事ないんだ。流石に酒は自重するけど」

 酒は無理に飲むと本当に危ないからな。こういう時は飲まない方がいいだろう。

「まあ、カイト君がそう言うなら良いのだが」
「そうだよ姉さん。おいしい物が体に悪い訳ないって」

 お、マリーはよく分かってるな。病気の時ほど栄養をとれって言うしな。

「ねえ、お兄ちゃん?」
「ん? 何だアミィ?」

 それまで大人しく料理を食べていたアミィが、俺の服を引っ張りながら遠慮がちに声をかけてきた。普段元気一杯のアミィにしては珍しい。

「その、お願いがあるんだけど」

 そう言ってアミィは懐から何か取り出し、俺に差し出してきた。
 何かと思って見てみると、それは俺がこの前あげた髪飾りだった。

「まだ一人じゃ上手く付けられなくて。またお兄ちゃんに付けて欲しいなって」
「なんだそんな事か。ほら、貸してみろ」
「――っ。うん、お願い!」

 アミィから髪飾りを受け取り、それを髪に付けてやる。
 アミィの髪ってすごくさらさらしてて、まとめやすいんだよな。
 そういえば妹――光の髪もまとめやすかったっけ?

「あ、あのアミィが」
「いつの間に……」
「ん? 何か言ったか?」

 声が小さ過ぎて上手く聞き取れなかったんだけど。

「「別に」」
「? そうか?」

 変な二人だな。
 アミィに聞いてみようかとも思ったが、気持ちよさそうに目を細めていて、とても聞いていたとは思えない。

 ……まあいいか。

「さ、終わったぞ」

 アミィの頭をポンポンと叩き、付け終わった事を教えてやる。

「えへへ。ありがとう、お兄ちゃん!」

 花の咲いた様な満面の笑み。いつもながら、見る人を元気にする笑顔だな。

「随分アミィと仲良くなったんだな、カイト君」
「本当ですね。一体いつの間に?」

 ……ん? 気の所為か、少し不機嫌っぽいような。……いや、気の所為か。

「えへへ―、それはですねー」
「二人が賢者の森に行った日に、表通りで綺麗な髪飾りを見つけてな。アミィにお土産にと思ってプレゼントしたんだ。多分その時からかな。あ、二人の分ももちろんあるぞ」

 ストレージから二つの髪飾りを取り出して二人に手渡す。

「はい、フーリとマリーの分」

 フーリには燃える様な赤。マリーには透き通るような青。
 二人共気に入ってくれるといいんだけど。

「え? あ、ありがとう」
「私達にも用意してたんですね」

 二人は、まさか自分達にも用意しあるとは思っていなかったのか、面食らっているみたいだ。流石にアミィに用意して、二人の分は無いとかないから。
 二人は俺に一言お礼を言うと、早速髪に付けてくれた。

「どうだろう。私なんかに似合うだろうか?」
「いやいや、良く似合ってるって」

 フーリは綺麗な金髪と燃える様な真っ赤な瞳、更に爆炎を使うから、俺の中のイメージカラーは赤だったんだが、想像以上に似合っていた。

 ルビーの様な輝きを放つ髪飾りは、フーリの金髪の影響からか、一層輝きが増して見える。

「そ、そうか。ありがとう」

 フーリはそれだけ言うと、黙り込んでしまった。

「カイトさん、私はどうですか?」
「うん、マリーも似合ってる。白とどっちがいいか悩んだんだけど、やっぱり青の方が似合うな」

 マリーって、薄い青のロングヘアーに青い瞳をしていて、服も青を主体としたもの着ているせいか、イメージする色は絶対青なんだよな。この間のブローチも青色だったし。

 だからあえて白とかの方が、全体を引き立てるかとも思ったけど、むしろここまでくると、いっそ青で統一した方がいいかと思ってのチョイスだった。結果は見ての通り、大正解。うん、やっぱりマリーには、澄んだ青が良く似合う。

「へえ、カイトさんって、意外とそういうの考えてるんですね。男の子って、こういうのは苦手かと思ってました。」
「一応、それなりにはな」

 まあ、俺の場合、妹の世話をしてたから、というのもあるだろう。いつの間にか、自然と身に付いていたスキルという奴だ。

 二人は互いに向き合い、お互いの髪飾りを見せ合っている。うん、気に入って貰えたようで何より。
 すると、髪飾りを付けて機嫌が良さそうなアミィが、俺の傍まで近寄ってきた。

「二人は赤と青の髪飾りなんだね。二人が使う魔法は火と水だし、イメージもピッタリ!」
「お、やっぱりアミィもそう思うか?」
「うん! でも、やっぱりいいなあ」
「何がだ?」

 もしかして、ピンクより赤とか青の方が良いとか? 一応青ならまだ残ってるんだけど。

「私も魔法、使ってみたいなって。憧れなんだよね」
「そうなのか?」

 知らなかった。アミィって魔法に憧れてたのか。でも、憧れてるって事は、魔法系のスキルを持っていないって事だよな?

「そうなの。魔法って、どう使うかイメージして、魔力を籠めると使えるんだよね?」
「そうだな。魔法というか、スキル全般そうだって聞いたけど」

 どういう原理でスキルが発動しているかは分からないが、事実それで使える。
 まあ、今はそれで問題ないからいいけど、いつかはそういうのも理解出来たらと思っている。

「いいなぁ。私、火魔法に憧れてるんだ! 一度でいいから使ってみたいなぁ。こうやって、火の玉を頭に思い浮かべて……えい!」

 アミィが右手を突き出し、両目を瞑って気合を入れる様な声を出す。すると「ボッ」という短い破裂音と共に、火の玉が手の平の先から飛び出した。
 火の玉はそのまま真っ直ぐ飛んでいき、テーブルにぶつかると「ゴウッ」っと燃え上がった。
 …………おや?

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