見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~
二十二話
マリーの話だと、魔核は魔導具を作るのに必須らしいけど、肝心の魔導具が何なのかを何も知らないんだよな。
「カイトさん! 今オーガの魔核って言いましたか!?」
「え? あ、ああ、言ったけど」
興奮気味に身を乗り出してくるマリー。いや、距離が近いって!
「あ、すみません。つい興奮しちゃって」
「い、いや、気にしないでいい」
若干声が裏返ってしまった。
「オーガの魔核を使った魔導具は人気があるので、なかなか市場に出回らない上に、高いんですよ」
「なあ、さっき聞きそびれたんだけど、その魔導具って一体何なんだ?」
「あれ? 説明してませんでしたか?」
「ああ。して貰ってないな」
さっきは魔導具よりも、魔核と魔石の価値の差の方が気になってしまったから、魔導具が何なのかはさっぱりだ。
「魔導具というのは、魔核を組み込んで使う道具の事だ。それを使うと、魔核に込められているスキルを自由に使う事が出来るようになる」
「へえ、魔核のスキルを」
なるほど、つまりアレだ。魔導具っていうのは、一種のブースターの様な物って事か……いや、違うか?
「オーガの魔核には「剛力」のスキルが付与されてる。となると、当然魔導具にも剛力が付与される訳だが、この剛力というスキル。大抵の前衛が欲しがるぐらい、汎用性が高いスキルでな。当然その核となる魔核の価値も高くなる」
多分「剛力」は読んで字の如く、力が強くなるスキルなのだろう。確かに、それは前衛なら欲しがって当然だろう。
分かりやすく、扱いやすいスキルなのだろうし。
「良かったね、姉さん! オーガの魔核、ずっと欲しいって言ってたもんね!」
で、どうやらそれはフーリも同じらしい。だからマリーはこんなに興奮しているのか。
だが、肝心のフーリはそれほど喜んでいる様に見えないけど。
「そうだな、マリー。だが、この魔核はギルドに買い取って貰おう」
「え――そんな、どうして!? 折角手に入ったのに!」
「パーティの報酬は全員で分配。それが冒険者の基本だ。そしてこれには素材も含まれている。つまりこれは私達全員の物という事になる。私が独り占めする訳にはいかないよ」
つまりフーリは「全員の物だから、自分の物には出来ない」って言いたいのか。
真面目だな、フーリは。オーガを倒したのはフーリなんだから、そんなの気にしなくてもいいのに。
と、そんな事を考えていると、突然マリーが俺に向かって頭を下げてきた。
「カイトさん、お願いします! このオーガの魔核を姉さんに譲って下さい!」
「いいよ」
「おいマリー、無茶を言うな。今日の成果の中にこれと釣り合う……何だと?」
俺は二つ返事で応えた。だって俺はオーガと戦ってすらいないし、別に魔核が欲しいとも思っていない。
俺は魔石さえあれば充分なんだから。だってストレージでスキルを習得出来る訳だし。
「あの、お願いした私が言うのもなんですけど、本当にいいんですか? これを売れば金貨五十枚はくだりませんよ?」
「うん、別にいいよ。俺には必要ない物だし。オーガだって、倒したのはフーリだ。むしろ当然の権利じゃない?」
「あ、ありがとうございます! カイトさん!」
またもマリーに大きく頭を下げられる。うーん、そこまで言われると、なんだかむず痒いな。それに、悪い事をしてる訳じゃないのに、若干罪悪感も湧いてくる。
「だが、本当にいいのか? それではあまりにも私の取り分が大きくなりすぎるのだが?」
「いいって、別に。二人には昨日から何かと世話になってるし、気にしないでくれ」
森を抜けられたのも、ギルドに登録出来たのもマリーのおかげだし、今朝はフーリがあのヴォルフとかいう冒険者を止めてくれなかったら、どうなっていた事か。
今だって、戦闘の訓練を手伝ってくれたのだし、むしろお礼を言うのは俺の方だ。
「だが、やはりそれでは……何か私に出来る事はないか?」
「そんなに気にしなくても――あ、そうだ」
「何だ? 私に出来る事なら何でも言ってくれ!」
何でもって……女の子がそんな事軽々しく言っちゃダメだろ。
「今日手に入った魔石なんだけど、いくつか俺に譲ってくれない?」
今日手に入った魔石は、ホーンラビット、ゴブリン、そしてオーガの魔石の三種類だ。
この三つが手に入るなら何も文句はない。むしろ大満足だ。
「そんな事でいいのか? それなら好きなだけ貰ってくれ。何なら全部でもいいぞ」
「マジで? 本当に?」
これ全部とか。本当に貰っていいなら、色んな事を試せそうだ。
とりあえずスキルは全種類抽出するとして、水の魔石とかも作れないかな。
魔力回復薬っていうのも作ってみたいし。夢が広がるな!
「いや、それはこっちのセリフなんだが。だが、それでいいのなら、今回は譲ってもらおう。マリーにも今度埋め合わせするからな」
「気にしないでよ姉さん。それに、本当ならもっと早く……」
「マリー、それはもう終わった事だ。お前が気にする必要はない。そう言ったろ?」
「うん、そうだね。でも、それなら姉さんも気にしないで。これだって、もう終わった事なんだから」
「……参ったな。でも、確かにそうか。分かった、私ももう気にしない。だからマリーも、もうあの事は気にするな」
……なんか、いつの間にか会話に入りづらい空気が出来上がってるんですけど。
何これ? 俺が魔石の使い道を考えてる間に何があった?
「あ、あのー、お二人さん?」
「あ、すみませんカイトさん。改めてお礼を言わせて下さい。魔核を譲ってくれて、本当にありがとうございます」
「いや、俺も魔石を譲って貰ったし、別にいいよ」
「そのぐらいは当然です。本当にありがとうございます」
……このままだとお礼合戦になりそうだな。
「さあ、このままここにいてもしょうがない。早く街に帰るぞ」
すると、俺と同じ事を考えたのか、多少強引だがフーリが場を締めてくれた。ありがとうフーリ。
声に出すとまた同じ事の繰り返しになりそうなので、心の中でだけ呟いておいた。
街に帰り着き、ギルドに依頼達成の報告をしに行くと。
「「「今までお世話になりました、モーヒさん!」」」
「おう。お前らは俺の誇りだ。これからは俺無しで頑張るんだぞ!」
「「「――っ! はい!」」」
三人の若い男女三人が、感極まった様子で噂のモーヒさんに頭を下げていた。
お礼を言ってる事から、悪い事があった訳ではなさそうだが。
「あの三人、もうモーヒ立ちするんだ。今回は早かったなぁ」
「モーヒ立ちって何!?」
隣のマリーからまたもパワーワードが飛び出してきた。
何だよ「モーヒ立ち」って! 気になって仕方ないんだが!?
「あれ? 説明してませんでしたっけ?」
「ああ、前回も、前々回も途中で会話を切り上げられて、モーヒ・カンテルの謎は深まるばかりだったよ!」
「あ、あはは、すみません。確かに説明無しにこの光景を見ちゃったら、混乱して当然ですよね。私達にとっては当たり前の光景になってたので、すっかり失念してました。初心者狩りのモーヒさんっていうのは……」
「二人とも、何してるんだ? さっさと報告を済ませるぞ」
「あ、ごめん姉さん、今行く。さあ、行きますよ、カイトさん」
そのままスタスタと歩いていくマリー。取り残される俺。謎が解けないモーヒ・カンテル。
でしょうね! そんな気がしたよ!
「カイト君、そんな所に突っ立ってないで、早くこっちに来ないか」
何も知らないフーリが俺を呼んでいる。
ちらっとモーヒさんに視線を向けると「ニッ」と、男前な笑顔を返された。
無駄にイケメンだ。相変わらずの世紀末スタイルだけど。
「……すぐ行く」
もうモーヒさんの事を深く考えるのはやめよう。
悪い人じゃなさそうだし、きっとその内謎は解けるさ。
俺は諦めの境地に入りつつ、フーリが待つ受付に向かった。モーヒさんの笑顔に見送られながら。
「カイトさん! 今オーガの魔核って言いましたか!?」
「え? あ、ああ、言ったけど」
興奮気味に身を乗り出してくるマリー。いや、距離が近いって!
「あ、すみません。つい興奮しちゃって」
「い、いや、気にしないでいい」
若干声が裏返ってしまった。
「オーガの魔核を使った魔導具は人気があるので、なかなか市場に出回らない上に、高いんですよ」
「なあ、さっき聞きそびれたんだけど、その魔導具って一体何なんだ?」
「あれ? 説明してませんでしたか?」
「ああ。して貰ってないな」
さっきは魔導具よりも、魔核と魔石の価値の差の方が気になってしまったから、魔導具が何なのかはさっぱりだ。
「魔導具というのは、魔核を組み込んで使う道具の事だ。それを使うと、魔核に込められているスキルを自由に使う事が出来るようになる」
「へえ、魔核のスキルを」
なるほど、つまりアレだ。魔導具っていうのは、一種のブースターの様な物って事か……いや、違うか?
「オーガの魔核には「剛力」のスキルが付与されてる。となると、当然魔導具にも剛力が付与される訳だが、この剛力というスキル。大抵の前衛が欲しがるぐらい、汎用性が高いスキルでな。当然その核となる魔核の価値も高くなる」
多分「剛力」は読んで字の如く、力が強くなるスキルなのだろう。確かに、それは前衛なら欲しがって当然だろう。
分かりやすく、扱いやすいスキルなのだろうし。
「良かったね、姉さん! オーガの魔核、ずっと欲しいって言ってたもんね!」
で、どうやらそれはフーリも同じらしい。だからマリーはこんなに興奮しているのか。
だが、肝心のフーリはそれほど喜んでいる様に見えないけど。
「そうだな、マリー。だが、この魔核はギルドに買い取って貰おう」
「え――そんな、どうして!? 折角手に入ったのに!」
「パーティの報酬は全員で分配。それが冒険者の基本だ。そしてこれには素材も含まれている。つまりこれは私達全員の物という事になる。私が独り占めする訳にはいかないよ」
つまりフーリは「全員の物だから、自分の物には出来ない」って言いたいのか。
真面目だな、フーリは。オーガを倒したのはフーリなんだから、そんなの気にしなくてもいいのに。
と、そんな事を考えていると、突然マリーが俺に向かって頭を下げてきた。
「カイトさん、お願いします! このオーガの魔核を姉さんに譲って下さい!」
「いいよ」
「おいマリー、無茶を言うな。今日の成果の中にこれと釣り合う……何だと?」
俺は二つ返事で応えた。だって俺はオーガと戦ってすらいないし、別に魔核が欲しいとも思っていない。
俺は魔石さえあれば充分なんだから。だってストレージでスキルを習得出来る訳だし。
「あの、お願いした私が言うのもなんですけど、本当にいいんですか? これを売れば金貨五十枚はくだりませんよ?」
「うん、別にいいよ。俺には必要ない物だし。オーガだって、倒したのはフーリだ。むしろ当然の権利じゃない?」
「あ、ありがとうございます! カイトさん!」
またもマリーに大きく頭を下げられる。うーん、そこまで言われると、なんだかむず痒いな。それに、悪い事をしてる訳じゃないのに、若干罪悪感も湧いてくる。
「だが、本当にいいのか? それではあまりにも私の取り分が大きくなりすぎるのだが?」
「いいって、別に。二人には昨日から何かと世話になってるし、気にしないでくれ」
森を抜けられたのも、ギルドに登録出来たのもマリーのおかげだし、今朝はフーリがあのヴォルフとかいう冒険者を止めてくれなかったら、どうなっていた事か。
今だって、戦闘の訓練を手伝ってくれたのだし、むしろお礼を言うのは俺の方だ。
「だが、やはりそれでは……何か私に出来る事はないか?」
「そんなに気にしなくても――あ、そうだ」
「何だ? 私に出来る事なら何でも言ってくれ!」
何でもって……女の子がそんな事軽々しく言っちゃダメだろ。
「今日手に入った魔石なんだけど、いくつか俺に譲ってくれない?」
今日手に入った魔石は、ホーンラビット、ゴブリン、そしてオーガの魔石の三種類だ。
この三つが手に入るなら何も文句はない。むしろ大満足だ。
「そんな事でいいのか? それなら好きなだけ貰ってくれ。何なら全部でもいいぞ」
「マジで? 本当に?」
これ全部とか。本当に貰っていいなら、色んな事を試せそうだ。
とりあえずスキルは全種類抽出するとして、水の魔石とかも作れないかな。
魔力回復薬っていうのも作ってみたいし。夢が広がるな!
「いや、それはこっちのセリフなんだが。だが、それでいいのなら、今回は譲ってもらおう。マリーにも今度埋め合わせするからな」
「気にしないでよ姉さん。それに、本当ならもっと早く……」
「マリー、それはもう終わった事だ。お前が気にする必要はない。そう言ったろ?」
「うん、そうだね。でも、それなら姉さんも気にしないで。これだって、もう終わった事なんだから」
「……参ったな。でも、確かにそうか。分かった、私ももう気にしない。だからマリーも、もうあの事は気にするな」
……なんか、いつの間にか会話に入りづらい空気が出来上がってるんですけど。
何これ? 俺が魔石の使い道を考えてる間に何があった?
「あ、あのー、お二人さん?」
「あ、すみませんカイトさん。改めてお礼を言わせて下さい。魔核を譲ってくれて、本当にありがとうございます」
「いや、俺も魔石を譲って貰ったし、別にいいよ」
「そのぐらいは当然です。本当にありがとうございます」
……このままだとお礼合戦になりそうだな。
「さあ、このままここにいてもしょうがない。早く街に帰るぞ」
すると、俺と同じ事を考えたのか、多少強引だがフーリが場を締めてくれた。ありがとうフーリ。
声に出すとまた同じ事の繰り返しになりそうなので、心の中でだけ呟いておいた。
街に帰り着き、ギルドに依頼達成の報告をしに行くと。
「「「今までお世話になりました、モーヒさん!」」」
「おう。お前らは俺の誇りだ。これからは俺無しで頑張るんだぞ!」
「「「――っ! はい!」」」
三人の若い男女三人が、感極まった様子で噂のモーヒさんに頭を下げていた。
お礼を言ってる事から、悪い事があった訳ではなさそうだが。
「あの三人、もうモーヒ立ちするんだ。今回は早かったなぁ」
「モーヒ立ちって何!?」
隣のマリーからまたもパワーワードが飛び出してきた。
何だよ「モーヒ立ち」って! 気になって仕方ないんだが!?
「あれ? 説明してませんでしたっけ?」
「ああ、前回も、前々回も途中で会話を切り上げられて、モーヒ・カンテルの謎は深まるばかりだったよ!」
「あ、あはは、すみません。確かに説明無しにこの光景を見ちゃったら、混乱して当然ですよね。私達にとっては当たり前の光景になってたので、すっかり失念してました。初心者狩りのモーヒさんっていうのは……」
「二人とも、何してるんだ? さっさと報告を済ませるぞ」
「あ、ごめん姉さん、今行く。さあ、行きますよ、カイトさん」
そのままスタスタと歩いていくマリー。取り残される俺。謎が解けないモーヒ・カンテル。
でしょうね! そんな気がしたよ!
「カイト君、そんな所に突っ立ってないで、早くこっちに来ないか」
何も知らないフーリが俺を呼んでいる。
ちらっとモーヒさんに視線を向けると「ニッ」と、男前な笑顔を返された。
無駄にイケメンだ。相変わらずの世紀末スタイルだけど。
「……すぐ行く」
もうモーヒさんの事を深く考えるのはやめよう。
悪い人じゃなさそうだし、きっとその内謎は解けるさ。
俺は諦めの境地に入りつつ、フーリが待つ受付に向かった。モーヒさんの笑顔に見送られながら。
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