異能力で異世界充実

田所舎人

第七節 武具

 翌日。
 ボロ布を着ていたフランに俺のシャツとジーパンを貸して着替えてもらった。さすがにあのボロ布のまま街中を歩くよりはマシだろう。それに、フランはこの街で長らく冒険者をやっていたらしいから、知り合いにあった時にボロ布だと可哀そうだと思った面もある。あとは俺の風評を改善するためだ。なにせ俺は今、幼女趣味の嫌疑が掛けられているからな。
 他の連中には邸宅の手入れ及び、自由行動を与えた。目下、急ぐ仕事は無く日銭の心配もない。新居でのんびり過ごさせてやるのもいいだろう。
「まずは何から見て回ろうか」
 この街に関しては俺よりもフランの方が詳しい。俺が出入りしているのは主にオルコット商会ぐらいであとは物価調査という名の冷やかしで商店を回っていたぐらいだ。
 現代衣服の二人組が歩くだけで周囲から浮いている感はある。それにしても、フランの褐色肌に白いシャツが映える気がする。褐色娘が特別好きというわけではないが、エキゾチックな風貌に何も思わないわけではない。それと、シャツを押し上げる胸が視線、特に男性からの、を集める。
 サニングは圧倒的にアベル人が多く、そのほとんどが黄色か白色だ。なので、フランはもしかしたら俺以上に浮いているかもしれない。
「主、ここが私が世話になっていた店だ」
 フランの口調では過去形だが、これからも世話になる事だろう。
 中に入ると革鎧や金属鎧が壁に掛けられている。兜、胸当て、胴当て、手甲等、個別売りもある。店構えも立派で大通りに面しており、客入りからもそこそこ繁盛しているように思えた。
 買い物自体はフランに任せ、俺は店内を見て回る。少しだけワクワクしてくる。
「おっちゃん。久しぶり!」
「ん? おお、フランか。随分久しぶりだな」
 俺は商品を物色しながら聞き耳を立てる。どうやらフランは顔馴染みであろう店主と言葉を交わしているようだ。
「あれま、お前さんどうしちまったんだ、その首輪にその服? まさか、奴隷になっちまったのか?」
「まぁ色々あってな……奴隷になっちまったけど、今の待遇は悪くないさ。主が良い人でね。屋敷の一室を与えてもらったり、今日はこうして仕事道具を拵える支度金も出してくれたしさ」
「そうかいそうかい……」
 店主のおっさんはフランの言葉が強がりと受け取ったのか、同情する視線をよこした。
「おっちゃん、良い防具はないか?」
「そうさな。少し待っとくれ」
 おっさんは一度奥に引っ込み、年季の入った防具類を持ってきた。中古っぽい。
「これは……もしかして、私の……」
「ああ。お前さんが顔を見せなくなってから、これを売り払いたいって商人が来てな。鑑定してみたら、お前さんが使ってた防具と瓜二つだと分かった時には冒険者を引退したか、死んじまったか、何にしろ寂しくなるなと思って形身代わりに取っといたんだ」
 おっちゃんが防具類をカウンターに並べる所を俺は盗み見た。
 急所を守る胸当てや防寒に優れた厚い革鎧、少し洒落た編み上げのブーツ、丁寧に磨かれ金属光沢を持つガントレット。
「私が手放した時より綺麗だな」
「一応、手入れは欠かしてねぇぞ」
「おっちゃん、これを売ってくれ」
「もちろんそのつもり……といいたところだけど、これの買い取りに金貨二枚かかったんだ。今すぐには無理だろうけどさ、それまではきちんと手入れをしておくから金ができたらまたおいで」
「金ならある」
 フランはすぐさま金貨を三枚を取り出した。
「おや? 随分と羽振りがいいんだな?」
「私の主は随分と気前がよくてね。必要な仕事道具ならって支度金を用意してくれたのさ」
「そりゃあ奇特な人だな。何にしても、俺が思ったより待遇は良さそうでよかった。それじゃあ、こいつらはお前さんに返すよ。すぐに着込んでくかい?」
「そうだね。そうさせてもらうよ」
 その場で白シャツ、ジーパンの上から装備を着込むフラン。
 ハードレザーアーマー。急所を守る鋼の胸当て。洒落た編み上げの革ブーツ。磨かれ輝く鋼のガントレット。所々には魔宝石が散見される。
 それらを装備したフランは一見、外国人コスプレイヤーに見えてしまう。現代を舞台にしたバトル物のヒロイン。そんな感じだ。
「良かったな。自分に合う装備が見つかって」
 丈合わせの必要もなく、買ってその場ですぐ装備。これも一種の巡り会わせかもしれない。
「おっちゃんには感謝してるさ。私の装備を保管してくれて……私が手放した時よりずっと質が良くなってる。あの頃は装備の手入れをする時間すら惜しんでたからさ」
「この調子なら武器の方もすぐに見つかりそうだな」
 防具一式が金貨三枚で手に入った。中古ということもあるだろうが、安く手に入ったのは悪くない。それがフランの持ち物だったって事は質としても決して悪いという事はないだろう。
 次に訪れたのはもちろん武器屋。刀剣や槍、弓といった武器が店内に並んでいる。
 その中でも特に目を引くのが刃幅三十センチ、刃渡り二メートル、柄長さ一メートル程の片刃の大剣だ。一体どんな敵を想定しているのだろうか。それとも観賞用か。筋力増強の魔宝石を身に着けた俺でやっと持てるかどうかといったところかもしれない。
 そんな感じで店内を再び物色する。
「おっちゃん、久しぶり」
「ん? フランじゃないか! お前さん、どうしてたんだよ!」
 店主のおっさんは血相を変えてフランに言い寄った。
「悪いな。長いこと留守にして」
 フランは笑って店主に謝った。
 今のフランは装備で身を守っているため、奴隷の首輪は露出していない。
「最近は他の連中も目にしないし、てっきり引退したか別の国に渡っちまったかと思ってたんだぜ」
「まあ色々あったんだよ。それよりさ、新しい武器が欲しいんだけど何かあるかい?」
「そうだな……。前に使ってた武器と似たようなもんがいいよな?」
「ああ。質の良い奴を頼むよ」
「分かった。少し待ってな」
 おっさんはそういって店の奥に向かい、しばらくすると一振りの片手剣と一振りの大剣を持ってきた。
 片手剣の方は全長一メートル程、両刃で鞘付き、柄には魔宝石らしき物が埋め込んである。
 もう一方の大剣は全長一メートルと八十程、片刃で幅広、ついでに刃厚もある。こちらにも魔宝石らしき物が二つ埋め込んである。
「こっちが衝撃緩和の魔剣、こっちは筋強と魔抗の魔剣。セットで金貨六枚だ」
 俺がフランに与えた金貨よりも値が張る。
「魔剣か?」
「ああ。実力を勘違いするような中堅冒険者には出せないが、お前さんなら武器に振り回されないだろ?」
「そう言ってくれるのは嬉しいんだが、手持ちが足りないんだ。少し待ってくれ、金の都合がつくか考える」
「そうかい? 買う気があるなら取っておくよ」
「ああ、そんなに掛からないとは思う」
 そう言ってフランは俺の所にやってきた。
「話は聞いてたけど、本当に金貨六枚の価値はあるのか?」
「魔宝石だけでも金貨三枚以上の価値はあるだろうし、武器だけを見ても金貨二枚であの二本は買えないだろうね。安くはないが、決して高くも無い」
 武器の目利きは全く分からない俺からしてみれば、フランの判断に頼るしかない。今更金貨四枚の出費で傷む腹ではないつもりだ。
「分かった」
 財布から追加の金貨を取り出してフランに渡す。
「主、いいのか? 片手剣はともかく、大剣の方は対魔人用の武器だ」
「まぁあって困ることはないだろう。そういえば、剣の手入れの砥石とか油とかいらないのか?」
「それなら大丈夫だ。あの店主とは馴染みだからな。付けてもらえるよう交渉はするつもりだ」
「なら任せた。それで手に入らないようなら、また来てくれ。金の用意だけはしておく」
「頼もしい主だ」

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