誘惑の延長線上、君を囲う。

桜井 響華

愛も恋も存在しない【3】

私は日下部君の背中に腕を回して、抱きしめ返す。胸板に耳をくっつけると日下部君から聞こえる心臓の音が心地良い。ぎゅっと抱きしめられていると安心する。

「自分の普段着てる服を女の子に貸すのは初めてだけど……、男として憧れのシチュエーションだな」

「硬派なイメージが崩れちゃうよ、日下部君の」

「そんなの、勝手なイメージにしか過ぎない。俺だって、所詮ただの男だよ……。よし、充電完了。今度こそ、寝よう……」

日下部君は私の身体から離れて洗面所に向かったので、私も一緒に着いて行き、歯磨きをした。寝る支度が整い、お言葉に甘えて日下部君のベッドに入る。「おやすみ」と何回か交わすが、なかなか寝付けない。

「佐藤、寝られないの?」

「うん……、なかなか眠れない」

私がベッドの上で何度も向きを変えてゴロゴロしていた事が、ソファーで寝ようとしていた日下部君に知られてしまった。

「もう少しだけ話をしようか?」

日下部君は私が横になっているベッドの端に座り、私を見下ろした。ベッドに手を着いて座って居たので、私は起き上がって、日下部君の腕に絡み付く。

「話をすると言うか、えっと……く、日下部君も…ベッドで寝ない?私、枕が変わると眠れない人だから。ベッドを占拠してて言う台詞じゃないけど」

「あのさ……、俺の事、誘ってるの?佐藤の可愛い姿を見せられて、これ以上、理性を抑える自信がないから。さっきも言ったけど、所詮は俺もただの男だからな」

日下部君は優しさから私が眠りに付くまで話す事を望んだのに、私は提案を蹴ってしまっていた。日下部君は右手で私の顎を上に上げて、冷ややかな目付きで私を見つめる。囚われた私は視線からも逃げられない。私がそっと目を閉じれば、日下部君はキスをして私を抱いてくれるのだろう。日下部君の気持ちはここにないから、抱かれれば抱かれる程、虚しくなるだけなのに……。

頭の中では虚しくなるだけだと理解しているが、目先の誘惑には勝てやしない。私はそっと日下部君の頬に触れる。どちらからともなく唇を重ねて、深く深く舌を絡ませる。

互いの感情など心の片隅に置き去りにして、欲を吐き出す。

情熱的に抱きしめあった後に、日下部君は私の額にチュッとキスを落とす。その後に日下部君は冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、私に投げたので上手くキャッチした。何口か口に含んだ後、汗ばんだ肌のまま、散らかした洋服や下着を掻き集めてシャワーを浴びに行く。すると身体を洗っていた時に胸の辺りと太ももに赤い蕾を発見した。

い、いつの間に……?

行為の最中に付けられていた事など、全く気付かなかった。それだけ私は夢中だったのだ。急に恥ずかしさに襲われ、赤い蕾を直視しないようにそそくさとシャワーを浴びてバスルームを出た。

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