あの日

僕ちゃん

十話 降田一(ふるたはじめ)

 いつもの見慣れた部屋のはずなのに今日すこし歪んで見えた。全く取り合ってもらえなかったらどうしようと考えていたからだ。私の心臓は百メートルの全力疾走の後より早くなっていた。

 その緊張と今日は絶対に言うと心に決めていたこともあってか私は降田さんの部屋に入るとすぐに全てを二人に打ち上げた。

 全てといっても真っ白な世界で言われたことだけで、あの女が私の母親ではないと言うことは秘密にしていた。言っても意味がないかと思ったからだ。しかしあの女を疑っているということはちゃんと伝えた。

 その後しばらくの記憶は私にはない。不安や緊張その他もろもろで何も考えることができなかったからだ。

「おもしろい、、おもしろいぞぉ」

 私はびっくりした。引くどころか今までに見たことのないような顔で降田さんが食いついてきたからだ。瞳孔は開ききっていた。

「僕ももう一回、桜と福太に警察のこと聞いてみるよ。」

 満月もわりと乗り気だった。ここで瑛太の名前を出さなかったのは絶対に言わないと確信していたからだと思う。

 それから降田さんは真っ白な世界について根掘り葉掘り聞いてきた。私は関係とは思ったが折角興味を持ってもらったのに無下にするのは悪いと思い。全ての質問に答えていった。

 降田さんの質問のお陰で何個か思い出したこともあった。基本的にふわふわな生物は決まった行動しかしないこと。意思を持って動いているのはほんの四体程度だったこと。そして確か赤ちゃんでも入れる区間が決まっていたこと。

 今思えばあれは世紀ごとに区間が分けられていたのかもしれない。そしてふわふわな生物はあの四体以外はロボット見たいなものだったのかもしれない。私はそう思った。

 私が真っ白の世界のことを覚えている範囲で話終わるとすぐに

「実は一個だけ作戦思い付いたんだ。本当の作戦はもっと時間をかけて練るとしても、この作戦も悪くないと思うよ。」

 そういって降田さんは服を脱ぎ始めた。僕と満月はどした?とは思いながらもただ見守るしかなかった。

「カッケェーー」

 声を挙げたのは満月だった。降田さんの背面には龍がとぐろを巻いていた。降田さんの意外とたくましかった背中から尻にまでおよぶその龍はとても悲しい顔をしていた。

「昔の職場でちょっとね... どう?一生忘れないでしょ?」

 確かに一生忘れないと思った。背中に絵を描くなんて発想がなかった私達二人にはとても刺激の強いものだった。

「誰にも言ったらダメだよ。友達にも...  誰にも。広まったら意味ないからね。約束...」

 私達二人は降田さんと拳を合わせた。こうするだけで余計言ってはいけないという気持ちが強くなった。

「後は、母さんに僕に海とか温泉に連れていっつてもらうっていて、君の母さんが変な理由で止めてきたらもう黒だと思うよ。」

 降田さんはさらに続けた。

「でも今僕がしゃべってる記憶まで持ってたら意味ないからね。止められないから白とはいえないね。」

 私はこれだけでも降田さんに頼って良かったと思った。こんなにもちゃんと考えてくれるなんて。

「僕はこれから記憶について調べて見るよ。次の作戦はも考えないといけないからね。後は満月君と考えて見て。」

 それだけ言うと降田さんはパソコンを持って違う部屋に行ってしまった。

 残された私達はしばらく背中の龍の話で盛り上がったがすぐに作戦を考え始めた。

「なんかある?」

 そうそういい作戦なんて思い付くものじゃない。しかも私達は小学生だ。相手をおとしめる作戦なんて考えたこともなかった。結果私達が思い付いた作戦は「とにかく思い出作ろう作戦」だった。

 小学生らしいと言えばそれまでだが、私達が真剣に考えた上での作戦だ。一生忘れない思い出をいっぱいつくり数作ったらその内ボロを出すだろうという作戦だ。

 それから満月と一緒に思い出を作る計画を楽しくいっぱい考えあった。そして今度は日本一高い山に登ろうと結論ずけかけたところで降田さんが戻ってきた。

「もう暗くなってきたし、僕もまだかかりそうだからもう君達は帰りなさい。」

 外を見ると確かに暗くなってきていた。夢中で考えていたので時間が立つのがとても早かった。

 私達はバイバイをし、それぞれの家に帰って言った。家に着いた時にはすっかり暗くなっていった。

 玄関ではあの女が待ち構えていた。

「こんな遅くまでどこ行ってたの?」

 私はすぐに降田さんの家だと答えた。するとあの女は「そう...」と一瞬だけ何かを察したような今まで見たことのない顔をした。しかしすぐにいつもの顔に戻り

「暗くなるまでには帰ってきなさいよ」

 と少し私に注意点した。怒ってはいないが心配していると言うことは伝わってきた。

 しかしあの表情は一体何だったのか私はそればかり考えていた・・・・

 




 

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