異能力で異世界充実

田所舎人

第九節 金策

 宿に戻っても、ハリソン達は食事からまだ戻っていなかった。
「アイリス、腹減ったか?」
「はい……」
 俺だって腹が減ってる。
「ちょっと待ってろ」
 俺は現代に戻って冷蔵庫を開ける。コストパで買ったものとは別の食材が色々と並んでいる。ここ最近、自炊していなかったせいか賞味期限や消費期限が近い物が多い。
 豚肉の細切れ、小松菜、もやし、エリンギ。まぁこんなところか。
 フライパンを熱して胡麻油を垂らし、豚肉の細切れをそのまま投下。適当に加熱したら料理酒を入れて更に焼き進め、全体的にピンク色が無くなったら刻んだ小松菜、エリンギ、もやしの順にフライパンに入れ、十分に火が通ったところで塩胡椒を多めに振り、完成。適当な大きさの皿に盛りつけ、即席ごはんをレンジで温めたら昼飯の完成だ。飲み物として麦茶を紙コップに注ぐ。
「ほら、アイリス。持ってきたぞ」
 料理を落とさないよう気を付けながら運び入れる。
「カズキ様……これって?」
 アイリスが不思議そうに俺が持つ皿に視線を向ける。
「俺らの昼飯だ」
 サイドテーブルに皿を二つ、レンジ飯を二つ、紙コップを二つ並べる。
「これをカズキ様が作ったんですか?」
「まぁ男料理だけどな。ひょっとして料理ができないと思ってたのか?」
 俺はベッドに腰掛け、アイリスはサイドチェアに座らせる。
「カズキ様は料理も出来たんですね!」
「これを料理と言っていいのか微妙だけどな」
 まぁある程度食べられる物は作ったつもりだ。肉、野菜、キノコとそれなりに栄養にも気を配っている。
 俺は新しい割り箸を取り出し、アイリスも割り箸を取り出す。
 アイリスは俺の言いつけ通り、割り箸をずっと大切に持っているようだ。
 俺の料理はアイリスにとってはやや味が濃かったようで、麦茶を頻繁に飲んでいた。今度作ることがあれば薄口にしてやろう。俺はこれぐらいの味付けの方がご飯が進む。
 アイリスは美味そうに食べ終え、俺も皿を空にする。そういえば、人に料理を食べてもらうなんて初めてかもしれないな。
 俺達は昼飯を終え、ハリソン達がまだ戻ってきていないことを確認する。
「アイリス、少し国に戻る。もしかしたら帰りは明日になるかもしれないから、俺が戻るまでは自由にしていい」
「お国で何かあるんですか?」
「とりあえず、この魔石は売り払ってみる。悪くない値がついたら、明日からは魔石を買うため色々と動いてもらうからな」
「魔石を?」
「ああ。俺の国は魔法なんてない所だけど、魔石そのものは綺麗だから売れるんだよ」
「そうなんですか?」
「まぁ実際、売れるかどうかは分かんないから売りに行くんだけどな」
「きっと売れますよ」
 アイリスは優しく微笑む。
「そうだな。もし高く売れたら、美味い物を食べさせてやろう」
「いいんですか?」
「ああ。約束だ」
「ありがとうございます!」
 礼を言うのが早すぎだと思ったが、言うだけ野暮か。
「それじゃ。いってくる」
 現代に戻ると、普段とは何かが違う事に気が付いた。
 体が異様に重い。立っていられず、そのまま床にへばりついてしまうほどに。
 それも体がキツくて重いといった比喩表現ではなく文字通り重い。
 自分の身に何が起きたのかさっぱり分からなかった。体が動かなくとも、頭は動く。冷静に考え、体が重くなった原因を探る。
 病気ではないはずだ。明らかに突発的な現象。きっかけは異世界から現代に戻ってきたこと。しかし、今までこんなことは起こらなかった。ならば、何かが決定的に違うはずだ。
 そう考えると一つだけ、いつもと違う点があった。
 魔力の代替物になる魔石を持ち帰ったことだ。
 俺は這いながら、魔石を放り出す。といっても、指先で弾く程度しかできないが。
 全て出し終えた俺は体が軽くなったことに安堵した。
 魔力と加重、つまり魔石によって加重の魔石の力を発揮したという事だ。
 これは使える。
 言い換えれば魔石さえあれば、現代でも魔法が使える。俺自身に魔力がなくとも魔力を宿した魔石があれば、魔石の効果を発揮できる。
 俺は僅かに興奮を覚えた。
 必ず、現代で役立つ魔宝石を手に入れる。そのためにも金を稼いでやろう。
 現代装備に着替え、質屋に向かう。あまり頻繁に質屋に訪れ、顔を覚えられるのも嫌なので今回は少し遠い場所にある質屋に向かう事にした。
 県内で最も栄えているH市にやってきた。ここならば俺の顔を知ってる人間はまずいないだろう。
 早速、目的の質屋に向かい、個人的に気に入った魔石の指輪を除いて全ての宝石を買い取ってもらう。数が数だけに時間を要するため後から連絡を入れると言われた。
 さてと、空いた時間をどう潰すか。
 帰ろうと思えばいつでも帰れるし、少し遊んでいくか。そう言えば、アイリスにお菓子を買う約束をしていた。買う買わないは別にして、少しお菓子を見て回ろう。
 俺は街を散策していると、一件の洋菓子店を見つけた。俺と同じで夏休みを満喫しているであろう女子大生や少し気品のいいおばちゃんが店内でケーキを食べている。
 店内に入るとゆったりとした曲が流れており、ショーウィンドウには数多くのケーキ類が並べられている。
 俺はオーソドックスにショートケーキを一つ注文し、目立たない席に座りためしに食べてみる。
 お、美味いな。
 普段食べる生クリームとは違う。たぶん、植物性ではなくて動物性の生クリームだろう。まろやかな味わいがあり、妙な後味がない。もし、あの魔石が高値で売れればこれを買ってやらんこともない。
 適当に散策していると、質屋から電話が来た。どうやら、査定が終わったらしい。
 早速、質屋に向かい説明を受ける。とりあえず、宝石はここの人の査定によれば全て本物らしい。説明を受ける傍ら、どうやってこんなにも宝石を持っているのか尋ねられたが、適当にごまかした。なにせ、盗品でないことは俺自身がハッキリ分かっている。店員もそこまで深く追及はしてこなかった。
 適当な説明やら手続きを経て、大金を手に入れた。それも想定以上だった。石の種類によっても換金効率の上下はあるだろうが、下手に金貨を換金するよりも効率が良い。
 よし。魔石を買い占めてどんどん加工してもらおう。
 味を占めた俺は例の洋菓子店でショーウィンドウに飾られてあるケーキをホールで二つ買い、近くの人気のない古ビルに張り紙のようにイラストを貼って、すぐに異世界に渡った。
「カズキ様、おかえりなさい」
「ああ。ただいま」
 俺は興奮のあまり、アイリスを抱きしめる。
「アイリス。これから楽しくなるぞ」
 俺の言葉にアイリスはキョトンとしている。
「約束のお菓子だ。全員分あるから、他の奴らも呼んで来い」
 アイリスは理解できぬまま首をかしげながら部屋を出る。俺はその間に紙皿を用意する。プラスチックのスプーンを店につけてもらったから、そこは心配ない。
「カズキ様、どうかなさいましたか?」
「あら、甘い香りがしますね」
 ハリソンとロージーがやって来て、つづいてジェイドとアンバーも来た。
「ほら、お前ら適当なところに座れ」
 さすがにこの数だと座るところが足りない。一応、俺がいない間はアイリスが掃除なりなんなりしてるため床もそれなりに綺麗だ。
「まずは皆、お疲れ様」
 まぁ疲れてる奴なんていないだろうけど、前口上だ。気にするな。
「新しい仕事ができたぞ。明日からお前ら全員に働いてもらう」
 これだけの数だ。人手が足りないということはないだろう。
「そのためにも英気を養ってもらおうと考えている。そこでこいつだ」
 俺は白と赤で彩られた高カロリーな芸術品を皆に見せた。
「好きなだけ食っていいぞ」

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