異世界マゼマゼ奮闘記

ぷい16

神の城―テンペギウスとの戦い

「昨日は大変でしたね」

「あぁ、色んな意味で疲れた」


 昨日はアカツキ伯爵にいろいろと叩き込まれた。

 一般の魔法では今まで神界で習っていたので復習のつもりで聞いていたのだが、神代魔法―初級編の辺りから知らない情報が入ってきた。

 実践をダイジェストで見せられ、中級編、高等編と続くのだ。

 もう何を見せられているのか分からないと言った状態だった。


「あんな詰め込みで実践で使えるわけないのにね」

「あぁ。手加減してくれても良かったと思う」


 二人の出で立ちは、汲広くみひろは半袖シャツに短パン、両方だぼっと少し大きめである。

 腰には左に木剣ぼっけん、右には真剣を挿している。

 ステファニアはワンピース姿に杖を持っている。

 何でも、杖を持っていた方が魔術師らしいだろ?とスキカが持たせてくれたものだ。


 荷物は二人とも担いでいる。食料と水だ。汲広くみひろが担いでいる水はなかなかに重い。


「まずは朝食にするか」

「はい」

「水は温かい方がいいか?」

「そうですね。お願いします」


 汲広くみひろはカップに水をくみ、能力で火を付ける。

 昨日の講義で一番役に立ちそうなのは魔法と能力の違いだ。

 魔法はマナを消費する。

 マナは体内にある魔力で、限界が近いし、あまり使いすぎると苦しくなる。


 一方能力はオドを消費する。

 オドは体の外、建物、他の動物、植物と、周りから魔力を集めて使う魔法だ。

 能力を教わらなかったら、戦いに備えてマナを消費したくなかった。

 魔力を温存したくてのんきに温かいぬるま湯が飲みたいとは言わなかった。


 簡単な朝食が終わり、いよいよ城へ乗り込む。

 門をくぐり、門と正面玄関の中間辺りで声が聞こえ、文字が頭に焼き付いた。


”シャームンドム、フィリフレネシア”


 何を現しているものか分からないまま、そのまま正面玄関へ向かう。


 汲広くみひろは「フンッ」と力を入れて正面玄関を開けた。

 その途端、またも声が聞こえ、文字が頭に焼き付いた。


”テンペギウス”


 と。それから、テンペギウスの攻略法が頭の中に流れ込んでくる。


「頭を狙って脳しんとうを狙えってか…」

「昨日のアカツキ伯爵より分かりやすい教え方でしたね」

「身もふたもないことを…」


 ここは思っていても言わない方がいいことをステファニアは言う。

 しかし、ここには汲広くみひろとステファニアしかない。

 「まぁ、いいか」と思う汲広くみひろであった。


 扉を開けると、暗かった中が何かの魔法であろうか、部屋が明るくなる。

 テンペギウスはピクリとも動かない。

 部屋の中に入り、扉を閉め、邪魔になる荷物を降ろし、3歩ほど歩いた時点でやっとテンペギウスは、


「ギャウゥーーー」


 と、吠えだした。


 汲広くみひろ木剣ぼっけんを出し、構え、ステファニアも杖を構える。

 テンペギウスの顔がこっちを向き近づく。


「ステファニア、何か来る。避けろ!」


 ステファニアは横っ飛びにテンペギウスの正面を避け、汲広くみひろは前へ飛んだ。


「たあぁーー」


 汲広くみひろはテンペギウスの顔との間合いを詰めると、テンペギウスの頭に木剣ぼっけんたたきつけた。

 クラッとしたテンペギウスだったが、そのすきを見逃さず、ステファニアが反対側から杖を叩きつける。

 テンペギウスはひるんでいるのか、襲撃しょうげきで動けないのか、汲広くみひろとステファニアに成されるがまま、木剣ぼっけんと杖の攻撃を受け続ける。


「ギャ、ギャフーン」


 しばらく打撃を叩き込んだら、テンペギウスはピクピクっと痙攣けいれんし、立っている体勢を維持できなくなり、横にごろんと倒れ伏した。


「気絶、したかな?」

「このすきに、奥まで進みましょう」


 ステファニアの言葉で荷物を背負い直し、入ってきた方向とは反対側の扉に向かう汲広くみひろとステファニア。


「ふんぬぅー」


 汲広くみひろは力を込めて扉を開け、二人は中へ入る。

 テンペギウスの間は明るさが消え、入った部屋には明かりが灯る。

 そこは小部屋であった。

 魔物はいない。


「戦い… とは言っても一方的だったがちょっと休憩しよう。ステファニア、腰掛こしかけて」

「そ、そうですね。休憩しましょう」


 汲広くみひろは思い出したことがあり、お湯を沸かし、土のう袋の魔法で茶器を出し、お茶を入れ始めた。


「そういえば、僕たち、土のう袋の魔法が使えるのに、何で荷物を背負っているんだ?」

「そういえば… 土のう袋の魔法で事足りますのにね」


 実に不自然だった。


 戦い?の中での一時の休憩。

 二人は温かい飲み物を飲んで英気を養うのであった。

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