見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

十六話

 ギルドから出て、武具屋までの道のりを歩いている途中で気付いた事がある。それは、この世界は本当に地球とは全く違う、という事だ。
 いや、魔法がある時点で全く違うんだが、それ以外にも違う事が沢山ある。

 まず、人種の違い。確かに地球にもそれなりに沢山の人種がいるんだが、この世界は根本的に違う。
 それは、獣人やエルフの存在。

 さっきのヴォルフもそうだが、この世界では獣人が当たり前の様に存在しているし、誰もその事をおかしいと思っていない。それどころか、当たり前のものとして受け入れている。

 今も周りを見回せば、人族の方が多いのは多いが、獣人やエルフの姿もそれなりに見える。

 そして日常風景の違い。
 日本では車が当たり前に走っていたし、町中に舗装道路があった。
 道路を人が歩いていたら、当然誰かしらが注意するだろうが、この世界ではそれがない。

 道は整備されてはいるんだが、車は通っていない。たまに馬車が通ったりするが、本当にたまにで、人の移動は基本的に徒歩だ。

 環境には優しい世界だろうし、個人的には俺にも優しい世界だ。
 何故かって? それは。

「はぁ、本当ケモ耳最高。ああ、出来る事なら触ってみたい。モフモフしたい」

 俺はケモ耳が好きだからだ。
 ああ、勘違いしないでくれ。別に根っからのケモナーといういう訳ではないからな。

 ただ、日本にいた頃は、よくペットの猫のお腹に顔を引っ付けて、モフモフしていただけで。
 アレ癒されるんだよな。

 つまり、その時の感覚で、ついモフモフしたくなる訳だ。決して根っからのケモナーではない(ここ重要)。

「カイトさん、また言ってる。そんなに獣人の方達が好きなんですか?」
「獣人っていうか、動物が好きなんだよね」

 この世界に犬や猫はいるんだろうか? ヴォルフが人狼族って言ってたから、狼はいそうだけど。

「ほう、カイト君は動物が好きなのか。私と同じだな」
「そうなのか? ちなみにどんな動物が好きなんだ?」

 俺が尋ねると、フーリはパッと目を輝かせ。

「よくぞ聞いてくれた! 私は何といっても馬だな! あの凛々しい顔、しなやかな筋肉、バランスのとれた体、美しい脚線美! どれをとっても文句なしだ!」
「へ、へえ、馬か」

 どうやらさっき馬車を引いていた動物は馬で間違いないらしい。そういえば、馬車とすれ違う時、フーリの視線が馬に向いていた気がしたが、間違いではなかった様だ。

 でも馬がいるなら、犬や猫がいてもおかしくないかもしれない。
 今はまだ無理だけど、もし将来自分の家を持てたら、是非とも飼いたい。そしてモフモフしたい。

「あいつ、元気かなぁ」

 俺は日本で飼っていたペットを思い出した。
 まあ両親や妹がしっかり面倒を見てくれるだろうし、大丈夫だろ。でも、もっとモフモフしたかったなぁ。
 俺が日本を思い出し、少し感傷的な気分になっていると。

「カイト君が好きな動物は何だ?」
「え?」

 いきなりフーリに聞かれて、返答に困ってしまった。
 どうする? 正直に答えるか? でももし正直に答えて、犬や猫はこの世界には存在しない、なんて事になったら困る。

 でも、今まで猫耳の獣人も結構見たし……ま、いいか。その時はその時だ。

「犬や猫なんかが好きかな」

 そう正直に答えて、二人の様子を伺う。さあ、どうだ?

「分かります! 犬も猫もかわいいですよね!」

 マリーの食い付きがすこぶる良かったので、自分の答えが間違っていなかった事を確信する。こっちにも犬や猫は居るんだ!

「いつか自分の家を持って、一緒に暮らすのが夢なんですよ」
「へえ、気が合うな。俺と同じだ」

 この世界にもペットという概念があるらしい。
 それを聞いて、俺は少し安心した。俺もいつか自分の家を持って、沢山ペットを飼いたいな。

 その為にも今は自分を鍛えて、冒険者として成功しないと。

「マリーがかわいい物好きなのは知ってたが、まさかカイト君もだったとはな」
「え? いや、かわいい物好きっていうより、癒されるから好きなんだけど」
「癒されるから?」

 フーリはいまいちピンと来ないらしい。

「話したくない相手と付き合いで飯食いに行ったり。一人一人言う事が違うのに、それをまとめないといけなかったり。仕事した分の給料がきちんと支払われなかったり。とにかく、精神的に参ってる時なんか、特に癒されるじゃん?」

 俺がそう言うと二人の俺を見る目が、なんだか可哀そうな人を見る目に変わっていった。

「カイトさん……」
「カイト君……」
「や、やめろ! そんな目で俺を見るな!」

 社畜時代は本当にペットは癒しだったんだよ!
 俺の気持ちを理解できる奴は、きっと向こうには沢山いた筈だ。
 結局武具屋に着くまでの間、俺は二人に哀れみの視線を向けられたままだった。



 表通りから少し外れた裏の通り、俗にいう裏路地にあるその建物は、一目で武具屋と分かる建物だった。

 だって入口に剣と盾をモチーフにしたデカい看板が掛けられてる上に、でかでかと「ガンツ武具店」って書いてあるし。

「カイト君、ここがこの街の隠れた名店、ガンツ武具店だ」
「隠れた?」

 確かに場所は隠れてるけど、存在感は全然隠れてなくね? むしろこれでもかってぐらいに存在感を主張してる説すらある。

「カイトさん、ツッコんではいけません」
「あ、そうなの?」

 どうやらマリーも俺と同じ事を考えていたらしい。
 いやだって、全然隠れる気ねえもんコレ。めっちゃ堂々としてるし。

「ここの店主のガンツさんは、表通りの武具店にも負けない腕を持っておられるし、破損した武具の修理も気軽に引き受けて下さる」

 へえ、そうなんだ。ていうか表通りの武具店は修理してくれないの?

「マリーの武器の修理も、そろそろ終わる頃だろう。さあ、早く中に入ろう」

 そのままフーリが店内に入っていったので、俺達もそれに続いて店内に入る。

「いらっしゃい、今日は何の用だい?」

 店に入ると、俺の半分ぐらいの背丈のおじさんが話しかけてきた。
 口周りを覆い隠す程伸ばした髭に、筋骨隆々とした体躯は歴戦の戦士を彷彿とさせ、小柄な体格ながらどっしりとした迫力を感じさせる。

「ガンツ殿、先日お願いしていた、マリーの武器の修理は終わっているだろうか?」
「ん? おお、フレイアの嬢ちゃんか。それなら終わってるぜ。ちょっと待ってな」

 そう言うとガンツさんは、店の奥へと入っていった。

「良かった、終わってて。でも、本当に大丈夫かな? 結構派手に壊しちゃったけど」
「あのガンツ殿の事だ。心配ないだろう」

 武器を派手に壊す……マリーって確か後衛じゃなかったっけ? フーリが剣士で、バランス的にマリーは後衛の魔法使いってイメージだったけど。
 キャラ的にも似合ってるし。っと、ガンツさんが戻ってきたな。

「ほれ、次はもっと大事に扱えよ」
「わあ、綺麗に直ってる。ありがとうございます、ガンツさん!」

 店の奥から戻ってきたガンツさんがマリーに手渡したのは、先端に青い宝石が取り付けられた、長杖と短弓だった。
 ……え? 長杖と短弓って、一体どうすれば派手に壊れるんだ?

「全く、一体どういう使い方をしたらあんな壊れ方すんだ? 杖なんか魔石以外ほとんど全部作り直したぐらいだぞ」
「えっ? いや、それは……あ、あはははは。ま、まあいいじゃないですか」

 笑って誤魔化したマリー。いや、本当にどんな使い方したんだ?

「まったく。……おっと、それよりそっちの兄ちゃんはどうしたんだ? 二人の知り合いか?」

 ガンツさんは俺に声をかけながら近寄ってきた。改めて近くで見ると、本当に小さいな。

「うん? どうした?」
「あ、いえ、何でもないです。お察しの通り、俺は二人の知り合いでして。今日は防具が一式欲しくて」
「おお、やっぱりそうか。俺はドワーフのガンツってんだ。よろしくな」

 ドワーフ!? ドワーフって、あのドワーフだよな!? うわぁ、本物のドワーフって初めて見た!

「こちらこそ。近衛海斗です。よろしくお願いします」
「カイトだな。さて、早速だが、防具か。……おいカイト、お前さん駆け出しかい?」

 俺の事を一度頭の天辺からつま先までざっと見たガンツさんは、一目で俺が駆け出しだと見破った。
 すごいな、職人の勘ってやつか?

「ええ、昨日冒険者登録したばかりでして。早速ゴブリン討伐に行こうと思ったんですけど、防具を持ってない事に気付きまして。一式見繕いたいなと」
「初めてのゴブリン討伐ですから。防具は持っておいた方がいいだろうという事で、私達がガンツ殿の店を紹介してあげたんです」

 俺の説明を、フーリが補足してくれた。

「なるほどね。ま、二人が付いてるなら、万が一って事もないだろ。で、予算はどれぐらいだ?」

 あ、そういえば予算の事全然考えてなかった。

 今の手持ちから、防具の予算に回せるのは……やばい。当面の生活費を抜くと銀貨七枚しかない。流石にこの額じゃあ厳しいよなぁ。
 俺はどうしたものかと、手元の銀貨を眺めながら考えた。

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