見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

八話

 マリーの案内で街に向けて歩いているのだが、ここで気になる事が一つ。

「マリーはさっき、ペコライの街で冒険者活動をしてるって言ってたよな?」

 そう、マリーはさっき冒険者と言っていた。つまり、この世界には冒険者が存在しているのだ。
 俺が読んだラノベに出てきた冒険者と、同じ冒険者かは分からないけど、気になる。

「そうですね。あ、冒険者の事は分かりますか?」
「いや、残念ながら」

 正確には知らないのだが。

「そうですか。じゃあペコライまでの道すがら、簡単に説明しておきますね」
「ありがとう、助かるよ」

 コホン、と咳払いを一つ。

「冒険者というのはですね、所謂何でも屋の様なものです。魔物退治から、草むしりと、多種多様な依頼をこなし、それに応じた報酬を受け取って生計を立てている人達の総称です」
「なるほど、何でも屋ね。ちなみに冒険者になるのに何か条件とかあったりするの?」
「いえ、特に条件とかは特にないですよ。基本的に誰でもなれます。余程の重犯罪者とかでない限りは、ですけど」

 特に条件は無しかそれなら俺でもなれるかな?。
 やっぱり異世界に来たんだし、なってみたいよな、冒険者。

「続けますね。冒険者にはS~Fまでのランクがあって、ランクが高くなればなる程、受けられる依頼が増えていきます。その分危険度も増していきますけど。駆け出し冒険者は全員Fランクからスタートして、ギルドのランクアップクエストをクリアする毎にランクが上がっていきます。最高ランクであるSランク冒険者になれば、どんな依頼でも受けられる様になるだけでなく、ギルドや国から直接依頼をされる事もあります。と言っても、現状Sランク冒険者は四人しかいませんけど」

 マリーの説明は、凄く分かりやすかった。
 もし俺が冒険者になるなら、Fランクからのスタートになるのか。どうせ冒険者になるなら、Sランクまで上がってみたいよな。

 現状、Sランク冒険者はたったの四人。それだけSランク冒険者というのはすごいという事なんだろけど。

「ちなみに私はBランク冒険者です」

 Bランク? それって結構すごいんじゃないか?

「ペコライの街でもBランク以上の冒険者はそうそういませんよ」

 マリーは誇らしげに胸を張ったかと思うと、突然立ち止まった。
 ん? 急にどうしたんだ?

「ちなみに、カイトさんはアイテムボックスが使えますよね?」

 あー、やっぱり忘れてなかったのね。ていうか、使えるのは決定事項か。まあ、使う所をバッチリ見られてた訳だし、流石に誤魔化せないよな。
 一応アイテムボックスじゃなくてストレージなんだけど、無理に訂正する必要もないだろう。

「うん、確かに俺はアイテムボックスが使えるけど」

 俺がそう答えると、マリーはその青い瞳をキラキラと輝かせ始めた。

「やっぱりそうですか。ちなみに容量とか教えて貰えたりしますか?」
「え、容量?」

 アイテムボックスって容量とかあるの? 俺のストレージには容量なんてどこにも表示されてないけど。もしかして見落としてるとか?
 一応一通り確認してみるが、やっぱりどこにも見当たらない。

「容量ってどこに表示されてるの?」
「え? 右下の方に表示されてる筈ですけど……もしかして、容量が表示されてないんですか?」
「え? う、うん、そうだけど」

 なんかマリーの声が震えてるんだけど、急にどうしたんだ?

「容量無限。噂には聞いた事あったけど、実在したなんて」

 何やらぶつぶつと呟いているが、全部聞こえてるんだよな。
 俺の場合はストレージだから、アイテムボックスと仕組みが同じかは分からない。だが、恐らく無限なんだろう。今までのストレージの性能から考えて、無限の方が逆にしっくりくる。

 それに、曲がりなりにも、これは女神様からの特典スキル。アイテムボックスよりは性能が良い筈だ。

「カイトさん、もし冒険者登録をするつもりなら、私達のパーティに入りませんか?」
「え、パーティ?」

 突然のパーティ勧誘に、俺は反射的に聞き返した。

「はい、パーティです。実は私、姉と二人でパーティを組んで活動してるんですけど、そろそろ新しいメンバーを募集しようかと思ってた所なんです」

 ほう、お姉さんと二人でパーティを。でも何で俺を?

「パーティを組むのは構わない、ていうかありがたい話だけど、何で俺? 言っちゃなんだが、まだ俺の実力も見た事ないだろ?」
「アイテムボックス持ちは、それだけ重宝されるって事ですよ。アイテムボックス持ちの冒険者の中には、戦闘はほとんどしないで荷物の運搬だけをやるって人もいるぐらいですからね。それでも構わないってパーティはいくらでもあります」
「え、そうなの?」

 意外だ。そういうのって普通「荷物持ちしか出来ない役立たず」って言われてパーティ追放、なんてイメージがあったんけど。で、その追放された奴が実は最強でってのが、パーティ追放系のテンプレだ……いや、ラノベの話は置いといて。

「はい。薬や食料、野営の道具からモンスターの素材まで、全て自分達で運ぶとなるとかなり手間ですからね。それにアイテムボックス持ちなら、別に冒険者じゃなくても仕事はいくらでもありますから」

 なるほど、確かに言われてみればそうか。
 大量の荷物を身一つで運べるってだけで充分仕事はありそうだ。

「一つ聞きたいんだけど。マリーのお姉さんって、戦闘の基礎を教えてくれたりしない?」
「え、戦闘ですか? 姉は前衛ですので、そっち方面なら大丈夫だと思いますけど」

 よし、なら決まりだ。
 マリーはBランク冒険者だって言うし、お姉さんもきっとBランク以上だろう。戦闘の基礎を教えて貰う相手としては充分過ぎる。

「分かった。パーティの件、受けさせて貰うよ」
「本当ですか!? よかったぁ」

 マリーはほっと息を吐き、胸を撫で下ろしていた。そんなに喜ぶ事か? むしろこっちからお願いしたいぐらいだったんだけど。

「いやいや、普通こっちがお願いする側だよね?」
「何言ってるんですか。さっきも言いましたけど、アイテムボックス持ちは、それだけで貴重な存在なんです。普通はもっと選り好みしてもおかしくないんですよ?」

 まあ確かに。そんなに重宝されてるならそりゃ選り好みもしたくなるだろうけど。
 まだペコライの街にも着いてないのにパーティ組むとか、もしかして早まったのか? ……いや、間違いじゃないだろう。

 まだマリーと出会ってほとんど時間は経ってないけど、何となくマリーの人柄は分かる。多分マリーは根が優しいのだろう。もし自分の私利私欲の為に俺をパーティに入れようとするのなら、アイテムボックス持ちについてあんなに教えてくれたりしないだろう。

 適当に嘘をついて騙すに決まってる。なんせ相手は記憶喪失なのだから。でも、それをせず、自らを記憶喪失だという怪しい男に対し「パーティに入って欲しい」と、逆にお願いしてくる程だ。

 その誠実さはとても好感が持てる。
 それに、これは何となくだけど、マリーとは一緒にパーティを組んだ方が良い気がする。本当に何となくだけど。

「でも、本当にいいのか? 自慢じゃないが、俺はまだ全くと言っていい程戦闘経験がないぞ。武器も棍棒だし」

 俺がそう言うと、マリーの表情が引き攣った。

「こ、棍棒ですか。随分と原子て……変わっ……個性的な武器を使ってるんですね!」

 精一杯の笑顔。そんな言葉がしっくりくる様な笑顔だった。明らかに気を使われているが、そんなに気を使わなくてもいいのに。

「でも、カイトさんって結構体鍛えてませんか? こんなに歩いにくい道を、さっきから息一つ切らさずに歩いてますし」
「え? あ、違う違う。これは身体強化スキルのおかげなんだ」

 自慢じゃないが、俺は元々そんなに体力がある方ではない。最近は全く運動をしていなかったから、体は鍛えるどころか逆に鈍りきっていた程だ。

「身体強化ですか。なるほど、納得です。じゃあ、カイトさんは前衛になりたいんですか? アイテムボックスがあるんですから、本当なら戦闘は無理にしなくてもいいんですよ?」

 マリーは俺が無理して戦闘をしようとしていると感じたのか、俺の事を気遣ってくれた様だ。
 でも、別に無理しようとしてる訳じゃない。単純に強くなりたいだけだ。

「一応火魔法も使えるから、前衛と後衛の両方をバランスよくこなしたいんだ」
「火魔法も使えるんですか? 随分と多才なんですね」
「でもまあ、最初は前衛かな。戦闘は自衛の為にも覚えたいんだ。いざという時の為にね」

 そう言うと、マリーは納得したみたいで、うんうんと頷いた。

「確かに、そういう事なら覚えておいた方がいいかもしれませんね。せっかく身体強化も持ってる事ですし。あ、そろそろ森を抜けますよ」

 マリーが前を指さしながら教えてくれたので、一度視線をマリーから正面に向けた。
 見ると、今までずっと続いていた獣道が途中で途切れており、木々の隙間から解放感が感じられた。

 そのまま森を抜けると、そこには一面緑の草原が広がっており、少し先の方に視線を向けると、石造りの高い壁が見えた。あれが異世界の街、ペコライか?
 異世界最初の街、なんだかワクワクしてきた!

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