異能力で異世界充実
第二節 米価
セシルから指輪に加工された筋力増強の魔宝石を受け取り嵌めてみる。体感としてはあまり変わらないため試しにとアイリスを抱えてみたら、今までも十分に軽かったが、今はそれ以上に軽く感じた。イメージとしてはアシスト自転車とかあんなのに近い。俺が力を発揮しようとすると自動でサポートしてくれる感じだ。これなら魔石を向こうに持っていきさえすれば使える。
「ありがとう。セシル」
「いいんですよ。これくらい」
俺はセシルに礼を言って、すぐに宿に戻り現代へと跳ぶ。
さてと、本格的な仕入れ活動だな。
俺はゲートを準備して、コストパに向かう。
似合わない指輪をした甲斐があり、魔宝石を所持さえしていれば十キロの米も体感で半分以下の重さに感じる。それらをカートに次々に入れ大量に買い込む。それらを全て人目のつかない場所でゲート経由で異世界に輸送する。それを数度往復して現金を米に替えた。
でも、さすがコストパ。大量の米を在庫に抱えていたことに驚きだ。おかげで店頭に並んでいた米が明らかに少なくなっているが、きっと明日には補充されている事だろう。
店を出ると日はすっかり没し、街灯が明々と照っている。
「戻るか」
俺は使い捨てのゲートに身を沈め、ゲートを破って全身を転移させる。
「アイリス?」
宿にはいない。まだ馬車らしい。
俺はアイリスを探しに厩に向かう。すると、半泣きになったアイリスが厩の前で蹲っていた。
「どうした? アイリス?」
「カズキ様!」
少し目が充血したアイリスが俺に駆け寄り、抱きついてくる。
「どうかしたのか?」
俺はアイリスの頭を撫でながら話を聞いてみた。
「お米がたくさん出てきて……最初は馬車に載せてたんです。でも、どんどん出てきて……馬車がキシキシって音が鳴って……それで一生懸命外に出そうとしたんですけど、それでもどんどんお米が出てきて……一人でどうしようかって思って……」
ああ、確かにそれは怖いな。いつまでも荷物が出てきて、自分一人だけで対処しなきゃいけないって思ったら、そりゃ怖いか。いつ終わるかも分からない。周りに誰もいない。
どうやらまだハリソン達は魔石探しに足を使っているようだ。
「ああ、悪かったな。大丈夫、何も問題はないから」
俺は頭を撫でながら、厩の中を覗く。
馬車にはこれでもかというほど米袋が積載され、それでも余ったものはそのまま床に置かれている。
「よしよし。頑張ったな」
俺はアイリスが落ち着くまで抱きつかれたまま頭を撫でた。
俺はアイリスを落ち着かせ、思案する。
さてと、意味は大きく違うがこの米騒動をひと段落させなければならない。この時間はオルコット商会も閉じているだろうが、無理を言えば取引はしてくれるだろう。
「アイリス、御者はできたよな?」
「……はい」
まだ意気消沈しているが、俺ができない以上アイリスに頼むしかない。
アイリスに指示してもらいながら俺は馬に馬車を連結させた。近よるとやっぱり、馬はでかい。
そして、御者台にアイリスを乗せ手綱を握ってもらう。
「それじゃ行こうか」
アイリスは馬に指示を与え、馬車はゆっくりと動き出す。やはり、目方で1トン程度を積載した馬車はかなり重いのか、スピードが出ない。まぁ急ぐ必要もないためこのペースで問題ない。
荷崩れも起こさないことを確認した俺はアイリスの隣に座る。
「ほら」
酔い止め代わりの飴玉をアイリスに手渡し、俺も口に入れる。最近、飴玉が手放せなくなっている気がするな。
「ありがとうございます」
俺とアイリスは飴玉を口の中で転がしながら、夜の街をゆっくりとしたスピードで進む。こうやって見ると、夜の街でも活気がある場所と無い場所があるな。
道の端で寝ている者もいれば、物乞いをしている者もいる。そういった街の昼の顔と夜の顔がはっきりと違って見えた。中には子供の姿も見え、この世界にも当たり前のようにストリートチルドレンがいるようだ。
「あの方達を見て、どう思いますか?」
アイリスが突然訊いてきた。俺があいつらを見ている事に気付いての発言らしい。
「どう思うも何もないさ。気分が良ければ施しもするし、気分が乗らなければ施さないし。助けたい気分になれば助けるし、自助努力の応援だってするさ」
「自助努力?」
「自分を助ける努力、簡単に言えば自立の事。俺の国でよく挙げられる例で言えば、腹を空かせた子供と釣竿があります。あなたならば、どのような行動を取るでしょうか? って問題。アイリスならどう答える?」
「私なら、お腹を空かせた子供のために川魚を釣ってあげます」
ああ、この世界だと魚といえば川魚になるんだっけか。まぁいい。
「俺も昔はそう答えるのが普通だと思ってたんだけど、この場合は子供に釣りの仕方を教えるってのがもう一歩踏み込んだ答えらしい」
「釣りを教えるんですか?」
「そういうこと。自分で釣りをして、自分の糧を得る。これが自助努力。それで、釣りの仕方を教えるのが自助努力の応援」
「そういうことなんですね」
「まぁ人に物を教えられるほど賢くはないんだけどね」
「私から見れば、カズキ様は十分に賢いと思いますが」
「まぁこっちならそうかもね」
俺はあまり自分の頭の出来がいいと思ったことはない。上を見れば上がいるし、下を見れば下がいる。結局は自分の頭の出来なんてそんなものだ。
「まぁ何にしても、自分で自分を助けようとする意思がない奴は俺なら放っておくね」
「……そうなんですね」
オルコット商会に着いた俺達は早速、セシルを呼び出した。
「どうかしましたか、カズキさん?」
「ああ。ちょっと大変なことになってな」
「大変なことですか?」
セシルが少し不安気に尋ねてきた。
「まぁ俺の不手際なんだが、米の手配をしていたら馬車に乗り切れなくてな。こんな時間で悪いけど、引き取って欲しいんだ」
「もう準備できたんですか!?」
静かな夜に一際大きいセシルの驚きの声が上がる。
「ああ。とりあえず、1トン弱は用意したから置かせてくれ。金とかそういうのは後でいいから。人手がないなら、俺が運び入れてもいいし」
「いえ、カズキさんにそこまでしていただくわけには参りません。少しお時間を頂けますか?」
「ああ。それはいいけど」
俺がそう答えたのを聞くとセシルはすぐに人を手配してくれ、馬車から次々に米袋を運び出してくれた。
馬車が空になるのを確認した俺はもう数往復して米袋全てをオルコット紹介に卸した。
「本当に手配して頂けたのですね……。しかも、脱穀、精米済みの白米をこんなに……」
セシルは言葉が続かなくなっている。
「まぁ少し遅くなったけどな。とりあえず、明日からこれは売りに出すのか?」
「……そうですね。市場の価格を安定させる必要があるので、様子を見ながら売りに出すつもりです」
「そっか」
「それと、こちらが今回の取引額です。確認してください」
そう言ってセシルは証書を差し出し、それを受け取った。証書は読めないのでアイリスに代読してもらう。
「カズキ様、米袋百袋につき金貨五枚ですがよろしいですか?」
「ん? 金貨四枚じゃないのか?」
十キロで銀貨四枚のはずだ。
「脱穀、精米までしてもらっていますから、その手間賃です。おかげで職人ギルドを通す必要が無くなりますから」
なるほど。本来ならそういった工程を必要とするのか。
「分かった。それと、今度からは金貨が無ければ魔石でもいいから」
「魔石ですか?」
セシルは腑に落ちない顔で尋ね返してきた。
「ああ」
「本当に魔石でいいんですか?」
「ああ。今は魔石が欲しい」
「分かりました。いくつほどご用意しましょうか?」
「そういや、オルコット商会で魔石はいくらで売ってるんだ?」
「1つで銀貨2枚と大銅貨5枚といった所ですね」
確か、一番最初にセシルと出会った時は魔石一つで銀貨二枚だった。大銅貨5枚分がオルコット商会の利益ってことか。
「分かった。それじゃあ、この証書を全部魔石に替えてくれ」
「全部ですか? 本当に全部でいいんですか?」
「ああ。頼む」
「分かりました」
セシルは人を呼んで魔石を準備させ、俺はそれを受け取った。金貨五枚分とものなればそれなりに重い。まぁ筋力増強の指輪のおかげか体感としては軽いけれど。
「ありがとう。セシル」
「いえいえ。カズキさんのおかげで物価の高騰もある程度は落ち着くかもしれません。こちらこそありがとうございます」
「分かった。とりあえず、当面は食料品を持ち込めば買い取ってはくれるんだな?」
「はい。今は食品が一番売れ筋ですので、こちらとしても助かります」
「分かった。何かいいものがあれば持ってくるよ」
「はい」
「ありがとう。セシル」
「いいんですよ。これくらい」
俺はセシルに礼を言って、すぐに宿に戻り現代へと跳ぶ。
さてと、本格的な仕入れ活動だな。
俺はゲートを準備して、コストパに向かう。
似合わない指輪をした甲斐があり、魔宝石を所持さえしていれば十キロの米も体感で半分以下の重さに感じる。それらをカートに次々に入れ大量に買い込む。それらを全て人目のつかない場所でゲート経由で異世界に輸送する。それを数度往復して現金を米に替えた。
でも、さすがコストパ。大量の米を在庫に抱えていたことに驚きだ。おかげで店頭に並んでいた米が明らかに少なくなっているが、きっと明日には補充されている事だろう。
店を出ると日はすっかり没し、街灯が明々と照っている。
「戻るか」
俺は使い捨てのゲートに身を沈め、ゲートを破って全身を転移させる。
「アイリス?」
宿にはいない。まだ馬車らしい。
俺はアイリスを探しに厩に向かう。すると、半泣きになったアイリスが厩の前で蹲っていた。
「どうした? アイリス?」
「カズキ様!」
少し目が充血したアイリスが俺に駆け寄り、抱きついてくる。
「どうかしたのか?」
俺はアイリスの頭を撫でながら話を聞いてみた。
「お米がたくさん出てきて……最初は馬車に載せてたんです。でも、どんどん出てきて……馬車がキシキシって音が鳴って……それで一生懸命外に出そうとしたんですけど、それでもどんどんお米が出てきて……一人でどうしようかって思って……」
ああ、確かにそれは怖いな。いつまでも荷物が出てきて、自分一人だけで対処しなきゃいけないって思ったら、そりゃ怖いか。いつ終わるかも分からない。周りに誰もいない。
どうやらまだハリソン達は魔石探しに足を使っているようだ。
「ああ、悪かったな。大丈夫、何も問題はないから」
俺は頭を撫でながら、厩の中を覗く。
馬車にはこれでもかというほど米袋が積載され、それでも余ったものはそのまま床に置かれている。
「よしよし。頑張ったな」
俺はアイリスが落ち着くまで抱きつかれたまま頭を撫でた。
俺はアイリスを落ち着かせ、思案する。
さてと、意味は大きく違うがこの米騒動をひと段落させなければならない。この時間はオルコット商会も閉じているだろうが、無理を言えば取引はしてくれるだろう。
「アイリス、御者はできたよな?」
「……はい」
まだ意気消沈しているが、俺ができない以上アイリスに頼むしかない。
アイリスに指示してもらいながら俺は馬に馬車を連結させた。近よるとやっぱり、馬はでかい。
そして、御者台にアイリスを乗せ手綱を握ってもらう。
「それじゃ行こうか」
アイリスは馬に指示を与え、馬車はゆっくりと動き出す。やはり、目方で1トン程度を積載した馬車はかなり重いのか、スピードが出ない。まぁ急ぐ必要もないためこのペースで問題ない。
荷崩れも起こさないことを確認した俺はアイリスの隣に座る。
「ほら」
酔い止め代わりの飴玉をアイリスに手渡し、俺も口に入れる。最近、飴玉が手放せなくなっている気がするな。
「ありがとうございます」
俺とアイリスは飴玉を口の中で転がしながら、夜の街をゆっくりとしたスピードで進む。こうやって見ると、夜の街でも活気がある場所と無い場所があるな。
道の端で寝ている者もいれば、物乞いをしている者もいる。そういった街の昼の顔と夜の顔がはっきりと違って見えた。中には子供の姿も見え、この世界にも当たり前のようにストリートチルドレンがいるようだ。
「あの方達を見て、どう思いますか?」
アイリスが突然訊いてきた。俺があいつらを見ている事に気付いての発言らしい。
「どう思うも何もないさ。気分が良ければ施しもするし、気分が乗らなければ施さないし。助けたい気分になれば助けるし、自助努力の応援だってするさ」
「自助努力?」
「自分を助ける努力、簡単に言えば自立の事。俺の国でよく挙げられる例で言えば、腹を空かせた子供と釣竿があります。あなたならば、どのような行動を取るでしょうか? って問題。アイリスならどう答える?」
「私なら、お腹を空かせた子供のために川魚を釣ってあげます」
ああ、この世界だと魚といえば川魚になるんだっけか。まぁいい。
「俺も昔はそう答えるのが普通だと思ってたんだけど、この場合は子供に釣りの仕方を教えるってのがもう一歩踏み込んだ答えらしい」
「釣りを教えるんですか?」
「そういうこと。自分で釣りをして、自分の糧を得る。これが自助努力。それで、釣りの仕方を教えるのが自助努力の応援」
「そういうことなんですね」
「まぁ人に物を教えられるほど賢くはないんだけどね」
「私から見れば、カズキ様は十分に賢いと思いますが」
「まぁこっちならそうかもね」
俺はあまり自分の頭の出来がいいと思ったことはない。上を見れば上がいるし、下を見れば下がいる。結局は自分の頭の出来なんてそんなものだ。
「まぁ何にしても、自分で自分を助けようとする意思がない奴は俺なら放っておくね」
「……そうなんですね」
オルコット商会に着いた俺達は早速、セシルを呼び出した。
「どうかしましたか、カズキさん?」
「ああ。ちょっと大変なことになってな」
「大変なことですか?」
セシルが少し不安気に尋ねてきた。
「まぁ俺の不手際なんだが、米の手配をしていたら馬車に乗り切れなくてな。こんな時間で悪いけど、引き取って欲しいんだ」
「もう準備できたんですか!?」
静かな夜に一際大きいセシルの驚きの声が上がる。
「ああ。とりあえず、1トン弱は用意したから置かせてくれ。金とかそういうのは後でいいから。人手がないなら、俺が運び入れてもいいし」
「いえ、カズキさんにそこまでしていただくわけには参りません。少しお時間を頂けますか?」
「ああ。それはいいけど」
俺がそう答えたのを聞くとセシルはすぐに人を手配してくれ、馬車から次々に米袋を運び出してくれた。
馬車が空になるのを確認した俺はもう数往復して米袋全てをオルコット紹介に卸した。
「本当に手配して頂けたのですね……。しかも、脱穀、精米済みの白米をこんなに……」
セシルは言葉が続かなくなっている。
「まぁ少し遅くなったけどな。とりあえず、明日からこれは売りに出すのか?」
「……そうですね。市場の価格を安定させる必要があるので、様子を見ながら売りに出すつもりです」
「そっか」
「それと、こちらが今回の取引額です。確認してください」
そう言ってセシルは証書を差し出し、それを受け取った。証書は読めないのでアイリスに代読してもらう。
「カズキ様、米袋百袋につき金貨五枚ですがよろしいですか?」
「ん? 金貨四枚じゃないのか?」
十キロで銀貨四枚のはずだ。
「脱穀、精米までしてもらっていますから、その手間賃です。おかげで職人ギルドを通す必要が無くなりますから」
なるほど。本来ならそういった工程を必要とするのか。
「分かった。それと、今度からは金貨が無ければ魔石でもいいから」
「魔石ですか?」
セシルは腑に落ちない顔で尋ね返してきた。
「ああ」
「本当に魔石でいいんですか?」
「ああ。今は魔石が欲しい」
「分かりました。いくつほどご用意しましょうか?」
「そういや、オルコット商会で魔石はいくらで売ってるんだ?」
「1つで銀貨2枚と大銅貨5枚といった所ですね」
確か、一番最初にセシルと出会った時は魔石一つで銀貨二枚だった。大銅貨5枚分がオルコット商会の利益ってことか。
「分かった。それじゃあ、この証書を全部魔石に替えてくれ」
「全部ですか? 本当に全部でいいんですか?」
「ああ。頼む」
「分かりました」
セシルは人を呼んで魔石を準備させ、俺はそれを受け取った。金貨五枚分とものなればそれなりに重い。まぁ筋力増強の指輪のおかげか体感としては軽いけれど。
「ありがとう。セシル」
「いえいえ。カズキさんのおかげで物価の高騰もある程度は落ち着くかもしれません。こちらこそありがとうございます」
「分かった。とりあえず、当面は食料品を持ち込めば買い取ってはくれるんだな?」
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