異世界マゼマゼ奮闘記

ぷい16

インジスカン王国の医師のレベル

 汲広くみひろ省語しょうご多田之助ただのすけがケネヴァ・フォン・バーラルの治療を終えて戻って来たのは、アカツキ伯爵領の城下町、ハーパヤに唯一ある治療院。

 そこにはストレッチャーを準備していつお呼びがかかるか待ち構えていたこの治療院の医師、ゴードン・ラリーの姿があった。

 ちなみにストレッチャーというのは折りたためて自在車の付いた寝台。救急車でけが人、病人を寝かせたまま運ぶ、あれである。


「お姫様をこちらへ運ぶ準備はととのい… ってあれ?全員戻って来たのですか?」

「あぁ。治療が終わったのでな」


 ゴードンはストレッチャーを仕舞しまい、姫様が治ったというのに浮かない顔をしている3人を、とりあえず、待合室の椅子いすに座らせ、テーブルを持って来てお茶を注ぎ、自分も椅子に座る。


「姫様は治ったのでしょ?何故なぜそんな苦虫をかみつぶしたような顔を皆さんしているのですか?」

「いやなに、あまりにも治療が簡単だったのでな」


 汲広くみひろの後に、省語しょうごが続ける。


「我々は、バーラル子爵が、色々な名医にせて、それでも異常を発見できなかったので、大病をわずらっているものだと思って、場合によっては日本で手術をさせる心づもりであちらに行ったのだよ。そしたら我々の画像診断で原因がすぐに発見でき、短時間で処置ができ、経過は見ないといけないのだが、それでも姫様は今後快方かいほうに向かうだろうと確信を持っている」

「それは、つまり…」

「こちらの名医様は、たった1時間もかからずに治療できるものを、原因すらつかめず何の処置もできないことに我々われわれ3人は頭を抱えているのだよ」


 汲広くみひろは、


「レベルが低い。低すぎる」


 と言い、4人に一時いっとき沈黙が走った。すると、汲広くみひろは、


「私は、どうもこの国の医療レベルを知り、国民のために医者のレベルアップをはからねばならぬようだ」


 再び4人は沈黙ちんもくつつまれた。


     *


 領主邸に戻った汲広くみひろは、代官のミラトに指示を出す。


「ミラト、国中の名医をリストアップし、どこへ行けば会えるか調べてくれ」

「いきなりどうしたのですか?アカツキ伯爵?」


 汲広くみひろは今日の事をミラトに話して聞かせた。汲広くみひろは、


「この国の医者のレベルを知りたい」


 そう、ミラトに言うのであった。


「あと、これは時間がかかってもいいのだが、医者という高い立場の待遇たいぐうおぼれず、患者を救いたいと本気で思っている医者もリストアップして、治療院や自宅の住所を調べておいてくれ」

「と、言うと、教育されるのですか?」

「このままこの状態を見過みすごせん。何らかの処置をほどこす」


 汲広くみひろは、ミラトとの話を終えると、報告のため、念話を飛ばした。


(アカツキ伯爵、今いいですか?)

(大丈夫だ。よくやってくれた。バーラルのお姫様を無事、治療できたそうではないか)

(そのことについて、気づいたことでお話しがあります)


 汲広くみひろは一度深呼吸をして、


(我々は3人でまず、診断をしました。全員一致で胃に大きめのポリープがあると3人とも同じ意見でした。その意見にたどり着くまで、10分程です)

(ふむ)

(そこで、こちらの西洋医で、魔術医療の心得もある多々身たたみ省語しょうごに処置を任せました。魔術医療を駆使くししてポリープを小さくして、豆粒くらいにしたところで切除しました。処置が終わったのが姫様の部屋に到着してから30分くらいです)

(ふむ)

(それから、3人で腹部をもう一度画像診断し、念のため、省語しょうごが体全体を画像診断で異常がないか調べました。姫様の部屋に入ってから1時間もかからずに全ての診断を終えました)

(…つまり、こちらでは名医と言われる者が、原因も分からず取る手段を持たなかった病気を、お前たちは1時間もかからずに完治させたということか)

(そのとおりです)

(ふむ。こちらの国の医者と、お前たちとでは、医療技術に大きな差があるということだな)

(そのとおりです)


 汲広くみひろは、き出した汗をぬぐい、一口茶を飲んだ後、深呼吸して、


(私は、この国の医療をレベルアップさせたいと思います)

(それはいいことだ。こちらも王に話しを通しておく)


     *


 インジスカン王国では早朝、日本では仕事が一段落いちだんらくし、仕事を終えようかというような時間帯である。

 汲広くみひろは”トンデモな世界の第一人者”の人脈を生かし、医療ルポライターをしている記者に、日本で名医と言われている人物のリストアップと、どの病院に勤めているかを調べて欲しいとたのむのであった。

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