誘惑の延長線上、君を囲う。
雨に打たれる【3】
日下部君達が帰った後、17時少し前にもう一人のアルバイトの女の子が出勤して来た。女の子が来た後から雨がポツリ、ポツリと降り出した。帰る頃には雨が土砂降りになり、女の子は彼氏が車で迎えに来てくれるらしい。
「佐藤さんも駅まで乗って行きますか?」
「ありがとう、でも大丈夫。今日、寄る所あるからさ」
「そうですか……、気を付けて帰って下さいね。すみません、お先に失礼します」
「お疲れ様でした」
レジの締め作業が終わり、彼氏がお迎えに来たアルバイトの女の子は先に帰す。明かりを消す前に外を眺めてみると、依然として酷い雨の降り方だった。本心は駅まで乗せて行って欲しかったけれど、会ったばかりだし図々しく思えて、本当はないのに寄る所があるなどと言った。それに彼氏との時間を邪魔しちゃ駄目だよね……。そう思いながら明かりを消して、店舗の鍵を閉める。
傘を開き歩き出そうとした時、目の前に見た事のある車が止まり、左のウィンカーをつけて歩道側に幅寄せした。
「佐藤、乗って。家まで送るから」
「え、いいよ!大丈夫だよ、歩いて帰るよ!」
助手席の窓が開き、日下部君が呼びかける。乗る乗らないのやり取りをしていたら、後ろからクラクションを鳴らされたので仕方なく乗り込む。
「……何ですぐに乗らなかったんだよ?」
「何でって……、日下部君に迎えに来て貰う理由なんてないもの」
「雨が酷いから迎えに来たんだろ?……可愛げがねーな」
せっかく迎えに来てくれたのに私の態度は最低だった。迎えに来てくれた事が嬉しくて堪らないくせに、先程の秋葉さんが助手席に乗っていた事を思い出してしまい、素直に受け止められなかった。
「可愛げがないのは前からです!」
可愛げがなくて悪かったわね!30歳にもなれば、人格形成は出来上がっているから変わる事なんて無理だから。
「……機嫌悪そうだけど何かあったのか?」
「わ、私だって色々あるの!日下部君には"一生"気付けない事だから」
「もしかして、連絡もなしに社員達を連れて行ったからか?」
「ち、違うよ。そんな事じゃない」
「じゃあ何で?」
ついうっかり、売り言葉に買い言葉で放った言葉が自分を苦しめている。日下部君が執拗に聞いて来る。
「何でって言われても……私だって人間だから、些細な事で面白くなかったり、悲しかったりするんだよ。誰にも言いたくない事だってあるんだから、もう放っておいて!」
「分かった、……じゃあ、委員長の気が済むまで今日は飲もう」
「え……?」
「ストレス溜まってそうだから」
「明日も仕事だから嫌だよ、雨も酷いし……」
「少しだけならどう?」
「少しだけなら……いいよ」
信号待ちの時、日下部君に流し目で強引に誘われたら、私は断れない。心臓がバクバクと音を立てているが、雨の音とワイパーの音でかき消されている。夜の車内は暗いから、私の顔が真っ赤なのを気付かれなくてホッとした。
駅前のコインパーキングに車を停めて、居酒屋に向かう。相変わらず、雨は酷くて止む気配はない。居酒屋は降りしきる雨のお陰か、空いていて、小さな個室に通された。
「佐藤さんも駅まで乗って行きますか?」
「ありがとう、でも大丈夫。今日、寄る所あるからさ」
「そうですか……、気を付けて帰って下さいね。すみません、お先に失礼します」
「お疲れ様でした」
レジの締め作業が終わり、彼氏がお迎えに来たアルバイトの女の子は先に帰す。明かりを消す前に外を眺めてみると、依然として酷い雨の降り方だった。本心は駅まで乗せて行って欲しかったけれど、会ったばかりだし図々しく思えて、本当はないのに寄る所があるなどと言った。それに彼氏との時間を邪魔しちゃ駄目だよね……。そう思いながら明かりを消して、店舗の鍵を閉める。
傘を開き歩き出そうとした時、目の前に見た事のある車が止まり、左のウィンカーをつけて歩道側に幅寄せした。
「佐藤、乗って。家まで送るから」
「え、いいよ!大丈夫だよ、歩いて帰るよ!」
助手席の窓が開き、日下部君が呼びかける。乗る乗らないのやり取りをしていたら、後ろからクラクションを鳴らされたので仕方なく乗り込む。
「……何ですぐに乗らなかったんだよ?」
「何でって……、日下部君に迎えに来て貰う理由なんてないもの」
「雨が酷いから迎えに来たんだろ?……可愛げがねーな」
せっかく迎えに来てくれたのに私の態度は最低だった。迎えに来てくれた事が嬉しくて堪らないくせに、先程の秋葉さんが助手席に乗っていた事を思い出してしまい、素直に受け止められなかった。
「可愛げがないのは前からです!」
可愛げがなくて悪かったわね!30歳にもなれば、人格形成は出来上がっているから変わる事なんて無理だから。
「……機嫌悪そうだけど何かあったのか?」
「わ、私だって色々あるの!日下部君には"一生"気付けない事だから」
「もしかして、連絡もなしに社員達を連れて行ったからか?」
「ち、違うよ。そんな事じゃない」
「じゃあ何で?」
ついうっかり、売り言葉に買い言葉で放った言葉が自分を苦しめている。日下部君が執拗に聞いて来る。
「何でって言われても……私だって人間だから、些細な事で面白くなかったり、悲しかったりするんだよ。誰にも言いたくない事だってあるんだから、もう放っておいて!」
「分かった、……じゃあ、委員長の気が済むまで今日は飲もう」
「え……?」
「ストレス溜まってそうだから」
「明日も仕事だから嫌だよ、雨も酷いし……」
「少しだけならどう?」
「少しだけなら……いいよ」
信号待ちの時、日下部君に流し目で強引に誘われたら、私は断れない。心臓がバクバクと音を立てているが、雨の音とワイパーの音でかき消されている。夜の車内は暗いから、私の顔が真っ赤なのを気付かれなくてホッとした。
駅前のコインパーキングに車を停めて、居酒屋に向かう。相変わらず、雨は酷くて止む気配はない。居酒屋は降りしきる雨のお陰か、空いていて、小さな個室に通された。
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