異能力で異世界充実

田所舎人

第十一節 再会Ⅱ

 フランだけを残らせ全員を部屋に返した。
「フラン、試合の方はどうだった?」
 フランは無傷のため負けたという事はないだろう。
「主の命に従い、無傷で勝利した」
 当然のことだと言い切るフラン。
「相手はどうだった?」
「簡単とまでは言いませんが、難しくも無い相手でした」
「…………」
 まぁフランの実力をしっかりと見たわけじゃないから何とも言えないが、事実無傷で戻ってきてるんだ。相手が格下だった事は間違いないだろう。
「お疲れ。食後のデザートでもどうだ?」
 普段のデザートは携帯用の飴玉だが、ここは俺の部屋。菓子類も多様に揃えている。
 手近な袋詰めの菓子や菓子箱を眺めてチョコチップクッキーを手にとった。
「まぁ労いの意味も込めて少しお茶にしよう」
 俺はアイリスを呼び出して二人分のお茶を用意させる。クッキーに緑茶という取合せだが、ここは俺の流儀を通させてもらう。俺は紅茶をあまり好んで飲まない。
 お茶を用意してもらったチップとしてアイリスにチョコチップクッキーを手渡す。アイリスには通じないだろうが、俺は面白いと思った。
 アイリスは嬉しそうに受け取って退室する。
 俺はクッキーの包装を解いて適当に紙皿に並べる。
「さてと、お疲れさん」
 俺は湯呑を掲げて労いの言葉を再度かける。
「ありがとうございます」
 俺の仕草を真似してフランも湯呑を掲げる。
「明日から四回戦、五回戦、準決勝戦、決勝戦か。あと四回戦、頑張れよ」
「主の命とあれば優勝してみせます。ところで、主の体調はいいのですか?」
 今の俺は広範囲に浅い傷を受けており、その一つ一つに処置が施されている。そのため肌が見える所からはチラチラと絆創膏や包帯が見える。
「ああ、平気だ。そういやアイリスの試合はあれからどうなった?」
「アイリスさんですか……。アイリスさんは不戦敗となりました」
「……まぁそうだろうな」
 俺の試合が終わってからそれほど間がない頃にアイリスの試合が予定されていたはずだ。なのに俺を屋敷まで運ぶとなれば、無理が生じる。
「アイリスさんを咎めますか?」
「まさか。アイリスは正しい判断をした。少なくとも、俺にとって良い判断をしたと思ってるさ。だから、俺は咎めるどころか褒めるぞ」
「そうでしたか。無粋な質問でした」
「いや、いいんだ。それよりもフランはどうしてこっちに来ずに試合に出た?」
 少し意地悪な質問をしてみた。
「仮にここが戦場で主が倒れ、アイリスさんが主を守るとするならば、私の役目は敵を片付けること。それに対し、背を向け主の傍にいる事は決して良い選択ではない。そう判断したからです。それに私が主の傍にいたからといって、何もできなかったでしょうから」
 そう言ってからフランはクッキーを口に入れた。
「なるほどな。適材適所は大事だしな。役も役者も過不足無いのは良い事だ。ご苦労さん」
 フランとのお茶を終え、俺は一度現代に戻った。俺の治療のためにアイリスが色々と道具を使ったのでその補充のためだ。出番はないだろうがフランに使う可能性もある。
 現代用のサイフをポケットに入れ、リュックを背負って近くの薬局に向かう。薬局といってもディスカウントストアだ。品物が安いので重宝している。
「まずは包帯、それから菓子類と飲み物かな」
 疲れが出ているのか、考えが口についてしまう。そこそこ遅い時間のため周囲の人もいないため特に改めようとも思わなかった。
 買い物カゴに薬類や菓子類、それから小腹が空いた時用の10秒チャージゼリーとカロリーとお友達のブロック栄養食を買い足す。
 そこそこカゴが重くなり会計を済ませようと思ったら一人の女性が目に留まった。
「あれ? 神崎じゃん」
 いつかと同じく水城愛理と再会した。
「……ああ……久しぶり」
「そうだね。あれ? 神崎、すごい怪我じゃん? どうしたの? 誰かと喧嘩でもした?」
 身体中の切り傷は絆創膏や包帯で手当てされている。首筋や手首等、シャツで隠せてない部分は目立つのだろう。
「俺が喧嘩なんてするわけないだろ」
「じゃあ、その怪我はなんなの? 階段から転んだって感じでもなさそうだけど」
「色々あったんだよ。それより、水樹は何しに来たんだよ」
 水樹は俺の顔を覗き込んでくる。
「神崎、昔と変わってないね。話を変えるの下手すぎ」
「うるせぇ」
「まぁいいや。私もちょっと買い物。それにしても、神崎そんなにお菓子食べると太る……いや、むしろ食べなさい」
「どういう意味だよ」
「あれ? でも、昔より筋肉付いたんじゃない? ほんの少しだけど筋トレでもしてるの?」
「あー……。最近、体を使うことが多かったからかな」
「あ、分かった。何かスポーツとか始めたんでしょ! それでそんな怪我を」
「違うよ」
 水樹は鋭いんだか鈍いんだか分からない。
「なんか変な宝石とか付けてるし……似合わないよそれ」
 吸魔石からの魔力供給を断っているのでわざわざ加重のベルトや翻訳の魔宝石を外していない。それが水城には引っかかったようだ。
「ほっとけ」
「それってイミテーション? 耳飾りに首飾り、ベルトにまで変な宝石とか付けてるし、神崎ってそんなに趣味が悪かったっけ?」
「別に好きで付けてるわけじゃねぇよ。それにこれはイミテーションじゃなくて本物な」
「ええー! だって、それ大きすぎるよ? 数万円じゃ買えないと思うよ?」
 曲がりなりにも魔人の核となる魔宝石、魔獣に比べれば確かに一回りでかいが……。
「まぁいろいろあってな。他にもこんだけある」
 俺は二、三粒の魔石をベルトポーチから取り出す。ロンにベルトを切られたため、少し新しい方のベルトに替えてある。
「えー! そんな無造作に扱ったら、宝石が傷つくよ?」
「ああ……」
 そういえば、宝石によっては引っ掻き傷に強い弱いってあったっけか。魔石として捉えてたから傷つくとかポンと抜けてた。
「そうだな。ちょっと扱いが雑だったか」
「それも全部本物?」
「ああ。紆余曲折あって俺の物になった」
「まさか、盗んだりしてないよね?」
「盗んでたら水城に話してないよ。それに宝石強盗とか、宝石窃盗とかそんな事件とか起こってないだろ」
「そうだけどさ。でも、随分と羽振りがいいみたいだね?」
「まぁちょっとした小金持ちって奴だよ」
「あんまり自慢してると、悪い人に襲われちゃうぞ?」
「今の俺なら返り討ちにしてやるさ」
 こっちの世界では俺自身の力は平凡だが、力の魔宝石によってみかけの筋力が三倍ぐらいにできる。そして今では五大属性の魔宝石すら持ったんだ。拳銃でも持ち出されない限り、勝てるだろう。
「へぇー、そんなこと言う神崎初めて見た。前はそんな感じじゃなかったのにね」
「昔?」
「私と付き合ってた頃、いっつも卑屈だったでしょ? いっつも私に謝ってばっかりで」
「そうだったっけ?」
「そうだよ。あの頃の神崎よりは今の神崎の方がいいと思うよ? まぁアクセサリーの趣味は良くないけど、やっぱり男は自信を持ってた方がいいな」
「…………」
 俺、そんな風に思われてたのか。
「もしかして、彼女でもできた?」
 彼女でもできた……。
「……いや、彼女はいないよ」
「なに? その間。でもそっか。早くできるといいね」
 彼女……。彼女かぁ……。
 俺はロージーとアイリスが抱き合う姿を思い出した。
「彼女より嫁が欲しいな」
「気が早いね。でも、そのうちできるよ」
「ありがとう」
「じゃあ、私そろそろ行くね」
「ああ、じゃあな」
「連絡先交換したんだから、たまには連絡ちょうだいよ。それで食事でも誘って、小金持ちの神崎一樹君」
 水城はそういって手を振って行った。

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