異世界マゼマゼ奮闘記

ぷい16

掃き出し窓の能力持ちの苦難―4

「それでは」


 という前置きを置いて、隙間すきま運輸の隙間すきま社長は、


「依頼されれば他の運送会社にも掃き出し窓の魔法を教えてもいいと、そうお考えですか?」


 汲広くみひろはまた立ち、


「はい。教えたいと思います。ただし、また抜け駆けと言われないために今度は複数の会社を同時に研修したいと考えております」


 「おぉ」という感心したような言葉と、その後、また会場がざわめきたった。


「それで、どんな練習をしたのですか?」

「決められた場所に行ってみる練習です。あまりくわしく言うと、木瀬きせ運輸の秘密保持契約に引っかかる恐れがあるのでご勘弁下さい」

木瀬きせさん」


 隙間すきま社長がめるようにそう呼ぶと、木瀬きせ社長は、


「練習方法は詳しく言ってかまいません」


 それ以上は言うなと見て取れたが、練習方法の話しをする。


「まずは、配達には配達員の他に、ナビゲーターという人を付けます。ナビゲーターは、次の配達先の手配と、次に行くべき場所へみちび補佐ほさをすることもあります。配達員が間違った場所へ行った際にみちびく、たどり着けない状態を回避するための手段です。二重にしておけば、たいてい目的地にたどり着けるでしょう」


 汲広くみひろは続けて、


「ナビゲーターも、配達員がすることが分かっていた方が良いという観点から、同じ教育をほどこしました。パソコンで、ランダムに場所を指定させ、移動役にはGPSを持たせて掃き出し窓の能力で移動させ、目的地にたどり着いたか毎回チェックするのです。この練習を重点的に行えば、たいてい目的地にたどり着け、配達が行えるようになります」


 汲広くみひろは発言が終わったとばかりに座る。

 隙間すきま社長は、


「その練習用のソフト、融通ゆうずうしてもらえますか?」

「分かった」


 そう答えた。隙間すきま社長は、


「練習場所は、我が社が新しく新設しようとしているコールセンターを使いましょうパソコンも完備かんびされていますので。そこで各社合同で練習させようかと思いますが、他に意見のある人はいますか?」


 反対意見も出ない。これは良しとしよう。


「では、各社の人員の割り当ての話をしたいと思います」


 人員の割り当ての話になると、汲広くみひろの出るまくではない。


「それでは、これで決を採りたいと思いますが、反対意見はありますか?」


 無いようである。


「それではこれで決めたいと思います。あと、『瞬達便しゅんたつびん』という名称は、商標登録にしないで、どの運送業者でも使えるようにしてもらいたい。木瀬きせ社長、いいですか?」

「分かった」


 それでは、木瀬きせ社長の責についてですが…

 その後の話し合いでは汲広くみひろもアントネラも出るまくはなく、会議は終了した。


     *


 水曜日、交通業界全体の会議である。

 こちらも、『掃き出し窓の能力を教えろ』という内容であった。

 そこで、汲広くみひろは合同でと返事をする。

 練習場所の話し合いが行われ、日は運送業の練習の1ヶ月後となった。


「やっと話し合いが終わった」

「私は発言しませんでしたが、あなた、お疲れ様でした」


 場所は木瀬通運本社の休憩室。帰る前にお茶を飲んで一服いっぷくである。


「しかし、何も責を問われないで良かったですわね」

「あぁ。しかし、網弾野あびきのさんには悪いことしちゃったかな?」

「いえ、元はといえば、網弾野あびきのさんが断れなかったから、他の会社に内緒ないしょで始めたからですから網弾野あびきのさんにはいい薬になったでしょう」

「これで無茶な仕事の割り振りがくなればいいんだがなぁ」

「そうですね」


 一服いっぷくを終え、実家に帰る。


「ただいま」

「ただ今戻りました」

「お帰りなさい。で、どうだった?」


 帰ると母の朋子ともこ出迎でむかえてくれた。

 父の修司しゅうじはまだ仕事、妹の朝里あさりはまだ学校である。


「何とか穏便おんびんに事が終わったよ。これから生徒がドンと増えて、仕事が詰まるけどさ」

「まぁまぁ、それで済んで良かったじゃない」


 朋子ともこは、汲広くみひろもアントネラも無事でほっとしているようだった。


 遅めの昼食をり、のんびりとする汲広くみひろとアントネラ。


「これだけ仕事がポッカリと空くと、無職になった気分だよね」

「そうですね」

「何を言ってるのよ。また忙しくなるんでしょ?忙しくなったときに後悔しないように今のうちにちゃんと休んでおきなさい」

「は~い」


 事を一つ終えて、のんびり気分の汲広くみひろとアントネラであった。

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