見た目は青年、心はアラサー、異世界に降り立つ! ~チートスキル「ストレージ」で異世界を満喫中~

蒼山 勇

三話

「っと、川の水を浄化しておかないと」

 俺はストレージ画面を開いて川の水を浄化した。これで当分、飲み水の心配はしなくて済むな。
 さてと、改めて辺りを見回してみる。

 俺は今森の中に居る訳だが、川を見つけて飲み水を確保した以外、さっきまでと状況は変わらない。そして、さっきまでも状況は一切変わっていない。つまり何が言いたいかというと、最初から状況はほとんど変わっていないという事だ。

 まあ飲み水を確保した時点で、すぐにどうこうという事はなくなった訳だが。
 だったら、また当てもなく彷徨うよりも、今の状況を利用する方がいいのか?

 確か川を下っていくと人里に出る、という話を聞いた事がある。というか見た事がある。

 それが本当かどうかは分からないが、現時点で何も頼りになる情報は無い訳だし、信じてみる価値はあるか。
 そう自分に言い聞かせ、川沿いを下る事にした。

 その間にも、ストレージに入れられそうな物はどんどん拾っていく。
 石、木の枝、木の葉、草などにそれぞれ鑑定をかけていくと、石、木の枝、木の葉と出てくるだけで、特別な物は何もなかった。

 だが何の気なしに草に鑑定をかけた時、俺は我が目を疑った。
 そこには「薬草:ポーションの材料。そのままでも使用可能」と出てきたからだ。

「ポーションって、あのポーション? ストレージで作れたりしないかな?」

 もし作れるなら、ものすごく心強いんだけど。
 試しにストレージ画面を開いてみると、そこには新しく「調合」というコマンドが増えていた。

「きた! 新しいコマンド! 調合か。まさしく読んで字の如く、だろうな」

 早速調合のコマンドを選択すると、案の定ポーションが作れるようだ。そのまま調合を実行すると、他のコマンドと同じく薬草が消えて、新しくポーションが作られた。

 作られたポーションは一つ。消えた薬草も一つ。つまり、薬草一つにつきポーション一つが作れるらしい。

「あれ? コップが消えた?」

 よく見ると、さっきまであった筈の木のコップが無くなっていた。
 不思議に思ったが、もしかしてと思い、ストレージからポーションを取り出してみた。
 すると、ストレージからは半透明の緑色の液体に満たされたコップが出てきた。

 一応鑑定をかけてみたが「ポーション:ケガや軽い病気を治す」と出てきた。
 どうやらポーションを調合した際に、木のコップが自動的に器として選ばれたみたいだ。

 調合で何か作ったら、器が必要なものにはストレージ内にある物を自動的に割り振ってくれるって事だろうか?
 まだポーション一つしか作っていないから確信はないが、割と的を射てそうだ。

「まあ何はともあれ、調合コマンドが増えたのは嬉しいな」

 もし魔物と遭遇して大ケガをしても、ポーションがあれば死なずに済むかもしれない。これは非常に大きい。

 もしもの時の保険があるというのは、それだけで心のゆとりに繋がるし、生存率もグッと上がる筈だ。
 もっと他に薬草ないかな?

 そう思い、特に足元に注意して歩き、草に片っ端から鑑定をかけていくと、意外と沢山ある事に気付く。

 薬草を見つけるたびにストレージに突っ込んでいき、気付いたらその数は二十を超えていた。

「意外と沢山あるな。木のコップを作れるだけ作って、全部ポーションに変えておくか」

 手に入れた薬草を調合で全てポーションにする。
 その数全部で二十四個。これだけあればかなりの安心感があるな。
 本音を言えば魔物とは遭遇せずに人里に出たいが、もしもという事がある。

 出来れば武器の一つでも欲しい所だが、残念ながらストレージ内の物で武器は作れそうにない。

 石は持っているし、木の棒とか木材でもあれば作れそうな気がするんだけど。さっきから落ちているのは木の枝ばかりだ。

 流石に木の枝から武器は作れないみたいだし……いや、もしかしたらもっと沢山集めれば木の枝から木材とか作れたりするのか?

 確信はないが、川を見失わない程度に行動範囲を広げ、試しに出来るだけ沢山の木の枝を集めてみた。

 三十分ぐらいは集めていただろうか。
 気付いたら百本以上の木の枝が集まっていた。

 早速合成の項目を見てみると、木のコップ以外に新しく木材の項目が増えていた。
 これだけ数があるのだから、もっと他にも作れる物が増えてもよさそうだが、とりあえず今はどうでもいいか。

 早速木材を作ってみると、木の枝百本が木材五個になっていた。
 木の枝二十本で、木材一個か……。少し気になる事はあるが、今はそれよりも武器だな。
 何か作れないか? そう思い、合成画面を見てみると「棍棒」と出ていた。

「……棍棒? 石の剣とか石斧とかじゃなくて、棍棒?」

 えぇ……なんというか、ダサい。
 せっかく異世界転移したんだし、もっとカッコいい武器で華麗に戦う自分の姿とか想像したんだけどなぁ。

「まあ今まで武器なんて使った事ないしな! 棍棒の方が使いやすいし! 殴ればいいだけだし!」

 そう、ポジティブに考えるのだ。
 剣道すらした事ない俺が、剣なんてまともに使える訳ないじゃないか! 特別力が強い訳じゃない俺が、石斧なんて振り回せるわけないじゃないか!

 それに比べて棍棒なら金属バットより軽い筈だから、振り回すのも楽な筈だ。
 きっとストレージが、俺がまともに使える武器を考えて提案してくれたんだ。きっとそうだ! そうに違いない!

 ……あれ、なんか目から汗が。お、おかしいな。
 と、馬鹿な事を考えていたが、今考えた事、実は結構的を射てるかもしれない。

 というのも、実はさっきコップを大量に作った時、ストレージの中には木の枝が三十本以上あったのだ。

 その段階で木の枝の数は足りてた筈なのに、何故か合成時に「木材」とは出ていなかった。

 単に俺が見落としていただけという可能性もあるにはあるが、正直新しい項目が増えていて見落とすとは考えにくい。俺が「木材が欲しい」と思ったから、木材の項目が増えたと考える方が自然だろう。

 それはつまり、ストレージが俺の思考を読んで、その時必要な物を最優先で用意出来るようにしている、とも考えられる。

 もしそうなら、かなり便利……というか、コマンド内容的にもチートに片足突っ込んでる気がする。

「人前でストレージを使う時は気を付けないとな」

 他人のスキルなんてまだ見た事ないから、これが普通かどうかなんて分からないけど、気を付けるに越した事は無い。
 それにしても。

「この棍棒、どのぐらいの強度があるんだろう? いざという時に簡単に折れたらシャレにならないな。何か適当に試し斬り……もとい、試し殴り出来る物は無いか?」

 そう呟きながら辺りを見回してみると、川沿いに人ひとり腰掛けられそうな大きさの岩を見つけた。

 丁度いい、あれを殴りつけて、棍棒がどうなるか試してみよう。
 俺は岩に近づき、棍棒を右手に持って振り上げ――思いっきり岩に振り下ろした。
 辺りに響き渡る「ガァン」という衝撃音。そして。

「っ! いってぇ!」

 あまりの衝撃に、俺は思わず棍棒を手放した。
 そりゃそうだ。そんな事をしたら当然、衝撃はダイレクトに手に伝わってくる訳で。
 俺はしばらくの間、痺れる右手を押さえて悶絶していた。

 数分後。

 ようやく腕の痺れがとれてきた俺は、さっき手放した棍棒を見つけて拾い上げた。
 見た所どこにも破損は無い様だ。岩の方を見てみると、微かに砕けた痕跡がある。
 マジか。さっき結構な勢いで殴りつけたのに無傷とか。頑丈過ぎだろこの棍棒。

「ま、今はそれがありがたいか」

 これだけ頑丈なら、もしもの時に折れて全く役に立たないという事はそうそうないだろう。というか役に立って欲しい。

 現状俺の武器はこの棍棒だけなのだ。これで役に立たないとか言われたら流石に泣くぞ。

 棍棒をストレージにしまい、ふとさっき殴りつけた岩に視線を向けた。何かの役に立つかもしれないし、これも収納しておくか。
 そう思い、ストレージに収納しようと岩に触れて気付く。

「これ、どうやって収納しよう?」

 流石にこれを持ち上げるなんて出来る訳ないし、動かす事すらままならない。さてどうしたものか。

 そんな事を考えていると、ストレージ画面に「収納可能」の文字が浮かんでいる事に気が付いた。

 今、俺は岩に触れているだけ。なのに収納可能の文字が浮かんでいる。これはどういう事か。
 考えられる可能性は三つ。

 収納出来る物だという情報を、ストレージが教えてくれているだけ。
 実は触れるだけで収納可能。
 そもそも触れる必要すらない。

 この三つだが、まあ一番可能性が高いのは二番目かな。よし、物は試しだ。
 俺は岩に触れたまま、収納と念じてみた。

 すると、目の前の岩は一瞬で消え去り、後には岩があった場所にポッカリ穴が空いているだけ。
 ストレージ画面を開いてみると「岩」の文字。どうやら収納に成功したらしい。

「相変わらずすごいな、ストレージ」

 自分でストレージに入れなくても、触れるだけでいいとか便利過ぎる。これはもっと色々試さないと。そんな事を考えていた時だった。

 ぐぅ~

 と、突然俺の腹の虫が空腹を訴えてきた。

「そろそろ腹が減ってきたな」

 よく考えると、家に帰る途中で事故って死んだんだった。晩飯前だったし、そりゃ腹も減るか。

「今日の晩飯、何だったんだろうなぁ」

 ……やば。思い出したらちょっと泣けてきた。
 本当なら今頃晩飯食って、風呂に入って、そのままゲームでもしてダラダラ過ごしてた筈だったのに。

 何の因果か俺は交通事故に巻き込まれ、女神様には大した説明もして貰えず、あれよあれよという間に異世界に放り出されてしまった。
 家族に別れを告げる暇もなかったのが悔やまれる。

 ……いや、それは高望みという奴か。そもそも事故で死んだなら、家族に別れを告げる事なんて出来ないのだから。

 けど、もしも俺みたいに突然死んでしまった後に、こうやって意識があるのなら、多分みんな似たような事を考える気がする。

 無理だと分かってるけど、せめて家族に一言別れを告げられれば。
 そんな事を考えながら歩いていると、少し先の方に何か大きな物体を見つけた。

「何だあれ?」

 川べりのちょっと開けた場所にある大きめの岩。そのすぐそばに物影が見える。目を凝らしてよく見てみ……って、人が倒れてる!?

「ちょっと、大丈夫ですか!?」

 俺は声をかけながら急いでその人の傍まで走り寄った。
 そこには俺より二回りぐらい小さい、白と水色のワンピースを着た、透き通るような綺麗な青い髪の、ロングヘアーの女の子が倒れていた。

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