異能力で異世界充実
第十一節 王族
俺達はそのままダンスホールへと案内される。
馬車二台が並んで入れそうな程に大きな扉をくぐると、絢爛豪華なダンスホールだ。可能な限り空間を広くとるためだろうか、太く長い柱があり、その柱には煌々と輝く石が何十個と取り付けられている。
ホールの広さは具体的には分からないが、学校の体育館ぐらいはある。およそバスケットコート三つ分だ。
ホールの奥には階段が見え、それを上がれば二階に行けそうだ。一階からでも二階に誰がいるかぐらいは見ることができる。遠目で分かりにくいが、レオの白い衣装は遠目でも判別できるから、傍にいるのがクリスだろう。他にもレオと色違いの服装を持つ人間が数人立っている。その流れで言えば、あそこにいるのが王族ということになるのか。
ダンスパーティーは始まったばかりなのか、壁際に用意された料理はあまり減っていない。ダンスをしている男女が二十組ほど、お喋りをしている人間が五十人以上、百人未満。種族で言えば、大半をアベル人が占め、トール人、タイン人、シーク人がちらほらといる。
「カズキ殿、こちらへ」
案内係が俺達をホールの奥、王族が座している二階への階段まで案内した。
「ここから先はカズキ殿お一人でお願いします」
「分かった」
他の連中にパーティー中の自由行動を許可して二階へ上がる。
二階には剣を下げた者を除けばクリスとロト以外に四人いた。
たぶん、年を召した男女が王様と女王様、それからロトの弟とクリスの姉といったところか。
「やぁカズキ。来てくれたんだな」
俺に最初に声をかけてきたのはロトだ。
「ロト殿下がお呼びだとお聞きしましたので」
「彼はお前の客人か?」
かなり歳がいった王様が口を開く。
「ああ。俺の新しい友人のカンザキ・カズキだ」
ロトが俺を紹介することで特徴的な反応を見せたのが二人いた。一人はクリスだ。少しだけ驚いているのは演技なのか素なのか。そしてもう一人はロトの弟、名前は知らないが全体的に暗い雰囲気を漂わせている感じの男だ。それでも顔立ちは整っているため、悲劇の主人公にすれば映えそうな気はする。そんな彼はつまらなさそうに俺から視線を逸らした。少し苛立っているようにも見える。
「初めまして、神崎一樹と申します」
俺は異世界のマナーはまだ身につけていないため、現代のお辞儀をもって礼節を示す。
「……もしや、近頃名を聞く黒髪の異人とは君の事かね?」
王様は眼光鋭く俺に聞く。
「……それは分かりませんが、確かに自分は異国より参りました」
「……君はアベル人ではないのかね?」
結構答えにくいことをサラっと聞いてくるな。実際、俺はアベル人に似ているらしいがアベル人ではない。
「私は私自身をアベル人だと思ったことはこの土地に来るまで思ったこともありませんでした。しかし、この国の人々はアベル人だと思い私に接して下さいました。なので今では私はアベル人だと思っています」
「そうか」
種族の事を聞くに俺の事を魔族と警戒しているということか? それとも単に俺がアベル人とは違う点があるとこの王様は見抜いたのか?
「お父様、折角の機会ですから、カズキに俺の家族を紹介させてください」
「ああ」
「カズキ、こっちがクリスティーナ。俺の可愛い妹だ」
紹介されたクリスはお姫様然として俺に微笑み返してくれた。
「こっちがアーサー。俺の自慢の妹だ」
アーサーと言われ、一瞬弟のことかと思ったが、クリスの姉のことらしい。
このアーサー、とても凛々しく顔立ちはクリスよりもロトに似ており堀が深く、可愛い系というより美人系。それも中性的な顔立ちだ。男装をすれば、女性ならば男に、男ならば女性に見えるかもしれない。
そんな彼女に俺はお辞儀をすると上品に笑みを浮かべた。
「そして、こっちが俺の弟のモリスだ。良かったら、モリスとも友達になってくれ」
少し暗い雰囲気のロトの弟がモリスか。ロトとは対照的に覇気がなく華もない。ロトが俺に友達になってくれと言った時は露骨に嫌な顔をされた。それは俺が嫌いというよりも、ロトのその発言が気に食わないといった様子だ。
「そしてこちらがサイラス・サニング王。この国をここまで繁栄させた賢王とカズキも耳にしたことぐらいはあるんじゃないか?」
どこかで聞いたかもしれない。
サイラス王はかなり年配に見え、老いている感がする。しかし、耄碌しているという印象は受けなかった。老成していると言っていいだろう。モリスはこの爺さんに似たんだろうな。あまり笑顔を見せず、気難しそうだ。
「そしてこちらがミランダ・サニング女王。お父様を支え、俺達を育ててくれたお母様だ」
ミランダ女王。見た目は四十代ぐらいの綺麗な女性だ。サイラスとはかなり歳が離れているだろう。ミランダは穏やかな笑顔を見せた。たぶん、クリスはこの人に似たんだな。
こうやって見てみるとある違和感を感じた。サイラスは金髪、ミランダは栗毛だ。ある一人を除いて、全員がサイラスの血を引いて金髪なのに対し、モリスだけが髪色が紺色だ。
俺の視線に気づいたモリスが更に不快そうな表情を浮かべる。
「お父様、お話がございます」
ロトは急に畏まった。
「……なんだ?」
寸前までロトは俺に対し笑いかけていたはずなのに、サイラスに向き直ると真面目な表情を浮かべた。
「近々、魔族を討つため軍を動かします」
「……そのことか……」
サイラスの深いシワが更に深くなる。
「現在はカズキの働きもあり、国民の生活は徐々に安定に向かっています。しかしそれは仮初です」
「…………」
サイラスは黙って聴く。ホールから聞こえる音楽がやけにうるさい。
「国民は疲弊しています。その原因は何か? 田畑を荒らす魔獣です。国民を襲う魔人です。そうです魔族です」
ロトは熱く語った。
「俺は魔族を討ちたい。国民が襲われる事の無いよう。明日の食事の心配をすることのないよう。隣人に疑いの眼差しを向けなくていいよう。俺は魔族を滅ぼしたい」
ミランダはロトとサイラスを交互に見比べる。俺はロトから視線を外し、クリスとレオを見た。クリスはロトに注視し、レオとは視線があった。
「国内に潜む魔獣を一匹一匹、魔人を一人一人倒していてはいつまでも滅ぼせない。だから俺は海を渡ろうと思う」
ミランダがサイラスの手に自分の手を乗せた。
「お父様。俺に魔族を討ち滅ぼすチャンスをください」
「……おまえか?」
サイラスの視線は俺に向けられた。
「……いえ」
どういう意図で聞かれたか分からず、思わず否定してしまった。
「…………」
サイラスは黙り込む。ロトもまた黙る。俺も黙らざるおえなかった。
「……開かぬ扉を開けてはならない。開く扉を閉じてはならない」
サイラスはポツリとそう漏らし、さらに続けた。
「……いいだろう」
「ありがとうございます。お父様」
このやりとりの場に俺が居て良かったんだろうか?
サイラス王は魔族討滅の許可をロト殿下に与えた。
たったそれだけのことだが、その判断材料として俺を扱った。たぶん、そういうことなんだろう。その時に言った『開かぬ扉を開けてはならぬ。開く扉を閉じてはならぬ』だったか。この世界における諺のようなものだろう。『出る杭を打つ』の反対の意味のように感じた。
結局、俺の出番はそこで終わった。もっと他の兄妹達についても聞きたかったが仕方ない。ロト達がもてなさなければならない賓客は俺だけではないのだ。むしろ、一番初めに賓客として王族の前に立てたのが俺というだけ光栄なのかもしれない。実際はロトに利用された形なんだろうけど。
まぁその分、パーティーで楽しませてもらおう。
俺自身、ダンス経験は皆無のためダンスはパス。食事もそこまで惹かれないとなると楽しむべきはお喋りか。
俺はアイリスを探してみた。途中でハリソンとロージーが踊る姿を見たが、あまりに身長差がありすぎ、ハリソンが前屈みになっていて小学生の相手をする先生に見えなくもなかった。
その二人を見守るようにジェイドとアンバーは壁際で佇んでいた。一応、二人共自由行動を与えてるんだから、料理の一つでも食べればいいのに。ああやって二人で並んでいるとたまにどっちがどっちだか分からなくなる。よくよく見ると足を揃えてピンと立っているのがジェイドで、足を少し広げているほうがアンバーだ。
もう少し見て回るとフランが貴族らしき男からダンスの誘いを受けている所だった。フランは焦り右往左往している。そして、俺の姿を見つけると男に何かを伝え、俺の所によってきた。
「主がいて助かりました」
「ダンスに誘われてたのか?」
「ダンスは向いてないって言ったら、では外に涼みに行きませんかと言われて困ったもんさ」
「誘いに乗らなかったのか?」
「ああいう男はダメだね。背中を任せられるって思える男じゃないととても誘いには乗れないさ」
まぁ背中を任せるってことは命を預けるって意味でもあるとすれば、冒険者間では面白い言い回しかもしれない。
「そうか。ところで、アイリスを見なかったか?」
「アイリスさんなら外だよ」
あれ? フランってアイリスのことをさん付けで呼ぶのか。
「分かった。ありがとう」
「主の話ってのはもう終わったのか?」
「ああ。滞りなく」
俺はそれだけ言って外に出た。
馬車二台が並んで入れそうな程に大きな扉をくぐると、絢爛豪華なダンスホールだ。可能な限り空間を広くとるためだろうか、太く長い柱があり、その柱には煌々と輝く石が何十個と取り付けられている。
ホールの広さは具体的には分からないが、学校の体育館ぐらいはある。およそバスケットコート三つ分だ。
ホールの奥には階段が見え、それを上がれば二階に行けそうだ。一階からでも二階に誰がいるかぐらいは見ることができる。遠目で分かりにくいが、レオの白い衣装は遠目でも判別できるから、傍にいるのがクリスだろう。他にもレオと色違いの服装を持つ人間が数人立っている。その流れで言えば、あそこにいるのが王族ということになるのか。
ダンスパーティーは始まったばかりなのか、壁際に用意された料理はあまり減っていない。ダンスをしている男女が二十組ほど、お喋りをしている人間が五十人以上、百人未満。種族で言えば、大半をアベル人が占め、トール人、タイン人、シーク人がちらほらといる。
「カズキ殿、こちらへ」
案内係が俺達をホールの奥、王族が座している二階への階段まで案内した。
「ここから先はカズキ殿お一人でお願いします」
「分かった」
他の連中にパーティー中の自由行動を許可して二階へ上がる。
二階には剣を下げた者を除けばクリスとロト以外に四人いた。
たぶん、年を召した男女が王様と女王様、それからロトの弟とクリスの姉といったところか。
「やぁカズキ。来てくれたんだな」
俺に最初に声をかけてきたのはロトだ。
「ロト殿下がお呼びだとお聞きしましたので」
「彼はお前の客人か?」
かなり歳がいった王様が口を開く。
「ああ。俺の新しい友人のカンザキ・カズキだ」
ロトが俺を紹介することで特徴的な反応を見せたのが二人いた。一人はクリスだ。少しだけ驚いているのは演技なのか素なのか。そしてもう一人はロトの弟、名前は知らないが全体的に暗い雰囲気を漂わせている感じの男だ。それでも顔立ちは整っているため、悲劇の主人公にすれば映えそうな気はする。そんな彼はつまらなさそうに俺から視線を逸らした。少し苛立っているようにも見える。
「初めまして、神崎一樹と申します」
俺は異世界のマナーはまだ身につけていないため、現代のお辞儀をもって礼節を示す。
「……もしや、近頃名を聞く黒髪の異人とは君の事かね?」
王様は眼光鋭く俺に聞く。
「……それは分かりませんが、確かに自分は異国より参りました」
「……君はアベル人ではないのかね?」
結構答えにくいことをサラっと聞いてくるな。実際、俺はアベル人に似ているらしいがアベル人ではない。
「私は私自身をアベル人だと思ったことはこの土地に来るまで思ったこともありませんでした。しかし、この国の人々はアベル人だと思い私に接して下さいました。なので今では私はアベル人だと思っています」
「そうか」
種族の事を聞くに俺の事を魔族と警戒しているということか? それとも単に俺がアベル人とは違う点があるとこの王様は見抜いたのか?
「お父様、折角の機会ですから、カズキに俺の家族を紹介させてください」
「ああ」
「カズキ、こっちがクリスティーナ。俺の可愛い妹だ」
紹介されたクリスはお姫様然として俺に微笑み返してくれた。
「こっちがアーサー。俺の自慢の妹だ」
アーサーと言われ、一瞬弟のことかと思ったが、クリスの姉のことらしい。
このアーサー、とても凛々しく顔立ちはクリスよりもロトに似ており堀が深く、可愛い系というより美人系。それも中性的な顔立ちだ。男装をすれば、女性ならば男に、男ならば女性に見えるかもしれない。
そんな彼女に俺はお辞儀をすると上品に笑みを浮かべた。
「そして、こっちが俺の弟のモリスだ。良かったら、モリスとも友達になってくれ」
少し暗い雰囲気のロトの弟がモリスか。ロトとは対照的に覇気がなく華もない。ロトが俺に友達になってくれと言った時は露骨に嫌な顔をされた。それは俺が嫌いというよりも、ロトのその発言が気に食わないといった様子だ。
「そしてこちらがサイラス・サニング王。この国をここまで繁栄させた賢王とカズキも耳にしたことぐらいはあるんじゃないか?」
どこかで聞いたかもしれない。
サイラス王はかなり年配に見え、老いている感がする。しかし、耄碌しているという印象は受けなかった。老成していると言っていいだろう。モリスはこの爺さんに似たんだろうな。あまり笑顔を見せず、気難しそうだ。
「そしてこちらがミランダ・サニング女王。お父様を支え、俺達を育ててくれたお母様だ」
ミランダ女王。見た目は四十代ぐらいの綺麗な女性だ。サイラスとはかなり歳が離れているだろう。ミランダは穏やかな笑顔を見せた。たぶん、クリスはこの人に似たんだな。
こうやって見てみるとある違和感を感じた。サイラスは金髪、ミランダは栗毛だ。ある一人を除いて、全員がサイラスの血を引いて金髪なのに対し、モリスだけが髪色が紺色だ。
俺の視線に気づいたモリスが更に不快そうな表情を浮かべる。
「お父様、お話がございます」
ロトは急に畏まった。
「……なんだ?」
寸前までロトは俺に対し笑いかけていたはずなのに、サイラスに向き直ると真面目な表情を浮かべた。
「近々、魔族を討つため軍を動かします」
「……そのことか……」
サイラスの深いシワが更に深くなる。
「現在はカズキの働きもあり、国民の生活は徐々に安定に向かっています。しかしそれは仮初です」
「…………」
サイラスは黙って聴く。ホールから聞こえる音楽がやけにうるさい。
「国民は疲弊しています。その原因は何か? 田畑を荒らす魔獣です。国民を襲う魔人です。そうです魔族です」
ロトは熱く語った。
「俺は魔族を討ちたい。国民が襲われる事の無いよう。明日の食事の心配をすることのないよう。隣人に疑いの眼差しを向けなくていいよう。俺は魔族を滅ぼしたい」
ミランダはロトとサイラスを交互に見比べる。俺はロトから視線を外し、クリスとレオを見た。クリスはロトに注視し、レオとは視線があった。
「国内に潜む魔獣を一匹一匹、魔人を一人一人倒していてはいつまでも滅ぼせない。だから俺は海を渡ろうと思う」
ミランダがサイラスの手に自分の手を乗せた。
「お父様。俺に魔族を討ち滅ぼすチャンスをください」
「……おまえか?」
サイラスの視線は俺に向けられた。
「……いえ」
どういう意図で聞かれたか分からず、思わず否定してしまった。
「…………」
サイラスは黙り込む。ロトもまた黙る。俺も黙らざるおえなかった。
「……開かぬ扉を開けてはならない。開く扉を閉じてはならない」
サイラスはポツリとそう漏らし、さらに続けた。
「……いいだろう」
「ありがとうございます。お父様」
このやりとりの場に俺が居て良かったんだろうか?
サイラス王は魔族討滅の許可をロト殿下に与えた。
たったそれだけのことだが、その判断材料として俺を扱った。たぶん、そういうことなんだろう。その時に言った『開かぬ扉を開けてはならぬ。開く扉を閉じてはならぬ』だったか。この世界における諺のようなものだろう。『出る杭を打つ』の反対の意味のように感じた。
結局、俺の出番はそこで終わった。もっと他の兄妹達についても聞きたかったが仕方ない。ロト達がもてなさなければならない賓客は俺だけではないのだ。むしろ、一番初めに賓客として王族の前に立てたのが俺というだけ光栄なのかもしれない。実際はロトに利用された形なんだろうけど。
まぁその分、パーティーで楽しませてもらおう。
俺自身、ダンス経験は皆無のためダンスはパス。食事もそこまで惹かれないとなると楽しむべきはお喋りか。
俺はアイリスを探してみた。途中でハリソンとロージーが踊る姿を見たが、あまりに身長差がありすぎ、ハリソンが前屈みになっていて小学生の相手をする先生に見えなくもなかった。
その二人を見守るようにジェイドとアンバーは壁際で佇んでいた。一応、二人共自由行動を与えてるんだから、料理の一つでも食べればいいのに。ああやって二人で並んでいるとたまにどっちがどっちだか分からなくなる。よくよく見ると足を揃えてピンと立っているのがジェイドで、足を少し広げているほうがアンバーだ。
もう少し見て回るとフランが貴族らしき男からダンスの誘いを受けている所だった。フランは焦り右往左往している。そして、俺の姿を見つけると男に何かを伝え、俺の所によってきた。
「主がいて助かりました」
「ダンスに誘われてたのか?」
「ダンスは向いてないって言ったら、では外に涼みに行きませんかと言われて困ったもんさ」
「誘いに乗らなかったのか?」
「ああいう男はダメだね。背中を任せられるって思える男じゃないととても誘いには乗れないさ」
まぁ背中を任せるってことは命を預けるって意味でもあるとすれば、冒険者間では面白い言い回しかもしれない。
「そうか。ところで、アイリスを見なかったか?」
「アイリスさんなら外だよ」
あれ? フランってアイリスのことをさん付けで呼ぶのか。
「分かった。ありがとう」
「主の話ってのはもう終わったのか?」
「ああ。滞りなく」
俺はそれだけ言って外に出た。
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