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ハロー、ヴァンパイア。

師走 こなゆき

P3

 実際、アレはわたしの中では過ぎ去って風化した事件で、友人はその頃も変わらず友人だっただけで、なんの関わりもない。自分が気にしていないのに、友人に気を使われる方がよっぽど困ってしまう。

 授業開始のチャイム音が鳴る。友人は「またね」と明るく言い、自分の席に戻ってゆく。

 少し後ろを向き、チラリと転校生の彼女を見る。彼女は先程と変わらず無表情にノートと教科書を机に広げている。その白く細い指の動きをわたしは見つめていた。

「起立」

 クラス委員の号令で、我に帰る。慌てて前に向き直り、わたしはクラスメイトに倣って立ち上がった。

 作戦を変えよう。

 わたしには親しくない誰かと会話を続かせるスキルは欠けている。無いと言っても等しい。当然、初対面の転校生なんて、あちらから話を弾ませてくれない限りは会話なんて続くはずがない。

 クラスのお調子者の男子ですら撃沈したのだから、わたしなんて以ての外だ。

 なら、会話のきっかけを作ろう。

 まずは彼女の正体が吸血鬼だと知っているのだとアピールし、その上で、吸血鬼であっても受け入れて仲良くする心構えであると伝える。

 よし、これでいこう。

 しかし「あなたは吸血鬼ね」なんて直接指摘したとして、例えそれが正解であっても「ええ。そうよ」とは白状してくれないだろう。簡単に白状するなら人間に紛れて住んでいるとは言わない。

 帰宅したわたしは吸血鬼の情報をもう一度見直すことにした。

♯♯♯

 吸血鬼の弱点といえば、大蒜にんにくだ。

 日光にも弱いはずなのだが、そもそも彼女は日傘などで日光を遮ろうともせず、普通に登校している。太陽を忌々しげに睨みつけているのも見かけるが、それはわたしも似たようなものだ。

 太陽を克服したのは人間に合わせて適応進化した賜物か、それとも吸血鬼の秘薬でもあるのか。いや、ただ日焼け止めを塗っただけで太陽を克服出来ていた作品もあったな。

 大蒜が弱点とは言っても、学校で彼女に大蒜をぶつけるなんて出来ない。それこそ嫌われてしまうし、これからの学校生活をわたしはクラスメイトに向かって大蒜をぶん投げた変な女子として生きていかなければならない。想像しただけで背筋が震える。耐えられそうにない。

 吸血鬼は大蒜の強い臭いに弱いらしいので、物理的に大蒜をぶつけたところで何の意味もない。

 なら、大蒜を使った料理を振る舞おうか。

 しかし、わたしと転校生の彼女はそんな親しい仲ではない。急にほとんど話したこともないクラスメイトから料理を勧められて食べるだろうか。その上、大蒜臭い料理を。吸血鬼でなくても、わたしなら食べない。

 その上、わたしはクッキーを作ろうとして何度も炭と石ころを生成して以来キッチンに立つことをお母さんに禁止されているのだから、料理は出来ない。

 妥協案として彼女の机の上に、餃子の香りのする匂いつき消しゴムを置いて様子を見ることにした。

 登校してきた彼女が、机の上に置かれた異物に気がついた。わたしは自分の席からこっそり様子を窺う。子供の頃にお母さんに仕掛けたイタズラを思い出して、少し楽しくなってくる。

 キョロキョロと辺りを見回してから、彼女が消しゴムを掴んだ。さて、どんな反応をするのかな?

 期待するわたしとは裏腹に、彼女は何事もなかったように消しゴムを教室後方に設置された「落とし物入れ」と書かれたダンボールに投げ入れた。

 これは、どっちなんだろう? 彼女は大蒜の臭いを嫌がったから、すぐに落とし物入れに入れたのか。それとも、ただ単純にスルーされただけなのか。わたしには判断がつかない。

 気を取り直して、次の作戦へ行こう。

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