異能力で異世界充実

田所舎人

第六節 夕時

「おかえりなさい、カズキさん」
「ああ、セシル。アイリスが帰ってきたみたいでな。夕食の準備を始めるみたいなんだけど、セシルも食べてくだろ?」
「いいんですか?」
「ああ。気にせず食ってけ。ついでに食材でどんな料理ができるかも見て行ってくれ」
「ありがとうございます」
 俺は再び定位置に座る。
「カズキさん、この部屋には見たことが無い物がたくさんありますが、これらはどういった物なのでしょうか?」
「ん? ああ、それか」
 この部屋には現代から運んできた家電がいくつかある。現代から延長コードを異世界に延ばし、目立たないベッドの下から延長コードをニョキニョキ伸ばしている。
 電気ケトルとか、スマホの充電器とか、まぁそういったやつだ。
「こっちは水をお湯にする機械、こっちがスマホのバッテリーを充電する機械……セシル、機械って分かるか?」
「機械ですか? 水車とか風車の事ですよね」
「へぇー」
 俺は少し感心した。機械と言えば、現代では電気で動く物を連想するが、実際は人力以外の動力で動く装置を指す。そういった意味では水車や風車は立派な機械だ。翻訳の魔宝石が正確に働いているのか、セシルの見識が広いのか分からないけど。
「間違ってましたか?」
「いや、正解だ。水車なら流れる水の力、風車なら風の流れる力を使ってるだろ? 俺が使ってる機械は電気の流れる力を使ってるんだ」
「電気ですか?」
「ああ。まぁ詳しく説明すると時間がかかるからそういう物だと思ってくれ」
「はぁ……それで、それは私達にも使える物でしょうか?」
「あー……それは難しいだろうな」
 家電は安定した通電を要求される。そこを安定して供給できるなら……。いや待てよ……。そういや、回転する魔宝石があるならそれを使って発電を……それで、バッテリーを経由させて……。でも、直圧だろ……変換させればなんとか……。
「カズキさん?」
「……ああ、悪い。考え事をしてた」
 俺は工学の中でも機械が専門で電気は詳しくない。それでも、調べながらの作業になるだろうが、できないことは無さそうな気がしてきた。
 そもそも水力や火力を電力に変換するなら、魔力だって電力に変換できるだろう。
「まぁそういった便利な道具が俺の国にはあって、それらの道具を安定して使うためのインフラが整備されてるんだ。逆に言えば、そのインフラがない陽の国じゃ難しいって話」
「そういうことですか……」
「まぁその電気を蓄えた電池ってのを使えばこの国でも使える物はいくつかあるから、今度用意しようか。といっても、中にはそれなりに値が張るから考え物だけど」
「それでも、見てみないことには始まりませんから、一度見せて頂けますか?」
「んー、まぁそうだな。まぁ手始めに安い奴から始めてみるか」
 それに電池で動くってことは電池が売れるってことだ。それは悪い話じゃない。
「カズキ様ー、皆さんがお帰りになられましたよー」
 アイリスの呼び声。耳を澄ませると足音や話し声が聞こえてくる。
「セシル、そろそろ降りようか」
「はい」
 セシルは着崩した服装を正してから俺を追って部屋を出る。
「みんな、おかえり」
 偶然なのか、全員が同時に帰ってきた。フランが少し赤ら顔なのは旧友達と酒でも飲み交わしたのだろう。
「ただ今戻りました。ご主人様」
 ジェイドが律儀にも腰を折って挨拶をする。それに比べ、アンバーの方は目配せだけで返してきた。
「あら、セシル様はこちらにいらしたのですか」
 ロージーが少し驚いた風だ。
「ああ。商品を仕入れたからセシルに足を運んでもらったんだ。そしたら、フランの試合が無くなったって聞いて、それならついでだから一緒にお茶でもしないかって誘ったんだ」
「そういうことでしたか」
「ロージーはセシルに何か用事があったのか?」
「えーっと、それは……」
「ロージーはカズキ様から聞いた話をセシル様にお聞かせしようかと思い、商会に訪問したんです」
「ハリソン!」
 少し恥ずかしそうにしてハリソンを肘でつつく。
「カズキさんから聞いた話ですか?」
 セシルが少し興味深そうだ。
「ああ、まぁ色々とね。アイリス、料理の下拵えは終わったか?」
「はい」
「なら、今日はジェイド、アンバー、アイリスの三人で料理を作ってくれ」
「私はいらないんじゃ……」
「いや、アンバーにはフランに出す料理を頼もうか。今日は特に食材にこだわってみたからな。いつも食べてるやつより上質な奴だぞ。厨房に立ってくれるなら、自分で食べる分も好きなようにしていいぞ」
「仕方ないわね」
 ちょろいな。
「それまで少し時間があるから、ロージーはセシルに色々と話してくれ。ハリソンとフランは……まぁ酒でも飲んでくつろいでくれ。俺は酒の味が分からないから、とにかく数は揃えた。好きなだけ飲んで、自分の好きな味を探してくれ。酒は食堂の壁際の棚に適当に並べてあるから」
「「ありがとうございます」」
 ハリソンとフランが礼を言う。フランはやっぱり少し酒臭い。
「カズキ様はどうなされますか?」
「俺か? 俺は一度部屋に戻る。配膳が終わったら教えてくれ」
「分かりました。ゆっくりくつろぎください」
「あ、セシル。例の商品だけど代金は先に受け取れるか?」
「私とカズキさんの仲ですから、それぐらいは融通できますよ」
 そういってセシルは懐から紙とペンを取り出し、スラスラと何かを書き始めた。
「こちらが証書です」
 現金と引き換えにできる書面だ。たった一枚の紙が額面通りに価値になる。紙幣や小切手みたいな物だ。オルコット商会に引き渡せば現金になる。
「アイリス、一応内容を改めてくれ」
「分かりました」
 アイリスは契約書を読む。アイリスは貴族育ちで実年齢は俺より上。こういった教養は十分にあるだろう。
「セシル様の言うとおりの内容でした」
「ならいいや」
「明朝に馬車を手配しますね。積み荷の量が量なのでそれなりの人数が来ると思いますがご容赦ください」
「了解。それとさっき部屋で話した件も考えておいてくれ」
「ええ。少し時間はかかると思いますが」
 俺とセシルは笑い合う。
「じゃあ、ひとまず解散。後で食堂に集合で」
 俺の宣言で各自散り散りとなる。俺もまた自室に戻る。
「さてと」
 日も暮れ、昨日と同じぐらいの時間か。
 カツカツ。
 窓を叩く音。
「開いてるよ」
 俺がくるりと窓に視線を向けるとそこには昨日と同じ人物がいた。
「おっと、今度は驚かないんだな」
「まぁ来るだろうとは思ってたから」
 フィルが窓を開けて入る。
「じゃあ、早速だけど情報を話そうか」
「ああ、頼む」
「旦那もロトが陽の魔力を持つ優秀な魔術師でもあるってことは知ってるよな?」
「ああ」
 活性による身体能力の向上や、肉体の自然治癒の向上まで幅広い能力の持ち主だったか。
「あの集団の熱気はロトの魔術によるものらしい」
「らしいってどういうことだ?」
「俺も魔術に精通してるって訳じゃないんだ。俺ができることは各分野に精通してる人間から情報を聞き出して、多角的な情報を統合するって事。情報屋が情報を自分の足で運ぶなんてまずしないからな」
「ああ。そういうことね」
「魔術に関しちゃソイツの言う事は信用できる。まぁ旦那はそういっても信用できないだろうけどな」
「まぁソイツを信用するアンタを信用するよ」
「面白い言い回しだな。でもまぁそう言ってくれると話が早くて助かるぜ」

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