異能力で異世界充実

田所舎人

第三節 新アイテム

 アイリス達は屋敷で待機させて今度はロージーを連れてオルコット商会を訪ねる。するとすぐにセシルが出てきた。
「お待たせしました。ひょっとして昨日の件ですか?」
「ああ、ロト陛下から物資運搬の依頼があってな。昨日の件を進めたいと思って来た」
 ロトの名前を出すとセシルはぎょっとするも居直して冷静に務めた。
「それなら試作ができていますよ」
「早いな?」
 昨日の晩に話したのにもう出来上がったのか。
「商品として有った物を職人の手で組み合わせただけですから」
 セシルがそう言って見せてくれたのは滑車と木箱とパレットと台車だ。言い換えれば、クレーンとコンテナとパレットとハンドリフトだ。
「作ったって事は試したのか?」
「はい。これは物流の革命ですよ!」
 そう断言セシル。この発案はある事が切っ掛けだった。
 初めてクリスティーナ王女と会った時にシャンデリアが滑車で吊るされている事を覚えていた。そこから、この世界にもクレーンがあれば荷の上げ下ろしが楽になるのになと考えていたのでセシルと話をしていると、クレーンと吊り易い木箱があればいいなと話したり、クレーンがないと木箱が運べないのは不便だと話して、それならとパレットやハンドリフトという概念を話してみた。するとこれがセシルの琴線に触れたわけだ。
 どれも俺の世界、特に製造業ではよく使われる道具のため、こちらの世界にもあればいいなとは思っていた。それらのアイデアをセシルは見事に形にしてくれた。
「まだまだ手直しできる部分はありますが、今までに比べれば楽に物の移動ができます」
「それならアイデアを出した甲斐があったよ」
 セシルが職人に作らせたクレーンは木製の支柱に補強の梁を設けた腕があり、その先端に滑車がロープで吊るされている。
 木箱の方は四隅に金具が取り付けられ、そこにロープを掛けて四点吊りをする形みたいだ。
 パレットは板の下部に二本、又は三本の桁を設けると下部に隙間が生じる。そこに棒を差し込んで持ち上げる事が出来る運ぶための台みたいなものだ。これがあれば物を運ぶ時にバラで運ばずにパレット単位で運ぶことができる。小さい木箱を山積みにして一度に運ぶことも可能だ。
 台車はそんなパレットを運ぶための物だ。さすがに現代のハンドリフトのような昇降機構は無いが、クレーンがあれば運ぶことは可能だ。
 これらの道具を試してみると、現代アイテム程ではないが、実用に耐える物だった。
 ロトの依頼の件もこれらの道具があれば格段に楽になるだろう。
「なら、早速だけど商談といこうか」
「ええ。いつもの場所でいいでしょうか?」
「ああ」
 セシルの案内でいつもの商談室に通される。
「早速だけど、あのクレーンと木箱とパレットと台車を購入したい」
「そう言って頂けると思いました。数はどれ程でしょう?」
 スマホの計算機を使って簡単な推定を行う。
 この街の大きさがおよそ直径五キロだ。面積にして約二十平方キロメートル。一平方キロメートルに国民が一万人が居るとすると、陽の国の国民は推定二十万人。その人口の内、兵士は一パーセントとすると、陽の国の兵士の数は二千人。戦時なので徴兵も加味するとこの倍の四千人を想定する。
 一人当たりの食料がパン一ポンド(五〇〇グラム)らしいので、それを基準にすると四千人の兵士が一日に消費する食料は約二トン。
 正方形の木箱が一辺八〇センチ。容積を五〇〇リットルとする。空隙率四〇%とし、比重を水より軽い程度とすると、木箱一箱あたりに二百キロ超を入れる事が出来る。
 兵士が一日に消費するパンを輸送するだけに必要な木箱の数は……十個か。食料以外の事も考えると倍の二十は欲しいか。
「クレーンを四基、木箱を二十箱。パレットを十枚。台車を二台だ」
「そんなにですか?」
「それだけ必要なんだよ。なんせ陽の国をあげての大戦争で相手は魔王だからな」
 セシルが俺の言葉にビクッとなった。それもそうだ。これから戦争が起きようとしているんだ。
「金額交渉はロージーに任せるけど、元々は俺のアイデアだからな。そこんところは頼むぜ。セシル」
「……はい、もちろんです」
「それじゃあロージー。後は頼む」
「任せてください」
 退室して次の策を練る。俺の能力の都合上ゲートを設けるために一度は現地に行く必要がある。ならば、このタイミングで向かうのがいいだろう。
 アイリス達を連れて行くかどうか逡巡し、本番はもう少し先だと結論付け俺だけで話に聞く砦へと向かう。もちろん馬にも馬車にも乗れないので、以前製作した魔動四輪車を使っての移動となる。
 魔動四輪車はそれなりの大きさであり、手で持って行くのは難しいため、大通りをこれに乗って移動するわけだが、公道をゴーカートで走るような奇異な視線を向けられた。
 また、城門で出国手続きをする際はかなり疑われたが、兵士の一人が俺が大会に出ている事を知っていたため何とかなった。
 こんなところで大会出場で顔を売ることが役立つとは思わなかった。
 ついでに兵士に砦までの道を聞くと砦に常駐する兵士のために定期的に馬車が出ているので、その轍を目印にすれば迷うことは無いと教わった。
 轍となっている道はある程度踏み固められているため魔動四輪も思ったよりはガタつかなかった。それでも長時間乗ればもちろんケツは痛くなるし、車酔いだってする。
 休み休み魔動四輪を進めて、幾つかの丘を乗り越えると遠くに砦が見えてきた。
 大きさとしては二階建ての小学校ぐらいだろうか。思ったよりは大きくないが、常に戦力を集中させるほどでもないとすればこの程度なのかもしれない。
 砦に近寄ると兵士が一人出てきた。
「何者だ?」
「ロト陛下の遣いの神崎一樹です」
「やはりか」
「やはり?」
「ロト陛下より遣いがあった。奇妙は風体の黒髪の男が訪れた場合は持て成すようにと。まさか、奇妙な車に乗ってくるとは思いもよらなかったが」
 まぁ奇妙と言えば奇妙だろう。馬を動力としない車なのだから、常識外だろう。
「もうすぐロト陛下が率いる軍隊が来ると思いますけど、その軍人達の食料輸送の依頼を受けたので、中に入ってもいいですか?」
「良いだろう。私はこの砦を任されているコースト軍曹だ。君のための部屋も用意してある。まずはそこへ案内しよう」
「よろしくお願いします。コースト軍曹」
 砦の内部は散らかっている訳ではないが、やはり男所帯のせいかあまり清掃は行き届いていない。それに砂埃と汗の臭いであまり気持ちのいいものではない。
 内装も飾り気は無く、石材の材質も街で見かけるような白い物ではない。とにかく堅牢無骨という印象を受ける。
 階段を上って二階へと上がり、扉を幾つか過ぎたあたりで軍曹が立ち止まる。
「ここが君に用意した部屋だ。何人か奴隷がいると聞いているが奴隷に部屋を与える程余裕はないため、同じ部屋を使うように」
 軍曹が扉を開き中を覗く。部屋には木製の窓とベッドが一つ。あとは壁に燭台があるぐらいだ。
「ありがとうございます」
「他に作戦を遂行する上で質問はあるか?」
「それじゃあ物資を運び入れるための貯蔵庫を見せてもらえますか?」
「それならばこちらだ」
 階段を下りて、砦の入り口から一番遠い扉へと向かう。
 扉を開くと、格子戸が付いた人が入れない程度に小さな窓が明り取りになっている。中を覗くと学校教室一部屋分ぐらいの広さだろうか。これから俺が運び入れようと考えている木箱を百個以上収納しても余裕がある。
「なるほど。これだけあれば大丈夫そうだな」
 おあつらえ向きなスペースもある。
「これでいいか?」
「はい、十分です。これからここに物資を運び入れますが気にしないでください」
「そう言うわけにもいかん。ここは私の砦であり、これから運び入れられる食料は国軍兵士が口にする物。初めの内は私も立ち会おう」
 さすがに砦の長だけあり責任感はあるようだった。
「分かりました。それでは運び入れる際はご連絡します」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品