異世界マゼマゼ奮闘記

ぷい16

国交樹立と一抹の不安

 戦闘行為についての講義を始めた次の日の朝、悠生ゆうせいは王宮に呼ばれた。

 なんとなく話の内容が分かる悠生ゆうせいは資料を土のう袋の魔法に詰めて登城とうじょうする。念のため、ステファニアと一緒に。


「何故言わなかった?」


 ここは城内の会議室。10席ある椅子《いす》とテーブルに、ジョージ国王、第二王子で軍事トップであるアーノルド。それに向かい合う形で悠生ゆうせいとステファニアが座っていた。


「国交も何もいのに武器輸入とか軍事協力も無いでしょう」


 悠生ゆうせいも怯まない。


「分かった。そのような利益があるなら国交樹立を急ごう。にしても、報告くらいは上げてもらわんと」


 国王は、悠生ゆうせいの理屈は分からないでもないが、知らせるくらいはいくらでもできたのに、知らせなかったことにかなり立腹りっぷくしている様子ようす

 ここで、悠生ゆうせいは二人にプリントをわたし、地球での戦争をれいに、強力な殺戮さつりく兵器をてばどうなるのか、世界は武力保持はどの国も同じくらいで、突出した国が出るとまわりに宣戦布告をしでかして、全世界規模で戦争が起こり、取り返しの付かない状態になることを話した。そして、悠生ゆうせいはきっぱりと、


「私は、戦争は反対です」


 と、こうべるのであった。


「しかし、決めるのは君ではないよね?」


 悠生ゆうせいの意見は分かる。でも、判断するのはこちらがわだとアーノルドはかえした。


「どうも、君らの講義は他国にれているふしがある。世界の武力均衡きんこうねらうのであれば、我らも遅れずに軍需拡大をせねばならんだろうね」


 その後、ライフルや銃など、早い段階で増強可能なものの他に、高度な技術力がる近代兵器まで、概論がいろん的に広く浅く兵器類の説明をした。


「そこでだ。ユウセイ・フォン・アカツキ。お前に日本との国交樹立の任を任せたい」


 皮肉なものである。けてきた武器輸入の話が、望んでいた国交樹立の話をし進める形になったのである。


「ユウセイ・フォン・アカツキ、拝命はいめいいたしました」


     *


「…それで、インジスカン王国あちら側は、急に国交樹立に前向きになったのですよ」


 ここは日本、岡塚おかつか汲広くみひろ邸。汲広くみひろは官僚の網弾野あびきのと電話で話している。


「確かに。国交も無い国には武器類の輸出は難しいですねぇ」


 網弾野あびきのも答える。


「分かりました。こちらも前向きに会ってお話ししましょう。でも、結局、決めるのは国会議員のお偉いさんですけどね」


 そうである。いくら官僚といえども国会の意見を無視して国交を結ぶことはできないのである。


 網弾野あびきのたち、官僚と話し合った後、国会議員の先遣隊として、10名の国会議員と汲広くみひろ、アントネラ、官僚のサーメイヤ語教室生徒2名でインジスカン王国を見て回ることにした。

 魔法で移動することは先に伝えていたはずだが、みな一様いちように、掃き出し窓の魔法に驚いていたのは面白かった。

 城下町の視察、魔法学園の授業風景に実習視察、日本語教室の生徒の紹介。その日はアカツキ邸に泊まってもらって、次の日、魔術師団の演習風景を見てもらった後に国交担当の貴族たちと会談をしてもらった。


「実に良い体験をさせてもらいました」

いた当初は、”何だこの時代遅れの国は”と、あまり良い印象はなかったのですが、魔法を見て納得しました。魔法があれば、あまり不自由しないのですね」


 先遣隊のみなさんには、インジスカン王国は、好印象に映っているようであった。

 その後、国会議員にされて、大臣やら総理も視察に来て、先遣隊と同じように案内した。貴族たちとの会談には、国王にも出席してもらった。

 総理の来訪とあって、テレビ局やら新聞社の取材班も一緒にインジスカン王国に渡って”街の様子を日本に伝えたい”だとか、”国王と総理のツーショットを日本に伝えなければ”など、使命感に燃えているようであったので、取材班には別行動を取ってもらい、そちらには日本語教室の生徒やらサーメイヤ語教室の生徒を付けた。

 かくして国交樹立を前に、日本に総理の王国来訪が広く世間に広まるのであった。


 その後、日本の閣僚と、インジスカン王国の貴族の話し合いが水面下で行われ、とうとう国交樹立と大使館を双方の国に置くことが決まった。

 日本側はインジスカン側に武器輸出を約束し、インジスカン側は魔法技術の輸出と、農作物の輸出を約束した。


 その後、日本に、インジスカン王国国王のジョージと、その妻、アナベル、そして、数名の貴族が招待され、日の丸とインジスカン王国国旗の前で、国交樹立の調印式が行われ、その話題は各紙の一面を飾った。


     *


「何だかあっけなく国交樹立がされましたねぇ」

「僕らの苦労は何だったんだろうな」


 汲広くみひろとアントネラの言葉である。今まで頑張ってきても、国交樹立が遅々ちちとして進まず、武器というエサがちらついたらトントン拍子びょうしに事が進んだのだからそりゃ愚痴ぐちりたくもなるというものである。


「望んだ形ではないとは言え、僕たち、やったんだな」

「そうですね。結果的には」


 汲広くみひろとアントネラは望まぬ形とは言え、国交樹立の成立に感慨かんがい深いものがあった。

 そして、インジスカン王国のあるニーヘロイ星に、果たして未来はあるのかと大きな不安を抱えるのであった。

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