異世界マゼマゼ奮闘記
国交樹立と一抹の不安
戦闘行為についての講義を始めた次の日の朝、悠生は王宮に呼ばれた。
何となく話の内容が分かる悠生は資料を土のう袋の魔法に詰めて登城する。念のため、ステファニアと一緒に。
「何故言わなかった?」
ここは城内の会議室。10席ある椅子《いす》とテーブルに、ジョージ国王、第二王子で軍事トップであるアーノルド。それに向かい合う形で悠生とステファニアが座っていた。
「国交も何も無いのに武器輸入とか軍事協力も無いでしょう」
悠生も怯まない。
「分かった。そのような利益があるなら国交樹立を急ごう。にしても、報告くらいは上げてもらわんと」
国王は、悠生の理屈は分からないでもないが、知らせるくらいはいくらでもできたのに、知らせなかったことにかなり立腹している様子。
ここで、悠生は二人にプリントを渡し、地球での戦争を例に、強力な殺戮兵器を持てばどうなるのか、世界は武力保持はどの国も同じくらいで、突出した国が出ると周りに宣戦布告をしでかして、全世界規模で戦争が起こり、取り返しの付かない状態になることを話した。そして、悠生はきっぱりと、
「私は、戦争は反対です」
と、こう述べるのであった。
「しかし、決めるのは君ではないよね?」
悠生の意見は分かる。でも、判断するのはこちら側だとアーノルドは返した。
「どうも、君らの講義は他国に漏れている節がある。世界の武力均衡を狙うのであれば、我らも遅れずに軍需拡大をせねばならんだろうね」
その後、ライフルや銃など、早い段階で増強可能なものの他に、高度な技術力が要る近代兵器まで、概論的に広く浅く兵器類の説明をした。
「そこでだ。ユウセイ・フォン・アカツキ。お前に日本との国交樹立の任を任せたい」
皮肉なものである。避けてきた武器輸入の話が、望んでいた国交樹立の話を推し進める形になったのである。
「ユウセイ・フォン・アカツキ、拝命致しました」
*
「…それで、インジスカン王国側は、急に国交樹立に前向きになったのですよ」
ここは日本、岡塚汲広邸。汲広は官僚の網弾野と電話で話している。
「確かに。国交も無い国には武器類の輸出は難しいですねぇ」
網弾野も答える。
「分かりました。こちらも前向きに会ってお話ししましょう。でも、結局、決めるのは国会議員のお偉いさんですけどね」
そうである。いくら官僚といえども国会の意見を無視して国交を結ぶことはできないのである。
網弾野たち、官僚と話し合った後、国会議員の先遣隊として、10名の国会議員と汲広、アントネラ、官僚のサーメイヤ語教室生徒2名でインジスカン王国を見て回ることにした。
魔法で移動することは先に伝えていたはずだが、皆一様に、掃き出し窓の魔法に驚いていたのは面白かった。
城下町の視察、魔法学園の授業風景に実習視察、日本語教室の生徒の紹介。その日はアカツキ邸に泊まってもらって、次の日、魔術師団の演習風景を見てもらった後に国交担当の貴族達と会談をしてもらった。
「実に良い体験をさせてもらいました」
「着いた当初は、”何だこの時代遅れの国は”と、あまり良い印象はなかったのですが、魔法を見て納得しました。魔法があれば、あまり不自由しないのですね」
先遣隊の皆さんには、インジスカン王国は、好印象に映っているようであった。
その後、国会議員に推されて、大臣やら総理も視察に来て、先遣隊と同じように案内した。貴族達との会談には、国王にも出席してもらった。
総理の来訪とあって、テレビ局やら新聞社の取材班も一緒にインジスカン王国に渡って”街の様子を日本に伝えたい”だとか、”国王と総理のツーショットを日本に伝えなければ”など、使命感に燃えているようであったので、取材班には別行動を取ってもらい、そちらには日本語教室の生徒やらサーメイヤ語教室の生徒を付けた。
かくして国交樹立を前に、日本に総理の王国来訪が広く世間に広まるのであった。
その後、日本の閣僚と、インジスカン王国の貴族の話し合いが水面下で行われ、とうとう国交樹立と大使館を双方の国に置くことが決まった。
日本側はインジスカン側に武器輸出を約束し、インジスカン側は魔法技術の輸出と、農作物の輸出を約束した。
その後、日本に、インジスカン王国国王のジョージと、その妻、アナベル、そして、数名の貴族が招待され、日の丸とインジスカン王国国旗の前で、国交樹立の調印式が行われ、その話題は各紙の一面を飾った。
*
「何だかあっけなく国交樹立が成されましたねぇ」
「僕らの苦労は何だったんだろうな」
汲広とアントネラの言葉である。今まで頑張ってきても、国交樹立が遅々として進まず、武器というエサがちらついたらトントン拍子に事が進んだのだからそりゃ愚痴りたくもなるというものである。
「望んだ形ではないとは言え、僕たち、やったんだな」
「そうですね。結果的には」
汲広とアントネラは望まぬ形とは言え、国交樹立の成立に感慨深いものがあった。
そして、インジスカン王国のあるニーヘロイ星に、果たして未来はあるのかと大きな不安を抱えるのであった。
何となく話の内容が分かる悠生は資料を土のう袋の魔法に詰めて登城する。念のため、ステファニアと一緒に。
「何故言わなかった?」
ここは城内の会議室。10席ある椅子《いす》とテーブルに、ジョージ国王、第二王子で軍事トップであるアーノルド。それに向かい合う形で悠生とステファニアが座っていた。
「国交も何も無いのに武器輸入とか軍事協力も無いでしょう」
悠生も怯まない。
「分かった。そのような利益があるなら国交樹立を急ごう。にしても、報告くらいは上げてもらわんと」
国王は、悠生の理屈は分からないでもないが、知らせるくらいはいくらでもできたのに、知らせなかったことにかなり立腹している様子。
ここで、悠生は二人にプリントを渡し、地球での戦争を例に、強力な殺戮兵器を持てばどうなるのか、世界は武力保持はどの国も同じくらいで、突出した国が出ると周りに宣戦布告をしでかして、全世界規模で戦争が起こり、取り返しの付かない状態になることを話した。そして、悠生はきっぱりと、
「私は、戦争は反対です」
と、こう述べるのであった。
「しかし、決めるのは君ではないよね?」
悠生の意見は分かる。でも、判断するのはこちら側だとアーノルドは返した。
「どうも、君らの講義は他国に漏れている節がある。世界の武力均衡を狙うのであれば、我らも遅れずに軍需拡大をせねばならんだろうね」
その後、ライフルや銃など、早い段階で増強可能なものの他に、高度な技術力が要る近代兵器まで、概論的に広く浅く兵器類の説明をした。
「そこでだ。ユウセイ・フォン・アカツキ。お前に日本との国交樹立の任を任せたい」
皮肉なものである。避けてきた武器輸入の話が、望んでいた国交樹立の話を推し進める形になったのである。
「ユウセイ・フォン・アカツキ、拝命致しました」
*
「…それで、インジスカン王国側は、急に国交樹立に前向きになったのですよ」
ここは日本、岡塚汲広邸。汲広は官僚の網弾野と電話で話している。
「確かに。国交も無い国には武器類の輸出は難しいですねぇ」
網弾野も答える。
「分かりました。こちらも前向きに会ってお話ししましょう。でも、結局、決めるのは国会議員のお偉いさんですけどね」
そうである。いくら官僚といえども国会の意見を無視して国交を結ぶことはできないのである。
網弾野たち、官僚と話し合った後、国会議員の先遣隊として、10名の国会議員と汲広、アントネラ、官僚のサーメイヤ語教室生徒2名でインジスカン王国を見て回ることにした。
魔法で移動することは先に伝えていたはずだが、皆一様に、掃き出し窓の魔法に驚いていたのは面白かった。
城下町の視察、魔法学園の授業風景に実習視察、日本語教室の生徒の紹介。その日はアカツキ邸に泊まってもらって、次の日、魔術師団の演習風景を見てもらった後に国交担当の貴族達と会談をしてもらった。
「実に良い体験をさせてもらいました」
「着いた当初は、”何だこの時代遅れの国は”と、あまり良い印象はなかったのですが、魔法を見て納得しました。魔法があれば、あまり不自由しないのですね」
先遣隊の皆さんには、インジスカン王国は、好印象に映っているようであった。
その後、国会議員に推されて、大臣やら総理も視察に来て、先遣隊と同じように案内した。貴族達との会談には、国王にも出席してもらった。
総理の来訪とあって、テレビ局やら新聞社の取材班も一緒にインジスカン王国に渡って”街の様子を日本に伝えたい”だとか、”国王と総理のツーショットを日本に伝えなければ”など、使命感に燃えているようであったので、取材班には別行動を取ってもらい、そちらには日本語教室の生徒やらサーメイヤ語教室の生徒を付けた。
かくして国交樹立を前に、日本に総理の王国来訪が広く世間に広まるのであった。
その後、日本の閣僚と、インジスカン王国の貴族の話し合いが水面下で行われ、とうとう国交樹立と大使館を双方の国に置くことが決まった。
日本側はインジスカン側に武器輸出を約束し、インジスカン側は魔法技術の輸出と、農作物の輸出を約束した。
その後、日本に、インジスカン王国国王のジョージと、その妻、アナベル、そして、数名の貴族が招待され、日の丸とインジスカン王国国旗の前で、国交樹立の調印式が行われ、その話題は各紙の一面を飾った。
*
「何だかあっけなく国交樹立が成されましたねぇ」
「僕らの苦労は何だったんだろうな」
汲広とアントネラの言葉である。今まで頑張ってきても、国交樹立が遅々として進まず、武器というエサがちらついたらトントン拍子に事が進んだのだからそりゃ愚痴りたくもなるというものである。
「望んだ形ではないとは言え、僕たち、やったんだな」
「そうですね。結果的には」
汲広とアントネラは望まぬ形とは言え、国交樹立の成立に感慨深いものがあった。
そして、インジスカン王国のあるニーヘロイ星に、果たして未来はあるのかと大きな不安を抱えるのであった。
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