異世界マゼマゼ奮闘記

ぷい16

頭がパンパンになってくる

 汲広くみひろとアントネラは、シフトを乱して悪いなぁと思いながら、度々工場主との直接交渉をしていた。


「それをされるとコスト高になってもうけが減りますなぁ」

「他の会社もこの条件をんでもらってるんです。あなたの会社だけ特別扱いはできません。これをんで頂かない限りは流通のお話しは残念ながらお断りせざるを得ません」

「そんな殺生な。分かりました。みましょう」


 毎度毎度、同じ条件を出してそれを相手方にんでもらう。

 これなら直接交渉ではなく、先日の工場主全員参加の席にて決めてもらえていたらと残念な気がしてならない。


「さぁ、ちょっと現場の様子を見に行ってまた次の会社か」

「私たちの収入のため、頑張りましょう!」


 アントネラはよほどアカツキ伯爵にたよらない収入源がうれしいのか、交渉事に積極的である。

 流通部門のみなには今までの収入と、アカツキ伯爵にたよらない収入の違いが分かるのだろうかと首をかしげながら次の交渉先へと向かうのであった。


     *


「トゥルルルルルルルル、トゥルルルルルルルル」

「はい。ミーナです」

「工業団地の津川電工インジスカン王国工場の建設現場の者だが、掃き出し窓の魔法がいつもとは違った場所につながったんだが」

「あ、すみません。すぐにつなぎ直します」


 掃き出し窓の能力のつなぎ間違い。最近よくあるのである。

 と、言うのも、工場団地の建設現場が最盛期さいせいきを迎え、つなぐ元、つなぐ先を数えると、ゆうに200は超えるのである。

 病気か何かで欠席したときのために、全ての現場を全員が場所を覚え、共有している。

 しかし、そのやり方も限界をむかえている。

 場所を覚える限界、どことどこをつなぐのかを覚える限界。やり方そもそもを変える時期をむかえていた。


「今日もやっちゃったか」


 交渉から帰って来た汲広くみひろとアントネラ。

 二人を出迎えていた流通部門のみなからの今日の報告の中に、今回もつなぐ先を間違えた報告を受け、汲広くみひろはそうこぼすのであった。


「スキカに毎回たよるのは良くないが、良くないのは分かってはいるが、そうは言っていられない」


 スキカに頼らない方法はある。覚える場所を分担することだ。

 しかし、全員もう場所を覚えており、記憶から簡単には消せない。

 そうなれば、また同様な間違いを引き起こす。

 みな、場所を覚えるのは限界に達しており、新たな場所を覚えるのにもきゅうする。

 おまけに今は建設期。

 これが終われば工場が動き、流通が動き出す。これはある意味前座なのであり、まだ本番ではないのである。

 なので、汲広くみひろはスキカにたよることにした。



 流通部門の終業の会も終わり、みなと別れてアカツキ邸の汲広くみひろの部屋。そこに、汲広くみひろとアントネラ二人だけになり、念話を送ることにした。


(スキカさん、ご相談があります)

(何だ?言ってみよ)

(こちらの流通、掃き出し窓の能力の運用で、つなぎ間違いが多発しています。それと、もう、場所を覚えるのも限界に達してきています。何かこう、スマートフォンの電話帳みたいな、何かもっと感覚的ではなく分かりやすいつなぎ方の能力を授けていただけないかと)

(ふむ。何もかも私にたよるのではなく自分で出来できることはないか、それを考えてなお私にたよるか。まぁ、最初から私にたよるよりは成長したな。あい分かった。その願い、かなえるとするが、そちの望んだわかりやすい方法というのはちょっと革新的かくしんてきすぎてな。われも簡単に術式が組めぬ。明日には何とかするからまた明日にわれを呼べ。さすればお前の望み、叶えてやろう)

(ありがとうございます)


 一日おくことになったが、返事は良好であろう。



 次の日、流通部門の終業の会も終わり、また二人きりになってからスキカに念話する。


(スキカさん、昨日のけん、どうなりましたか?)

(あぁ、汲広くみひろか。術式が組み終わったのでお前とアントネラにだけその能力を授ける。昨日も言ったがその能力、革新的かくしんてきすぎてな。使った者がないのだ。つまりは使えるかどうかテストしてもらう必要があると言うことだ。それで上手くいけばお前たち全員に同じ能力を授ける。それでいいか?)

(分かりました。その方向でお願いします)

(それでは授けるぞ。ふんっっっ。それではテスト結果が良くも悪くもまたわれを呼べ。以上だ)

(ありがとうございます)


 そして、汲広くみひろとアントネラ、二人は能力を授かった。

 ”記憶に名前を付ける”能力と、”名前の視覚化”、”記憶を意識の外へ追いやる”能力、それに、”他人が開いた掃き出し窓の能力を閉じる”能力を。

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