異能力で異世界充実

田所舎人

第三節 初戦

「さすがレオ副隊長から推薦を受けたカンザキ選手! ダッド選手の凶悪な突きを叩き上げた! ダッド選手の大剣の刃が砕けるほどの衝撃。初戦から互いに全力のぶつかり合いだ!」
 いや、こっちは弾いただけのつもりだったんだけど。というかシク男の名前はダッドって言うのか。
 ダッドが大剣を再び中段に構える。傷ついた刃を上、無事な刃が下になるように持ち替えている。
 こっちは見かけ上は万全だが、心臓が口から出そうなほど脈が激しい。心臓の鼓動が喉奥にまで伝わり、気持ちが悪くなってきた。
「さすがに先ほどのぶつかり合い! ダッド選手も困惑しているようだ! 身体的にはダッド選手が有利かつ武器のリーチもダッド選手が勝っている。しかしその実、カンザキ選手が恐ろしく力強かった! ダッド選手、さすがに安易に踏み込めなくなったぞ!」
 ダッドはじりじりと間合いを詰めようとしてくるが、先ほどの様な強い踏み込みはしてこない。対して俺は緊張から仕掛けられずにいる。
 ダッドは牽制するように剣先を揺らしてくる。しかし、その刀身はかなり傷んでいる。そういえば、曲がりなりにも俺はレオの武器を破壊する事で勝てたんだったか。
 今に来て思ったが、俺が持ってるこの武器。人を殴れば簡単に死ぬだろう。刃の厚い大剣をあれだけ損傷させる破壊力、人間の腕や脚に命中すれば、折れるどころか弾け飛ぶ可能性すらある。それにあの初撃で刃先が潰れず欠けて折れたという事は鋳造品かもしれない。鋳造品は量産が出来て安価だが、鍛造品に比べて靭性が低く脆い特徴がある。刃先だけでなく芯まで亀裂が入っているなら後は簡単だ。その亀裂を成長させればいい。
 俺は武器破壊を狙うことにした。
 すると、不思議と身体が軽くなった。
 先ほどの条件反射的な振りではなく、相手の大剣を折る意識の元、メイスのグリップを握り直す。
「先に仕掛けるのはカンザキ選手! ダッド選手、それを受ける態勢だ! ダッド選手は大型魔獣を相手にする冒険者! その獲物も対魔獣仕様、これが対人戦においてどのような影響を与えるかと思われたが、あのカンザキ選手の一撃を耐えられたのはこの大剣だからこそと言ってもいいでしょう! しかし、後がないぞ!」
 俺はメイスで大剣を折るための一撃を叩き込もうとした。しかし、メイスは大剣に触れること無く空振った。
 まずい。
 俺の狙いが読まれていたのか。
 相手は戦闘のプロ、俺の考えなんて簡単に読まれたのかもしれない。
 メイスを振り上げて空振った今の俺は隙だらけ。そこにダッドが突っ込んでくる。
 俺を吹き飛ばす目的のタックルだ。
 俺は振り上げた姿勢で棒立ち不安定な体勢ながら、どうにか左足に力を入れて踏ん張った。
 さすがの巨体、その衝撃は尋常ではなく俺は後ろに吹き飛んだ。しかしそれは相手も同じだった。むしろ、ダッドの方が何かに驚いている。
 ……あ、そういうことか。
 今の俺は加重のベルトの効果で見掛けの体重が約200キロ。仮にダッドの質量が100キロ程度だとしたら俺とダッドの質量比は2:1。俺が1メートル吹っ飛ぶ作用があれば、ダッドには2メートルは吹っ飛ぶ反作用があるのが道理だ。
 理屈の上ではそうなる。しかし、それをこんな土壇場で改めて発見することになるとは。
 ……つまり、俺の身体そのものが超重量級の武器ってことか。
 速度が同一なら、質量が増すだけ運動エネルギーは増える。それはそのまま破壊力に繋がる。
 互に硬直し合っていたが、俺が先に仕掛けさせてもらった。
 先ほどと同じように武器破壊狙いの一撃、ダッドは当たり前のようにその攻撃を躱す。しかし、あの大剣を操る以上、軽いフットワークは無理だ。地に足がしっかりついており、サイドステップやバックステップはそこまで得意じゃないようだ。本来ならば、武器でガードをしながら一撃を繰り出すというのがダッドのスタイルなんだろうが、そのガードそのものが行えない現状はダッド自身の実力が出せていないということなのかもしれない。
 それに対し、俺は質量こそダッドの持つ大剣より上だが、長さはあの大剣ほどじゃない。重心が手元にあるため操るのは意外に簡単だったりする。まぁ力の指輪のアシストあってこそだが。そう言った理由から重さの割に自由に動かせ、また俺のフットワークも現代とそう大きく変わらない。
 つまりは、ガードができないダッドをメイスで牽制しつつ、体術で倒す。武術の武の字も知らない俺だが、重さは武器。それぐらいは分かる。
 相手も戦闘のプロ、生半可な体術では簡単に見切られるだろう。だからこそ、意外な一手で隙を作るしかない。
 先ほどと同じ攻撃を繰り出し、こちらが隙を見せたのもそのため。ダッドは大剣を横薙ぎにして俺に攻撃を仕掛けた。
「障壁!」
 自分で誘っておきながらなんだが、やはり刃が自分に向かってくるというのは怖い。
 それが絶対に防げる攻撃であったとしてもだけど。
 ダッドの大剣は俺の身体に触れる前にピタッと止まった。ダッド自身、何が起こったのか分からないといった表情。
 俺は一気に間合いを詰め、重心が前傾になったダッドの手首を掴み、簡単に引き倒し俯せになったダッドの両腕に俺が両脚でのしかかる。そして止めにダッドの頭部スレスレの場所にメイスを突き立てる。
 城内に石畳が割れる音が響き、雌雄は決した。
「勝者! カンザキ選手!」
 意外な幕引き。傍から見れば、小男が大男を組み伏せるという異様な光景。この光景を理解できる物がどれだけの数いるだろうか。
 ダッドは実況でもあった通り、魔獣退治を主としているらしい。確かにあの大剣は対人には不向きだ。なにより、破壊力が過剰すぎる。俺が言うのもおかしな話だが。
 俺は倒れたダッドの手を取り、立ち上がらせる。やっぱり、見た目ほど重くはない。
「……素人に負けたか」
 ダッドはそう呟いた。
 俺の実力は推し量られていたらしい。事実、素人だ。武器の扱いも素人丸出し。分かる人間には分かるだろう。
「……俺がアベル人に力で負けるとは思わなかった」
「俺の力は魔宝石によるものですから」
「それは俺も同じだ」
 あの大剣を操るために力の魔宝石を使っていたのか。そういえば、俺の本来の力は魔宝石を付けたシーク人並と言われたことがあったか。その俺が更に力の魔宝石を付けているんだ。確かに力では俺が勝っているのだろう。
「面白い体験をさせてもらった」
 そういってダッドは舞台から降りた。俺もダッドに続き、舞台から降りる。
 午前の試合はこれで終わり。少し時間を空けてから二回戦が始まる。微妙な時間で祭りを楽しむ時間はない。
 俺は適当な場所に腰掛け、武器の手入れをする。とはいうものの、頑丈さを重視したメイス。大剣が欠けるほどの衝撃にもかかわらず、あまりこちらにはダメージがない。
 メイスを手入れする必要がないとなるとすぐに手持無沙汰になった。
「カンザキさんッスよね?」
 目の前に影。俺の事を知っているようだ。
「そうだけど……あ」
 ジムだ。万屋猫目石の店主、リコの客だった男。冒険者として活動し、今大会にも出場していたはずだ。
「久しぶりッス。ジムッス」
「ああ、久しぶり。元気にしてた?」
「はい。あれからカンザキさんに負けないよう鍛えてたんすよ。それで、大会にも出場することになったッス」
 どっかの羽の生えたペンギンもどきのような喋り方をするジム。
「さっきの戦い凄かったッスね。ダッドさんって言えば『両断の大剣』と呼ばれた男ッスよ。それを倒すカンザキさんは今回の大会でも注目株間違いなしッスよ」
「二つ名持ちなのか。でも、シード選手じゃないみたいだけど」
「ダッドさんは魔獣殺しが専門ッスからね。対人も苦手ってわけじゃないはずッスけど。俺みたいな並の冒険者なら相手にもしてもらえないッス」
 そうなのか。
「そういや、ジムも大会に出場してたんだろ? もう一回戦は終わったのか?」
「俺っちの一回戦はもう少し後ッス」
「そっか。頑張れよ」
「おっす。それじゃ、俺っちは行くッス。カンザキさんもこのまま勝ち進んで欲しいッス」
 そう言ってジムは走り去った。どうやら仲間を待たせていたようで、輪の中に入り人ごみに消えていった。

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