異能力で異世界充実
第五章 第一節 式典
翌日。
夜分に襲われることもなく快眠を経て目覚めた俺は現代の自宅で着替えをし、普段はあまり使わない工具入れ用のポーチを腰に付ける。中には各種魔宝石と魔石、それから現代小道具を何個か入れている。
そして、異世界に戻ると式典会場まで送るという馬車が手配する申し出を受けたが、そちらの方は断った。なにせ、自分達の馬車があるのに人様の馬車に乗るのは気が引けるからだ。
ロージーに馬車を用意させて皆で乗り込み、各々が固まって座り込んでいる。いつものようにハリソンとロージーが御者台、ジェイドとアンバーが荷台の後方、俺とアイリス、それにフランが荷台前方で固まっている。
俺はなんとなくアイリスを引き寄せて膝枕をして頭を撫でた。
「カズキ様、どうかしましたか?」
「いや、こうしたかっただけだ」
俺はアイリスの滑らかでひんやりとした長い髪を手櫛で梳く。
あの時、アイリスの事を思い出さなければこの荷台に乗る人数が一人増えていたのかと思うと、雰囲気に流されなくてよかったと思った。間違いなくギスギスしていただろう。
「飴食べるか?」
「いいんですか?」
「ああ」
飴玉を直接口の中に入れる。飴玉を口に含む時のアイリスの唇になぜかドキリとした。
ダメだなぁ。昨日の今日だから、意識してしまう。
俺は頭を振ると、フランが一点を凝視しているのに気がついた。
フランは飴玉の包装紙を凝視していた。
「どうした?」
「いえ……」
そういや、フランは酒を飲んで酔いつぶれていたか。そういえば、少し顔色も悪い気がする。ムチとして二日酔いの刑にするか、アメとして酔い止めを渡すか。
…………。
まぁ今日は武闘大会、実力を出せないというのも悲しい話か。
つくづく自分が甘い人間だと認識させられる。
「ほら」
「いいのですか?」
「ああ。その飴玉分ぐらいは良い戦績を出してくれ」
「分かりました!」
フランは速やかに飴玉を口に入れた時、うっすらと酒の匂いがした。
……こっちが酔いそうになる。
「カズキ様、そろそろ式典会場に到着します!」
御者台からロージーの声が聞こえる。そういや、周囲の雑音も大きくなっているせいか、ロージーも大きな声を張り上げてる。
「あれ? 武闘大会の会場に行くんじゃないのか?」
「式典会場がそのまま武闘大会の会場になります! さすがに多くの国民を収容できるほどの施設はいくつも建てられるわけではありませんから!」
「ああ。そういうこと」
「一応、カズキ様の名前で会場の最付近まで近づくことはできましたが、ここから先は徒歩じゃないとダメだそうです!」
「ああ分かった。それじゃ、みんな降りろ」
俺の指示でてきぱきと動く。ジェイドが先に荷台から降り、アンバーが荷台の隅に置いてある足場を運び出し、ジェイドが設置する。そして俺達が順番に降りる。会場周辺は既に人で溢れ、この国の国民の全員が集まったのではないかと思う程に多い。明らかに病人や怪我人、あるいはカタギじゃない人間や、俺が知っている四種族以外の種族もいる。
会場に入ると丁度開会のファンファーレが流れた。
「よく集まってくれた! 陽の国の民達よ!」
大理石とはまた違う、白い材質で作られた壇上に立つロト。
「今年も皆の弛まぬ努力により、こうして今年も式典を開けることを心より祝おう」
ロトは俺に接する時とは違い神々しく弁舌し始めた。俺の目が間違ってなければ実際に比喩表現ではなく、本当に後光が見える。
「陽の国が建国して千余年。ここまで発展できたのは先人達の努力と知恵を受け継ぎ、その弛まぬ努力によるものだと私は確信している。故に、私は皆一人一人がかけがえのない仲間であると日々感じている!」
観客の熱気が徐々にヒートアップしてきている。皆の視線は全てロトの身に注がれている。
「しかし、我が同胞を害する存在がいる! それは何者か!? 魔族だ!」
魔族というワードが出た瞬間、一拍の間が空き、徐々にそうだそうだと同調する声が上がる。中にはぶっ殺せという血気盛んで物騒なワードすら当たり前のように上げられている。
「今年に入り、魔人の出没による国民同士の疑心暗鬼、魔獣の被害による食糧危機、様々な辛酸を舐めさせられた。そして、その波が皆の生活にまで及んできているのだ!」
この問いかけを否定するもは俺の周囲に一人としていない。
「そして私は改めて感じ誓った。これ以上、先人達が築き上げたこの国、我が同胞が暮らすこの安寧の地を、魔族に一歩たりとも踏み越えさせないと!」
ざわめきが一気に広がった。
「この式典において私は宣誓する! ロト・サニングの名に於いて、魔族を殲滅し人間の永遠の安寧を勝ち取ることを!」
一瞬の静寂。ロトの声は会場全ての民に伝染するように伝わった。その波は人々のざわめきとして発病していった。熱狂という熱病として。
「魔族を駆逐し! 魔族を殲滅し! 魔族を根絶やしにする!」
駆逐! 殲滅! 根絶やし! そんなフレーズが更に伝染した。
「愚かなる魔族に鉄槌を! 野蛮なる魔族に聖剣を! 私はもう一度宣言する! 私は魔族を絶滅させる!」
その瞬間、俺を除いた会場の全てが一丸となった。ハリソンやロージー、ジェイドやアンバー、アイリスやフランさえもその宣誓から逃れることができないようだった。
ハリソンは涙を流し、ロージーはハリソンの背中に顔を預け、ジェイトとアンバーは互いに抱き合い、アイリスとフランは俺に抱きついてきた。
「これはやばいな」
ロトの演説による興奮が冷めぬままロトは壇上から降り、式典の開会式の閉幕を大臣っぽい人が告げ、人々は思い思いの方向に足を向ける。しかし、皆の表情はまだ興奮が抜けきっていないことがありありと分かる。
「ほら、離せ」
俺はアイリスとフランを引き剥がす。それにしても、こいつらまで影響を受けるってどういう事なんだ?
「二人共どうしたんだ? というか、二人だけじゃなくてそこのバカ夫婦二人にバカ姉妹」
俺は他四名に声をかけ、平静を取り戻させる。
「どうしたんだよ。お前ら」
普段の様子と明らかに違う。異常だ。
「分かりません。ただ、ロト殿下の話を聞いていると私達家族が穏やかに暮らしていた頃を思い出しまして、感情が自分で止められないような感覚に……」
「私もそうだった。私の仲間が魔族に殺された時の事を思い出しちまった」
ロトの演説はそこまで皆の心に響くものだったのか? 俺がこの世界の住人ではないというそれだけの理由であの熱に飲み込まれなかったのだろうか。
……何かトリックがあるのか。
「主、開会式が終わったら直ぐに受付が始まります。早めに向かいませんか?」
目を赤くしたフランがそう言ってきた。まぁ考えても仕方がない。ただ、ロトには気をつけなければいけないな。
「ああ。行こうか」
俺は財布から金をいくらか取り出してハリソンに手渡した。
「折角の建国記念だ。お前ら森の国の民と湖の国の民には関係ないだろうが、祭りは祭り。楽しんでこい」
俺はハリソンとロージー、アイリスを見ながらそう言った。
「お前らも自由にしていいぞ。武闘大会を見物するもよし、買い食いするもよし。」
俺はジェイドとアンバーにそれぞれ金銭を手渡す。
「カズキ様!」
目を赤くしたアイリスが駆け寄り俺の服の裾を掴んだ。
「どうしたんだ?」
「私も連れて行ってください!」
「連れて行くって、武闘大会の見物ならすぐ始まるだろうからここで待ってればいいぞ」
「違います! 私も出場するんです!」
出場する……? 誰が?
「は?」
「出るって、何時、何処に、何の目的で?」
「今日、武闘大会に私が出ます。私の力を……カズキ様に見て頂くため……」
力? アイリスの力をか?
俺にはアイリスの戦う姿が描けなかった。そりゃあ魔法も使えるし、自衛ぐらいはできるかもとは思えなくもないが、武闘大会なんて舞台に立てるほどの実力があるとは思えない。
それに……。
「それは無理だ。出場登録はとっくに締め切っているだろう? なぁフラン」
「え、ええ。確かに当日の登録は原則行れていませんが……。カズキ様のように誰かの推薦があれば別ですが……」
「推薦ならあります」
アイリスはそういって羊皮紙を取り出した。そこに何が書かれているのか俺には読めない。俺はそれを受け取り、フランに手渡す。
「何が書いてあるんだ?」
「えーっと……これは……『クリスティーナ王女親衛隊副隊長 レオ・ルーカス』『連名 クリスティーナ・サニング』だそうだ」
「レオにクリスか……」
この二人からの推薦状……どうやって手に入れたのか……それにどのタイミングだ?
「カズキ様は私達に自由行動の許可を下さいました。なら、私も武闘大会に参加してもよろしいでしょう?」
「…………」
整理だ。状況の整理だ。
まず、アイリスが武闘大会に出場する障害は大会の運営側には無いに等しい。なにせレオとクリスの推薦状だ。
他に問題があるとすれば、俺がアイリスに出場することを許可するかどうかだ。
「フラン、お前はどう思う?」
戦闘経験がない俺があれやこれやと考えるよりも、実戦経験のあるフランに問いてみた。
「アイリスさんの実力なら予選は抜けられると思う」
そんなにアイリスの実力があるのか?
「その理由は?」
「まず魔法の適正が高い事。そして、頭が良い。それだけで冒険者として並の扱いを受けることができる。……そして、アイリスさんは魔人を知っている」
「魔人を知っている? それはどういった意味でだ?」
「アイリスさんは魔人と対峙し、こうして生き残っている事」
あ、そういうこと。なんとなく話の筋が見えた。
フランは俺が知らない所でアイリスの事を知っているんだな。
「……アイリス。魔石の貯蔵は十分か?」
「大丈夫です。この日のため、カズキ様から頂いた魔石は全て持っています」
「……上等だ」
アイリスはずっと前から戦う事を視野に入れていたんだな。
「アイリス。命令だ」
「なんでしょうか?」
「十全の力をもって自衛せよ。自衛法はお前に任せる。……嫁入り前の身体は大切にしろ」
戦うと言った以上、アイリスはただの少女ではない。
チープな言い方だが、魔法少女だ。それもわりとリアル志向でちょっとだけ血生臭い。
「フラン、お前もだ。全力で勝ちに行けとは言わない。自分にとっての最良の選択をしろ」
「分かりました」
俺は二人の目を見比べる。どちらも戦意は充実しているようだ。少なくとも俺より燃えているめだ。
「よし。行こう」
夜分に襲われることもなく快眠を経て目覚めた俺は現代の自宅で着替えをし、普段はあまり使わない工具入れ用のポーチを腰に付ける。中には各種魔宝石と魔石、それから現代小道具を何個か入れている。
そして、異世界に戻ると式典会場まで送るという馬車が手配する申し出を受けたが、そちらの方は断った。なにせ、自分達の馬車があるのに人様の馬車に乗るのは気が引けるからだ。
ロージーに馬車を用意させて皆で乗り込み、各々が固まって座り込んでいる。いつものようにハリソンとロージーが御者台、ジェイドとアンバーが荷台の後方、俺とアイリス、それにフランが荷台前方で固まっている。
俺はなんとなくアイリスを引き寄せて膝枕をして頭を撫でた。
「カズキ様、どうかしましたか?」
「いや、こうしたかっただけだ」
俺はアイリスの滑らかでひんやりとした長い髪を手櫛で梳く。
あの時、アイリスの事を思い出さなければこの荷台に乗る人数が一人増えていたのかと思うと、雰囲気に流されなくてよかったと思った。間違いなくギスギスしていただろう。
「飴食べるか?」
「いいんですか?」
「ああ」
飴玉を直接口の中に入れる。飴玉を口に含む時のアイリスの唇になぜかドキリとした。
ダメだなぁ。昨日の今日だから、意識してしまう。
俺は頭を振ると、フランが一点を凝視しているのに気がついた。
フランは飴玉の包装紙を凝視していた。
「どうした?」
「いえ……」
そういや、フランは酒を飲んで酔いつぶれていたか。そういえば、少し顔色も悪い気がする。ムチとして二日酔いの刑にするか、アメとして酔い止めを渡すか。
…………。
まぁ今日は武闘大会、実力を出せないというのも悲しい話か。
つくづく自分が甘い人間だと認識させられる。
「ほら」
「いいのですか?」
「ああ。その飴玉分ぐらいは良い戦績を出してくれ」
「分かりました!」
フランは速やかに飴玉を口に入れた時、うっすらと酒の匂いがした。
……こっちが酔いそうになる。
「カズキ様、そろそろ式典会場に到着します!」
御者台からロージーの声が聞こえる。そういや、周囲の雑音も大きくなっているせいか、ロージーも大きな声を張り上げてる。
「あれ? 武闘大会の会場に行くんじゃないのか?」
「式典会場がそのまま武闘大会の会場になります! さすがに多くの国民を収容できるほどの施設はいくつも建てられるわけではありませんから!」
「ああ。そういうこと」
「一応、カズキ様の名前で会場の最付近まで近づくことはできましたが、ここから先は徒歩じゃないとダメだそうです!」
「ああ分かった。それじゃ、みんな降りろ」
俺の指示でてきぱきと動く。ジェイドが先に荷台から降り、アンバーが荷台の隅に置いてある足場を運び出し、ジェイドが設置する。そして俺達が順番に降りる。会場周辺は既に人で溢れ、この国の国民の全員が集まったのではないかと思う程に多い。明らかに病人や怪我人、あるいはカタギじゃない人間や、俺が知っている四種族以外の種族もいる。
会場に入ると丁度開会のファンファーレが流れた。
「よく集まってくれた! 陽の国の民達よ!」
大理石とはまた違う、白い材質で作られた壇上に立つロト。
「今年も皆の弛まぬ努力により、こうして今年も式典を開けることを心より祝おう」
ロトは俺に接する時とは違い神々しく弁舌し始めた。俺の目が間違ってなければ実際に比喩表現ではなく、本当に後光が見える。
「陽の国が建国して千余年。ここまで発展できたのは先人達の努力と知恵を受け継ぎ、その弛まぬ努力によるものだと私は確信している。故に、私は皆一人一人がかけがえのない仲間であると日々感じている!」
観客の熱気が徐々にヒートアップしてきている。皆の視線は全てロトの身に注がれている。
「しかし、我が同胞を害する存在がいる! それは何者か!? 魔族だ!」
魔族というワードが出た瞬間、一拍の間が空き、徐々にそうだそうだと同調する声が上がる。中にはぶっ殺せという血気盛んで物騒なワードすら当たり前のように上げられている。
「今年に入り、魔人の出没による国民同士の疑心暗鬼、魔獣の被害による食糧危機、様々な辛酸を舐めさせられた。そして、その波が皆の生活にまで及んできているのだ!」
この問いかけを否定するもは俺の周囲に一人としていない。
「そして私は改めて感じ誓った。これ以上、先人達が築き上げたこの国、我が同胞が暮らすこの安寧の地を、魔族に一歩たりとも踏み越えさせないと!」
ざわめきが一気に広がった。
「この式典において私は宣誓する! ロト・サニングの名に於いて、魔族を殲滅し人間の永遠の安寧を勝ち取ることを!」
一瞬の静寂。ロトの声は会場全ての民に伝染するように伝わった。その波は人々のざわめきとして発病していった。熱狂という熱病として。
「魔族を駆逐し! 魔族を殲滅し! 魔族を根絶やしにする!」
駆逐! 殲滅! 根絶やし! そんなフレーズが更に伝染した。
「愚かなる魔族に鉄槌を! 野蛮なる魔族に聖剣を! 私はもう一度宣言する! 私は魔族を絶滅させる!」
その瞬間、俺を除いた会場の全てが一丸となった。ハリソンやロージー、ジェイドやアンバー、アイリスやフランさえもその宣誓から逃れることができないようだった。
ハリソンは涙を流し、ロージーはハリソンの背中に顔を預け、ジェイトとアンバーは互いに抱き合い、アイリスとフランは俺に抱きついてきた。
「これはやばいな」
ロトの演説による興奮が冷めぬままロトは壇上から降り、式典の開会式の閉幕を大臣っぽい人が告げ、人々は思い思いの方向に足を向ける。しかし、皆の表情はまだ興奮が抜けきっていないことがありありと分かる。
「ほら、離せ」
俺はアイリスとフランを引き剥がす。それにしても、こいつらまで影響を受けるってどういう事なんだ?
「二人共どうしたんだ? というか、二人だけじゃなくてそこのバカ夫婦二人にバカ姉妹」
俺は他四名に声をかけ、平静を取り戻させる。
「どうしたんだよ。お前ら」
普段の様子と明らかに違う。異常だ。
「分かりません。ただ、ロト殿下の話を聞いていると私達家族が穏やかに暮らしていた頃を思い出しまして、感情が自分で止められないような感覚に……」
「私もそうだった。私の仲間が魔族に殺された時の事を思い出しちまった」
ロトの演説はそこまで皆の心に響くものだったのか? 俺がこの世界の住人ではないというそれだけの理由であの熱に飲み込まれなかったのだろうか。
……何かトリックがあるのか。
「主、開会式が終わったら直ぐに受付が始まります。早めに向かいませんか?」
目を赤くしたフランがそう言ってきた。まぁ考えても仕方がない。ただ、ロトには気をつけなければいけないな。
「ああ。行こうか」
俺は財布から金をいくらか取り出してハリソンに手渡した。
「折角の建国記念だ。お前ら森の国の民と湖の国の民には関係ないだろうが、祭りは祭り。楽しんでこい」
俺はハリソンとロージー、アイリスを見ながらそう言った。
「お前らも自由にしていいぞ。武闘大会を見物するもよし、買い食いするもよし。」
俺はジェイドとアンバーにそれぞれ金銭を手渡す。
「カズキ様!」
目を赤くしたアイリスが駆け寄り俺の服の裾を掴んだ。
「どうしたんだ?」
「私も連れて行ってください!」
「連れて行くって、武闘大会の見物ならすぐ始まるだろうからここで待ってればいいぞ」
「違います! 私も出場するんです!」
出場する……? 誰が?
「は?」
「出るって、何時、何処に、何の目的で?」
「今日、武闘大会に私が出ます。私の力を……カズキ様に見て頂くため……」
力? アイリスの力をか?
俺にはアイリスの戦う姿が描けなかった。そりゃあ魔法も使えるし、自衛ぐらいはできるかもとは思えなくもないが、武闘大会なんて舞台に立てるほどの実力があるとは思えない。
それに……。
「それは無理だ。出場登録はとっくに締め切っているだろう? なぁフラン」
「え、ええ。確かに当日の登録は原則行れていませんが……。カズキ様のように誰かの推薦があれば別ですが……」
「推薦ならあります」
アイリスはそういって羊皮紙を取り出した。そこに何が書かれているのか俺には読めない。俺はそれを受け取り、フランに手渡す。
「何が書いてあるんだ?」
「えーっと……これは……『クリスティーナ王女親衛隊副隊長 レオ・ルーカス』『連名 クリスティーナ・サニング』だそうだ」
「レオにクリスか……」
この二人からの推薦状……どうやって手に入れたのか……それにどのタイミングだ?
「カズキ様は私達に自由行動の許可を下さいました。なら、私も武闘大会に参加してもよろしいでしょう?」
「…………」
整理だ。状況の整理だ。
まず、アイリスが武闘大会に出場する障害は大会の運営側には無いに等しい。なにせレオとクリスの推薦状だ。
他に問題があるとすれば、俺がアイリスに出場することを許可するかどうかだ。
「フラン、お前はどう思う?」
戦闘経験がない俺があれやこれやと考えるよりも、実戦経験のあるフランに問いてみた。
「アイリスさんの実力なら予選は抜けられると思う」
そんなにアイリスの実力があるのか?
「その理由は?」
「まず魔法の適正が高い事。そして、頭が良い。それだけで冒険者として並の扱いを受けることができる。……そして、アイリスさんは魔人を知っている」
「魔人を知っている? それはどういった意味でだ?」
「アイリスさんは魔人と対峙し、こうして生き残っている事」
あ、そういうこと。なんとなく話の筋が見えた。
フランは俺が知らない所でアイリスの事を知っているんだな。
「……アイリス。魔石の貯蔵は十分か?」
「大丈夫です。この日のため、カズキ様から頂いた魔石は全て持っています」
「……上等だ」
アイリスはずっと前から戦う事を視野に入れていたんだな。
「アイリス。命令だ」
「なんでしょうか?」
「十全の力をもって自衛せよ。自衛法はお前に任せる。……嫁入り前の身体は大切にしろ」
戦うと言った以上、アイリスはただの少女ではない。
チープな言い方だが、魔法少女だ。それもわりとリアル志向でちょっとだけ血生臭い。
「フラン、お前もだ。全力で勝ちに行けとは言わない。自分にとっての最良の選択をしろ」
「分かりました」
俺は二人の目を見比べる。どちらも戦意は充実しているようだ。少なくとも俺より燃えているめだ。
「よし。行こう」
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