異能力で異世界充実

田所舎人

第十節 美麗

 武闘大会に出場するための武器は手に入れた。次は堅牢な鎧を買うことも考えたが、着慣れない鎧で身動きが取れない気がして止めた。
 その次に考えたのが魔宝石による防御だ。以前、アメリアから魔術を防ぐ魔宝石を購入している。魔術が防げるなら物理的攻撃を防ぐ魔宝石もあるかもしれない。そう考えて再びアメリアを尋ねた。
「あら、また来たのね」
 いつもと変わらぬ様子でカウンターに座っているアメリア。そして、傍に控えるバーナード。
「ああ、ちょっと欲しいモノがあってね。ここで扱ってないかと思って」
「どんなものかしら?」
「剣や槍の攻撃を防げる魔宝石が欲しいんだけど」
「それならあるわよ」
「良かった。なら、それを売ってくれ」
「バーナード、持ってきてちょうだい」
「…………」
 アメリアの言葉に従順なバーナードは魔宝石をすぐに用意した。
「これは障壁の魔宝石。発動させるとこの魔法石を中心に球状の結界が生じるの。剣でも槍でも矢でも、結界の中に入ると動きを止めるわ。ただし、効果が強い分、効果時間は短いわ。だから連続の使用もできないわ。そうね……貴方の吸魔石と組み合わせるなら一度使うと三秒は間を開けないといけないわ」
 ゲームで言うところの効果時間とクールタイムみたいなものか?
「それってどういう仕組みなんだ?」
 この世界はゲーム世界ではない。それなりの理由があるのだろう。
「魔宝石は吸魔石には遠く及ばないけれど、魔力を蓄える性質があるの。それを瞬間的に結界の展開に使用するわ。それで物理的な攻撃を防ぐことができるの。けれど、一度発動するとそれに見合った魔力を蓄えるまで再使用できないわ。それが約三秒ということ。納得できたかしら?」
 何となく分かる。
「それだと、吸魔石の魔力供給量さえ増やせれば三秒も待たなくていいんだよな?」
「ええ。そういうことになるわね」
「吸魔石の魔力供給量は増やせないのか?」
「難しいけれど、可能よ。それを可能にする魔石と私自ら加工すればね」
「現物はあるのか?」
「ええ。その代わり値は張るわよ」
「金なら用意する」
 俺は手元にある金貨を取り出して金貨を10枚ずつ積み上げ、アメリアは積み上げた物の中から3つを手元に引いた。
「金払いの良い客は歓迎するわ。バーナード、制御石を用意してちょうだい」
 僅かな間でバーナードが件の魔宝石を用意する。
「……その制御石とやらの使い方と能力を教えてくれ」
「使い方は簡単よ。この石の三つある窪みのいずれかに吸魔石をセットすればいいの。溝の場所によって放出する魔力の量が変わるわ。一番下から順に零倍、二倍、三倍」
 最大で三倍まで供給量が増やせるのか。
「供給量を三倍にすれば再使用時間も三分の一になるのか?」
「ええ。そうなるわね」
 俺は実際に受け取って障壁を張ってみる。すると確かに魔宝石を中心に視認できる球状の結界が出現した。試しにその結界に短剣を振ってみると、急停止する。まるで水の中で動こうとすると強い抵抗を感じる粘性抵抗を何十倍にもしたような感じだ。
 攻撃手段と防御手段を手に入れ、吸魔石の性能向上も行い、おおよその準備は整えた。
 あとは大会を座して待つばかりだが、式典は何も武闘大会だけではない。折角の機会だ。改めて皆と街を巡るのも悪くはない。
 俺には四人の奴隷と二人の召使がいる。短い付き合いだが、性格はそれなりに分かったつもりだ。それでも親交を深めるのは決して悪いことではないだろう。聞いた話によると建国式典は三日間行われ、武闘大会も同様に三日間行われる。しかし、自分の出番が来るまでは自由に行動してもいいとのこと。ならば、空いた時間を埋めるように一人一人と話した方がいいだろう。
 なにせ、俺の予定では魔大陸に行くことになっている。皆がどれだけこのことに対して考えているかも知りたい。
 武闘大会の詳しい日程や対戦組み合わせ等は当日になるまで知らされない。予選で絞られた後の総当たり戦だったり、トーナメント方式だったりとその時々で変わり、対戦相手すらも武闘大会が開かれるまでは分からない。なので、詳細なスケジュールを組むことも難しい。まぁ俺はあいつらの主人だからそこまで気兼ねする必要はないんだろうが。
 明日の大会について思考を巡らせていた所にまたしても訪問客が現れた。今度はロトの遣いだった。ジェイドが応対している間にアンバーが俺を呼びに来たとのこと。
 すぐに仮の応接室に向かい、兵士と対面する。
「カンザキ・カズキ殿。ロト殿下が貴殿を建国祭の前夜祭に招待したいとのことです」」
 また城か。何かと最近呼ばれることが多くなってきたけど、そんな気安く立ち入っていい場所なのだろうか?
「前夜祭ってどんな連中が来るの?」
「領内の貴族や他国の来賓ですが、不都合がございますか?」
 他国の来賓……貴族かな? ちょっと興味あるな。
「俺の奴隷も連れて行っていいか?」
「ロト殿下の命により、カズキ殿の奴隷に対し、服を用意しています。ご希望の方がいらっしゃいましたらお連れください」
 ……そこまで準備されてるなら行ってもいいか。
「分かった。こっちの馬車で向かうから、俺を待たなくていいからね」
「承知しました」
 兵士は敬礼し、部屋を出て行く。
 またスーツを着ないといけないのか……そういや、クリーニングに出すのを忘れていた。
 俺は現代に戻り、スーツとシャツに消臭剤を掛けて袖に腕を通し、ネクタイを締め、タイピンを付け、姿見でチェックをする。
 ちぐはぐな自分の胸中に自分で苦笑する。
 俺は黒の革靴を履き、異世界に渡り、馬車に乗り込み、城へと向かう。
 今日の王城はいつにも増して賑やかだ。
 城門入口では受付を行い、馬車を預け、中に入る。
 老若男女、それどころか種族を問わず多くの人間がいた。背の高い者や低い者、華奢な者や頑強そうな者。それら一人一人が貴族なのだろう。
 適当に人間観察を行っていると兵士の一人がこちらに歩み寄ってきた。
「カズキ殿。お待たせしました。お連れ様の衣装をご用意していますので、ついてきていただけますか?」
「ああ」
 振り返ると、今いる面子の中でフランだけが少し浮き足立っていた。
 そういえば、ハリソンやロージー、アイリスは貴族出身だったし、ジェイドとアンバーはこの城に勤めていたんだ。何度かはこういった場にも立ち会ったことがあるのだろう。
 兵士に着いていき、案内された部屋に皆が通される。
 奴隷にまで衣装を貸し与えてくれるロト殿下のなんと太っ腹なことか。
 着替え終わった面子を見るとやはり、似合っている。改めて見てみるとハリソンも長身美形の紳士なんだよな。貸衣装というだけあって、質の良い生地で仕立てられている。俺の安物のスーツと対比するとどっちが奴隷だか分からなくなる。
 いつまでも男のドレスアップを見たところで目の保養にはなりはしない。次に女性陣の衣装を見てみる。
 まず、ジェイドとアンバーだがこの二人は使用人扱いのためドレスアップは無かった。本人達もドレスアップする気はないらしい。ジェイドは使用人がこんな衣装を着るなんてとんでもないと遠慮し、アンバーは着替えるのが面倒くさいと一蹴した。
 そして、ロージー。濃紺のドレスに薄い口紅、少し化粧もしているようだ。大人らしく落ち着いた雰囲気があり、小柄でお淑やかな女性然としている。なるほど、ハリソンが魅了されるのも分かる気がする。
 次にアイリス。アイリスは薄い青のドレスを身に纏っている。綺麗な顔立ちにドレスを着させるとお人形さんのように見え、少し恥ずかしげに頬が染まっていてそれがとても愛らしい。普段はストレートの髪もポニーテールでまとめられており、俺の好みをピンポイントに当ててくる。
 最後がフラン。フランが出てきたとき、その眩しさに驚いた。他の二人と比べ露出が多いフラン。そして、そのドレスの色は赤だ。しかもスリット入りの。赤い髪に真紅のドレス。そして赤い隙間から除く褐色の脚。成人した女性特有の曲線と戦場で培った引き締まった身体が魅力的だ。こうやって改めてフランの四肢を見てみると傷跡一つ無い綺麗なものだった。
 これだけのメンツの中、俺だけが普通の紺のスーツだ。ハッキリ言って浮いている。

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