見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
二十六話
「そうだ。宿に戻る前に、少し寄り道しましょうか」
「寄り道?」
「はい。カイトさんって、まだ「表通り」に行った事なかったですよね? 表通りは別名、屋台街って呼ばれてて、色んなお店があるんですよ」
「へえ、そうなのか」
屋台街か。日本には屋台街なんてなかったから、すごく興味あるな。もしかしたら食べ歩きなんかも出来るかも。
「そうだな。報酬も入った事だし、もしよかったら案内して貰えるか?」
「はい、任せて下さい!」
笑顔で張り切るマリーは、すっと俺の右手を握り、表通りまで手を引きながら案内してくれた。
マリーってたまに無意識にドキッとする行動をするよな。本人に自覚があるのか分からないけど。
「ここが表通りです!」
マリーに案内されて訪れたそこは、一言で言うと祭り会場の様な場所だった。
大通りの両側にズラッと設置された沢山の屋台には、肉の串焼きやパン、野菜や果物等の食べ物を売ってる店。
宝石やアクセサリー類などを売ってる貴金属店。
珍しい服や布、本、果ては怪しげな店まで、多種多様な屋台が並んでいる
通りを行きかう人の量はそれなりで、活気がここまで伝わってくる。これが屋台街。確かに、ここなら色んな店がありそうだ。
俺とマリーはそのまま通りを歩きながら、ちょこちょこと屋台を覗いていく。
「すげえ。屋台街なんて初めて見たけど、結構賑わってるんだな」
「そうですね。この街は辺境にありますけど、賢者の森や果ての洞窟もありますし、賢者ペコライのおとぎ話の舞台でもありますからね。自然と冒険者が集まってきます。それで、冒険者向けに商売をする人たちが集まってきて、その家族の人達が移り住んできて、人が増えればお店も増えて、いつでも移動できる様に屋台で商売する人が増えて、それがいつの間にかこんなに発展して、今ではかなりの数の住人がいるんですよ」
へえ、なるほど。つまりこの街は、冒険者を中心に発展した街、という認識で間違いないだろう。
「本当に色んな屋台があるな。これは、何の串焼きだろう?」
「それはブルーベアーの串焼きだ。今なら焼きたて! 一本銅貨五枚だよ!」
ブルーベアー? それって確か魔物だったよな? 果たして旨いのだろうか?
……ええい、ままよ!
「おっちゃん、二本くれ」
「あいよ、毎度!」
大銅貨一枚を取り出し、おっちゃんに手渡して、代わりに二本の串焼きを受け取る。
一本は自分用。もう一本は。
「はい、マリー」
「え? いいんですか?」
「ああ、俺のおごりだ」
串焼き一本ぐらいなら安いものだ。
「ありがとうございます」
俺から串焼きを受け取り、早速齧り付くマリー。その姿は年相応の少女のものだった。
それを見て、俺も串焼きに齧り付く。
……旨いなコレ。噛めば噛むほど肉汁が溢れてくる。まあ流石に不味かったら売れてないか。
さっきの店を見ると、定期的にお客さんが訪れては数本、または数十本購入している様だった。その中には冒険者ギルドで見かけた顔ぶれもちらほら見える。そういえば。
「なあ、マリーっていくつの時に冒険者になったんだ?」
「んく。私ですか? 私は十二歳の時に冒険者になりましたけど」
俺の問いかけに、マリーは口の中の肉を飲み込んでから答えてくれた。
十二歳。日本ならまだギリギリ小学生の年齢だ。そんな歳から冒険者として魔物と戦ってたのか。
「姉さんと二人でこの街まで来て、冒険者登録をして、それから色んな人の力を借りて、四年かけてようやくBランク冒険者になる事が出来たんです」
昔を懐かしむ様に遠い目をするマリー。恐らく俺の想像を超える苦労があったのは間違いないだろう。
まだまだ子供といっても差し支えない年齢なのに。
「カイトさんも、これから色々あると思いますけど、一緒に頑張っていきましょうね!」
「……ああ、そうだな。俺も頑張らないとな」
そうだ。俺はこれから、この世界で生きていくんだ。一度は失った命。だったら死に物狂いでもなんでもいい。この世界で、後悔のない様に生きていこう。
そう決意を新たに、俺は一歩前へ踏み出した。
「あ、これかわいい」
とある屋台の前で足を止めてマリーが手にしたのは、青い雫型の小さなブローチだった。
マリーの青い瞳に負けず劣らず、澄んだ青色のブローチは、マリーにとても似合いそうだった。
「すみません、これいくらですか?」
「はいはい、どれですか?」
マリーの声に応えたのは、鬼のお面を被った、怪しげな男だった。ええ、これが店主なのか?
隣を見てみると、マリーも同じ事を思ったのか、苦笑いを浮かべている。
「ああ、これですね。これは別名「月の雫」とも言われるブローチで、大変珍しい品ですよ。なんせ月から零れた涙と言われるぐらいですからね。少々値は張りますが、とても良い品ですよ」
なんとも胡散臭い話だと思うが、不思議と嘘を吐いている様には感じなかった。
「ところで、お隣の彼はあなたの恋人ですか?」
「こ、こいっ!?」
「ぶっ!」
店主の突然の爆弾発言に、マリーは顔を真っ赤にして声を上擦らせ、俺は食べていた串焼きを思わず吹き出してしまった。
ヤバい、と思ったが、それは店主にかかる直前、ふっと空中で消えてしまった。
……え?
「あの、今……」
「ご、誤解です! 私達は同じパーティの仲間であって、別に恋人同士とかじゃありません!」
俺は今の現象について店主に尋ねようとしたが、それは動揺したマリーの弁明によって搔き消されてしまった。
「いえいえ、照れなくていいのですよ。全て分かってますから。全て、ね」
「だから、違うんです!」
動揺したマリーは気付いていない様だったが、さっきのは多分。
「そこの御方、こちらのお嬢さんにこのブローチをプレゼントしてはいかがですか? ここは男の甲斐性の見せ時ですよ」
店主がブローチを手に持ち、俺に差し出しながら提案してきた。
マリーには昨日から世話になってるし、報酬も出た。
何より、さっきからこの店主が意味ありげな視線を送ってくるんだよな。鬼のお面付けてるけど。
「ちなみに、いくらですか?」
「カイトさん!?」
真っ赤な顔で驚くマリー。いや、俺だって恥ずかしかったよ、さっきまでは。
でもあんなものを見せられたらな。
「そうですね。こちらは大変珍しい品になりますので」
そう言いながらも、何かを見定める様な視線を俺に向けてくる。
マリーは両手を頬に当て、あわあわしている。いや、何このかわいい生き物。
「そうですね、今回は特別大サービス! 金貨一枚でお売りしましょう!」
金貨一枚か。報酬額から考えればそこまで痛い出費じゃないな。
「買います」
「ちょっ、カイトさん!? そんなのダメですよ!」
慌てて止めに入るマリーだが、俺はそれをやんわり制止する。
「いいんだ。マリーには昨日から色々助けて貰ってるし、これはほんのお礼だから。受け取ってくれると嬉しいんだけど」
出来るだけマリーが断りにくそうな言葉を選びながら。
「うぅ、そういう風に言われると、断れないじゃないですか」
店主に金貨を手渡し、ブローチを受け取ってマリーに手渡した。
「ありがとうございます。大切にしますね」
「――っ」
まだ赤く染まったままの笑顔でお礼を言われ、思わず言葉に詰まってしまう。
その笑顔は、つい魅入ってしまう程の愛らしさを感じるものだった。
「早速付けてみますね」
マリーは自分の服にブローチを付けようと、鎖骨の辺りに手をかけ。
「それでは、またお会いしましょう。ストレージ使いの、近衛海斗さん」
「っ!? 何故、」
それを、という言葉は店主には届かなかった。店主がいた屋台の方に振り向くと、そこは既にもぬけの殻で、誰もいなかったからだ。
「どうですか、カイトさん! 似合いますか?」
「え? あ、ああ。似合ってるよ、すごく」
「えへっ、ありがとうございます!」
マリーにプレゼントしたブローチは、まるで彼女の為に作られたかの様に馴染んでいて、とても似合っていた。
「あれ、さっきの店主さんはどこに?」
「ああ、それが急にいなくなってて」
そんなに長い時間目を離した訳じゃなかった。ほんの一瞬。刹那の時間目を離した隙に消えていたのだ。
それにあの店主は俺の名字も知っていたし、何よりこう言ったのだ。
ストレージ使いの、と。そんなの、気になるに決まってる。
こうしてマリーとの楽しい寄り道は、言い様のない不安を残して終わりを迎えた。
「寄り道?」
「はい。カイトさんって、まだ「表通り」に行った事なかったですよね? 表通りは別名、屋台街って呼ばれてて、色んなお店があるんですよ」
「へえ、そうなのか」
屋台街か。日本には屋台街なんてなかったから、すごく興味あるな。もしかしたら食べ歩きなんかも出来るかも。
「そうだな。報酬も入った事だし、もしよかったら案内して貰えるか?」
「はい、任せて下さい!」
笑顔で張り切るマリーは、すっと俺の右手を握り、表通りまで手を引きながら案内してくれた。
マリーってたまに無意識にドキッとする行動をするよな。本人に自覚があるのか分からないけど。
「ここが表通りです!」
マリーに案内されて訪れたそこは、一言で言うと祭り会場の様な場所だった。
大通りの両側にズラッと設置された沢山の屋台には、肉の串焼きやパン、野菜や果物等の食べ物を売ってる店。
宝石やアクセサリー類などを売ってる貴金属店。
珍しい服や布、本、果ては怪しげな店まで、多種多様な屋台が並んでいる
通りを行きかう人の量はそれなりで、活気がここまで伝わってくる。これが屋台街。確かに、ここなら色んな店がありそうだ。
俺とマリーはそのまま通りを歩きながら、ちょこちょこと屋台を覗いていく。
「すげえ。屋台街なんて初めて見たけど、結構賑わってるんだな」
「そうですね。この街は辺境にありますけど、賢者の森や果ての洞窟もありますし、賢者ペコライのおとぎ話の舞台でもありますからね。自然と冒険者が集まってきます。それで、冒険者向けに商売をする人たちが集まってきて、その家族の人達が移り住んできて、人が増えればお店も増えて、いつでも移動できる様に屋台で商売する人が増えて、それがいつの間にかこんなに発展して、今ではかなりの数の住人がいるんですよ」
へえ、なるほど。つまりこの街は、冒険者を中心に発展した街、という認識で間違いないだろう。
「本当に色んな屋台があるな。これは、何の串焼きだろう?」
「それはブルーベアーの串焼きだ。今なら焼きたて! 一本銅貨五枚だよ!」
ブルーベアー? それって確か魔物だったよな? 果たして旨いのだろうか?
……ええい、ままよ!
「おっちゃん、二本くれ」
「あいよ、毎度!」
大銅貨一枚を取り出し、おっちゃんに手渡して、代わりに二本の串焼きを受け取る。
一本は自分用。もう一本は。
「はい、マリー」
「え? いいんですか?」
「ああ、俺のおごりだ」
串焼き一本ぐらいなら安いものだ。
「ありがとうございます」
俺から串焼きを受け取り、早速齧り付くマリー。その姿は年相応の少女のものだった。
それを見て、俺も串焼きに齧り付く。
……旨いなコレ。噛めば噛むほど肉汁が溢れてくる。まあ流石に不味かったら売れてないか。
さっきの店を見ると、定期的にお客さんが訪れては数本、または数十本購入している様だった。その中には冒険者ギルドで見かけた顔ぶれもちらほら見える。そういえば。
「なあ、マリーっていくつの時に冒険者になったんだ?」
「んく。私ですか? 私は十二歳の時に冒険者になりましたけど」
俺の問いかけに、マリーは口の中の肉を飲み込んでから答えてくれた。
十二歳。日本ならまだギリギリ小学生の年齢だ。そんな歳から冒険者として魔物と戦ってたのか。
「姉さんと二人でこの街まで来て、冒険者登録をして、それから色んな人の力を借りて、四年かけてようやくBランク冒険者になる事が出来たんです」
昔を懐かしむ様に遠い目をするマリー。恐らく俺の想像を超える苦労があったのは間違いないだろう。
まだまだ子供といっても差し支えない年齢なのに。
「カイトさんも、これから色々あると思いますけど、一緒に頑張っていきましょうね!」
「……ああ、そうだな。俺も頑張らないとな」
そうだ。俺はこれから、この世界で生きていくんだ。一度は失った命。だったら死に物狂いでもなんでもいい。この世界で、後悔のない様に生きていこう。
そう決意を新たに、俺は一歩前へ踏み出した。
「あ、これかわいい」
とある屋台の前で足を止めてマリーが手にしたのは、青い雫型の小さなブローチだった。
マリーの青い瞳に負けず劣らず、澄んだ青色のブローチは、マリーにとても似合いそうだった。
「すみません、これいくらですか?」
「はいはい、どれですか?」
マリーの声に応えたのは、鬼のお面を被った、怪しげな男だった。ええ、これが店主なのか?
隣を見てみると、マリーも同じ事を思ったのか、苦笑いを浮かべている。
「ああ、これですね。これは別名「月の雫」とも言われるブローチで、大変珍しい品ですよ。なんせ月から零れた涙と言われるぐらいですからね。少々値は張りますが、とても良い品ですよ」
なんとも胡散臭い話だと思うが、不思議と嘘を吐いている様には感じなかった。
「ところで、お隣の彼はあなたの恋人ですか?」
「こ、こいっ!?」
「ぶっ!」
店主の突然の爆弾発言に、マリーは顔を真っ赤にして声を上擦らせ、俺は食べていた串焼きを思わず吹き出してしまった。
ヤバい、と思ったが、それは店主にかかる直前、ふっと空中で消えてしまった。
……え?
「あの、今……」
「ご、誤解です! 私達は同じパーティの仲間であって、別に恋人同士とかじゃありません!」
俺は今の現象について店主に尋ねようとしたが、それは動揺したマリーの弁明によって搔き消されてしまった。
「いえいえ、照れなくていいのですよ。全て分かってますから。全て、ね」
「だから、違うんです!」
動揺したマリーは気付いていない様だったが、さっきのは多分。
「そこの御方、こちらのお嬢さんにこのブローチをプレゼントしてはいかがですか? ここは男の甲斐性の見せ時ですよ」
店主がブローチを手に持ち、俺に差し出しながら提案してきた。
マリーには昨日から世話になってるし、報酬も出た。
何より、さっきからこの店主が意味ありげな視線を送ってくるんだよな。鬼のお面付けてるけど。
「ちなみに、いくらですか?」
「カイトさん!?」
真っ赤な顔で驚くマリー。いや、俺だって恥ずかしかったよ、さっきまでは。
でもあんなものを見せられたらな。
「そうですね。こちらは大変珍しい品になりますので」
そう言いながらも、何かを見定める様な視線を俺に向けてくる。
マリーは両手を頬に当て、あわあわしている。いや、何このかわいい生き物。
「そうですね、今回は特別大サービス! 金貨一枚でお売りしましょう!」
金貨一枚か。報酬額から考えればそこまで痛い出費じゃないな。
「買います」
「ちょっ、カイトさん!? そんなのダメですよ!」
慌てて止めに入るマリーだが、俺はそれをやんわり制止する。
「いいんだ。マリーには昨日から色々助けて貰ってるし、これはほんのお礼だから。受け取ってくれると嬉しいんだけど」
出来るだけマリーが断りにくそうな言葉を選びながら。
「うぅ、そういう風に言われると、断れないじゃないですか」
店主に金貨を手渡し、ブローチを受け取ってマリーに手渡した。
「ありがとうございます。大切にしますね」
「――っ」
まだ赤く染まったままの笑顔でお礼を言われ、思わず言葉に詰まってしまう。
その笑顔は、つい魅入ってしまう程の愛らしさを感じるものだった。
「早速付けてみますね」
マリーは自分の服にブローチを付けようと、鎖骨の辺りに手をかけ。
「それでは、またお会いしましょう。ストレージ使いの、近衛海斗さん」
「っ!? 何故、」
それを、という言葉は店主には届かなかった。店主がいた屋台の方に振り向くと、そこは既にもぬけの殻で、誰もいなかったからだ。
「どうですか、カイトさん! 似合いますか?」
「え? あ、ああ。似合ってるよ、すごく」
「えへっ、ありがとうございます!」
マリーにプレゼントしたブローチは、まるで彼女の為に作られたかの様に馴染んでいて、とても似合っていた。
「あれ、さっきの店主さんはどこに?」
「ああ、それが急にいなくなってて」
そんなに長い時間目を離した訳じゃなかった。ほんの一瞬。刹那の時間目を離した隙に消えていたのだ。
それにあの店主は俺の名字も知っていたし、何よりこう言ったのだ。
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