異世界マゼマゼ奮闘記

ぷい16

神の城―サザンタダンとの戦い―後編と、汲広とステファニアの特殊事情

 ステファニアの切り付けで、サザンタダンの尻尾は3分の2くらいまで切り込みが入った。


「ギャース」

「コンアーク!」


 今度は汲広くみひろが穴あきブロックを足場に駆け上がり、右頭の首根っこ、中央頭の首根っこ、左頭の首根っこと、順番に切りつける。傷口は浅いが、痛みはあるだろう。


 そうこうしているうちに、ステファニアはもう一度尻尾の切り目を切りつける。

 5分の4くらいまで切り込みを入れることができた。


「ギャーグ、アンギャー」


 サザンタダンはあまりの傷口の痛さに回避しようと、高速に90度体を反転させようとした瞬間、切り込みを入れた尻尾により一層切り込みが入り、尻尾は勢いに任せて吹っ飛んだ。


「ギャーウウゥッッッ」


 サザンタダンは巨体を横転させて、前足と後ろ足を近づけ、3つの頭を床に付け、そのまま大人しくなった。


「やったか?」

「大人しくなりましたね」


 テンペギウスに間と違い、荷物は土のう袋の魔法の中だ。

 荷物を取りに向かう手間がなくなったので、奥の部屋に向かうことにする。


 汲広くみひろがドアの取っ手に手をかけた瞬間、


「シャームンドム、フィリフレネシア、何をもたもたしておる。早うせい」


 そんな言葉が聞こえた。


 汲広くみひろはドアの取っ手に手をかけたまま、


(城の警護に神獣が3匹も居るから通るのに時間がかかるんですよ。これでも急いでいるのです)


  と、届くかどうかは分からないが、取っ手に念話を送るイメージで話しかけた。


「そうか。そなたらに記憶の断絶があるのだな。仕方ない。しばし待つ。しかし早う会いたいのぉ」


 そう言う返事が返ってきた。

 記憶の断絶?

 何のことか分からないが、とにかく、先に進むのが賢明であろう。

 あちらさんには会ってからのお楽しみである。


「ふんぬぅー」


 汲広くみひろは人が通れるだけ、扉を開けると、やはり、小部屋があった。

 汲広くみひろが入ると明かりがともった。

 体力、集中力、魔力を消耗している。

 せかされているとは言え、休憩を入れたい。

 ステファニアが小部屋に入ってきて、サザンタダンに間の明かりが消えてから、汲広くみひろは扉を閉めるのであった。

 汲広くみひろはお湯を沸かし始めると、


(実に見事であった。こちらから助言をするいとまかった)


 日本の汲広くみひろからの念話である。


(強いて言うなら、魔法に頼りすぎだ。能力をもっと使えるようになった方がいいが、習いたてで、慣れていないからそれを指摘するのはこくかも知れないが)


 こくなら言わないで欲しいと汲広くみひろは思った。


(本物の神に早く会いたいのであろう?昨日アカツキ伯爵に習った回復系能力を使って早く回復しなさい)


 そういえば、昨日の詰め込み教育で、そんなのを習った記憶がある。

 しかし、肝心かんじんの、その方法を思い出せない。


(その、回復系能力が思い出せないのです。あまりにも多い情報量で、全部を試せなかったので、記憶に残りにくかったもと思います)

(やれやれ、昨日の詰め込みはあまり功を奏していないようだな。今から教えるからその通りにしなさい。まずは体力の回復からだ。呪文は「リカバシェームネン」。くれぐれも能力を使うのだぞ)


「リカバシェームネン」


 呪文を唱えた瞬間、汲広くみひろは黄色に輝き、疲れが吹き飛んだ。

 城の門前に来たときぐらいには回復している。


(ステファニアもやってみなさい)


 ステファニアも体の傷を癒やし、疲労感も吹っ飛び、元気になった。


(次はマナの補充だ)


 汲広くみひろとステファニアは教えられた呪文を唱えた。

 体に魔力が溢れるような感覚になった。


(次は精神的な疲労を取る能力だ)


 今度はぐっすり眠って全ての疲れが取れた精神状態になった。

 ここまでかけてもらえれば、万全を期して、次の神獣に挑める。


 そうこうしているうちにお湯が沸いた。

 汲広くみひろはティーセットを出し、お茶の抽出を待つ。

 ステファニアは簡易食料を出し、二人で食べながら、一時の休息を取る。

 お茶を飲み干すと、片付けを終わらせ、奥の扉へ向かった。


 汲広くみひろが扉の取っ手を握った途端、頭に流れてくるものがあった。


”そなたの名はシャームンドム。神の資格を持つ者”


 汲広くみひろは取っ手から手を離し、ステファニアに取っ手を握るように指示する。


”そなたの名はフィリフレネシア。神の資格を持つ者”


 流れ込んだ知識を解釈すると、前世、ずっと昔、汲広くみひろとステファニアは、時期が違えど、神に君臨していた時期があるらしい。

 神にも体の寿命がある。

 心が清らかで、魂の構造が複雑で、神の知識を全て吸収できる能力、神として世界を統治とうちする能力がある者が、神になれる素質を持つ者とされているそうだ。

 しかし、スキカから与えられた魂はそれに対応できない、オリジナルの魂ほど良質な魂ではないそうだ。

 しかし、現在の神であれば、何とかしてくれるらしい。


「僕たちは神に匹敵するほど、潜在能力があり、重要人物なのか?」

「衝撃の事実に恐れ多く感じます」

(あぁー。とんでもない事実を知ってしまった)


 ここに汲広くみひろもステファニアも、日本の汲広くみひろとアントネラも、頭を抱えるのであった。

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