異世界マゼマゼ奮闘記

ぷい16

閑話―カンデラ子爵家の日本観光―後編

 そして次の朝、例のホームセンターへ行った。

 ホームセンターはいろいろな道具がある。見方を変えればネタの宝庫である。

 買いはしないものの、いろいろな道具に皆《みな》、興味津々であった。


 次に向かったのはとある道具屋筋である。

 こちらはもっとディープなネタの宝庫。

 同じ用途ようとのものなのに、こんなにも種類があるのかと日本の道具の奥深さを見てもらった。


 その後、客を入れ替える隙間の映画館にも入れてもらった。

 配給元とのコネが出来たので、設備だけでも見せてとたのんだのである。

 黒塗りの、独特の形をした壁。薄暗い照明、本当は映画を見せたかったけど、さすがにサーメイヤ字幕版を上映してくれとは言えず、このような形となった。

 映画を見るための、立派な設備にみな、驚くと同時に貧富の差と言おうか、歴史の重みと言おうか、ちょっと複雑な顔をしていた。


 その後、家電量販店に寄った。

 掃除機や洗濯機、食洗機、冷蔵庫にはあまり興味を示さなかった。

 やはりこんなところは従者任せ。貴族なのだろう。

 テレビやBDレコーダー、オーディオ機器やパソコンを見せたときにはみな興奮していた。

 同じ用途の物なのにこんなにも種類が… とか、これがあれば、映画が見放題になるのかとか、音を聞くためだけにこんな大がかりな設備を整えるのかぁとか、様々な感想を言っていた。


 その後、ちょっと時間が余ったので、ガリ版印刷機を買った店に寄ってみた。


「こういった機材を使って最初の頃は日本語教室をやっていたんですよ」

「ふむ、これがあれば、同じ内容を書いた紙を何枚でも刷れるのか」

「そうなんですよー」

「これを最初に見たときは興奮したなぁ」

「今やインジスカン王国の本屋はこれを仕入れて大量に本を作成しているな」

「最初に見た文明の利器ですねぇ」


 様々な感想を述べるカンデラ家の一同であった。

 話しの流れで、最後に大型書店に寄った。


「こんなに大量に本が!」

「同じ本が大量に積まれている!」

「日本とインジスカン王国とでは印刷方法がそもそも違うんですよ」


 そして、フルカラーの図鑑を見せてみて


「こんなにもカラフルな色使い、我々では真似出来んな」


 一同、ちょっと落ち込んでしまった。


 そうこうしているうちに日は既に落ち、汲広くみひろの家で夕食となった。

 今日の献立は鍋であった。


『同じ鍋から各々おのおの取り分けて食べるとはこちらの文化にはないな』

『このおつゆ、おいしい』

『暖まって汗をかくね』


 様々な感想を述べるのであった。


 そして、次の日は洋服店へ行った。

 女性陣が多いから、服には興味があるだろうとの選択だったが、みな、興奮しすぎて、あっちの店、こっちの店とハシゴし、男性陣は見ているだけなので、つまらなかったが、女性陣にとってはかなり有意義な時間だったようだ。

 予定そっちの気で見て回ったので、その後予定していた観光場所には数カ所回れなかった。

 ひとしきり洋服などを見た一行は、荷物は何も増えていない。


「どうしたんですか?買わなかったんですか?」

「ちょっとインジスカン王国の服装とはかけ離れすぎていてね。着ていたら目立ってしょうがないのよ」


 買っても着られないらしかった。

 そして、最後に寄ったのは100円ショップ。ここではさすがに色々と買った。


 そうして日本の観光は終わった。最後に岡塚家の実家に立ち寄りお別れの挨拶あいさつとなった。


「色々と歓迎して下さって楽しかったわ」

遠慮えんりょせずにまたいらして下さいね」

「この子たち、早く初孫産んでくれないかしら?」

「学校があるのでまだ生めませんよ。収入もありませんし」

「あら、この子たち、インジスカン王国では伯爵夫妻をやっているのよ。収入ならしっかりあるわ」

「いやぁ、発電機を一杯買って、今、うちの財政、結構苦しいんですよ」

「あらやだ。お金の管理はしっかりとしなさいね」


 話しの方向があらぬ方向へ行ってしまった。

 別れの挨拶らしからぬ挨拶を済ませ、本当に別れの時間となった。


「それでは、お元気で」

「頼めば来られそうだから、遠慮えんりょはなしにまた来るわ。うちにも顔を出してね」

「それではまた。さようなら」


 そうして一行は、汲広くみひろの開いた掃き出し窓の魔法でカンデラ領の領主邸へと帰ったのであった。


 日本ではもうとっぷりと夜も更けた時間帯だったが、インジスカン王国ではまだ午前中。

 折角家族がそろったのだからと、しばらく歓談をし、それから王都組は王都へ帰り、汲広くみひろとアントネラはアカツキ領へと帰っていったのであった。


     *


 アカツキ伯爵の思いつきで行われたカンデラ子爵家の日本旅行。

 2日にわたったのだが、その間もパソコン教室では授業があった。

 汲広くみひろとアントネラには王都組の記憶があるため、遅れを取り戻すべく、シフォン、マイク、リサには1週間にわたって居残り勉強をさせるのであった。

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