誘惑の延長線上、君を囲う。

桜井 響華

同居人は鬼上司【2】

まるで社内恋愛をしているかのような気持ちになり、他の社員にバレないかとか、秘密のやり取りに対してドキドキワクワクしていた。私と日下部君のデスクは離れていて、日下部君のデスクに関しては壁際にある為、死角になっている。今のところ、怪しまれている様子はない。

その後、日下部君はメッセージで少しだけ残業すると言ってたので、先に仕事を終えた私はマンションがある駅前のコーヒーショップで待ち構えていた。

「ごめんな、仕事が長引いて」

日下部君からのもうすぐコーヒーショップ前に着くとの連絡に合わせて、支払いを済ませて外に出た。外は暑くて、今日は熱帯夜になりそうだ。

「ううん、大丈夫だよ。本を読んで待ってたから」

シリーズ物のミステリー小説を読みながら待って居たので退屈はしなかった。……がしかし、メッセージがいつ入るのか待ち遠しく、スマホを眺めては本を読んでの繰り返しだったので頭の中にストーリーが入り込んではいなかった。

「あっついから涼しい所が良いな。金曜日だから居酒屋は混んでそうだな……」

「そしたら、まだ間に合うからデパ地下でお惣菜買って、家で飲まない?」

「その方が良いかもな。明日に備えてそうするか」

周りを見渡すと居酒屋に流れ込むサラリーマンや若者達が沢山居た。デパ地下で惣菜を買う前に日下部君が暑すぎるからビールで喉を潤したいと言ったので、一杯だけの約束でバーに立ち寄った。

「焼き鳥が売り切れなくて良かったー!あとエビとアボカドのサラダ、コレ大好き!」

「良かったな。……てゆーか、何故、急に日本酒を買ったんだ?」

バーに立ち寄ったら、デパ地下が閉店間近で危うく買いたい物が売り切れる寸前だった。惣菜の他に酒コーナーにも寄って、美味しそうなお酒も購入した。

「高橋さんがオススメしてくれた純米大吟醸、気になったから。二人で飲んでみよ?」

「高橋、日本酒も飲むのか……。日本酒は悪酔いするイメージがあるから嗜む程度にしか飲んだ事がないけど本当に大丈夫か?」

「とにかくフルーティーで美味しいんだって!試してみてダメなら勿体ないけど料理に使おうよ」

バイヤーの高橋さんはビール派だけれども、最近は日本酒にハマっているらしく、飲んでみて一番美味しい日本酒を教えてくれた。ちなみに夫の高橋さんはお酒はあまり飲まないらしい。

私も日本酒は嗜む程度にしか飲んだ事はないが、フルーティーで飲みやすいと聞き、飲んでみたくなった。

マンションに帰り、汗をかいたのでシャワーを浴びてから日下部君と一緒に日本酒を飲む。

「部屋の中も涼しいし、日本酒も美味しいしサイコーだね」

「おい、一人で半分も開けてるからもう没収な。飲みすぎだ」

「だって本当に飲みやすいんだもん」

言われた通りのフルーティーさで飲みやすく、ついおかわりしてしまうのだ。日下部君はやはり、あまり好きではないらしくビールに戻る。

「……日下部君てさ、会社ではガミガミうるさいけど、家に帰るとさ……私に甘いよねぇ」

日本酒を飲んでいると頭がボンヤリとしてきて、ふわふわな感じ。酔いに任せて、隣に座る日下部君の頬をツンツンと人差し指でつついた。

「十二分に仕返ししてやるって、な、ぁ、に?」

言葉に合わせて執拗い位につついていたら、日下部君が思い出したと言わんばかりに、咄嗟に私を抱き抱えてベッドへ連れ込んだ。

「……酔いすぎだから、佐藤の酔い覚ましには丁度良いな。仕返ししてやるよ、十二分にな」

ギシリ。

私はベッドに寝かされる。ベッドの軋む音がする。

同居してからも時々、日下部君に抱かれる。私はいつ引っ越しをしても良いように布団しか所持して居なかった。その為、日下部君が勝手に自分が使用していたベッドをダブルベッドへと変えた。

私の部屋も与えられたが、実質、日下部君の部屋で寝ているのだ。

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