婚活アプリで出会う恋~幼馴染との再会で赤い糸を見失いました~

春乃未果

新しいプロジェクト(3)

私に向き直ると、リングをはめた方の手を遥斗に持ち上げられ、迫るように尋ねてきた。

「里穂の仕事は、これから俺と結婚して幸せになることだ。引き受けてくれるか?」

驚いて返事もできない。こんな幸せが急に訪れていいのだろうか?

「だって、私が……遥斗と……?」

「嫌……なのか?」

初めて見る、遥斗の不安そうな表情だった。
その顔に心がギュッと締め付けられる。

「そんなわけ無いよ。遥斗に復讐されてるうちに、すっかり心奪われて……。
こっちは、好きって気持ちさえ打ち明けられなくて、ずっと苦しかったんだから……」

いつの間にか声が震えてしまって、視界がうるんできた。

「私の仕事は、遥斗に幸せになってもらうことだから。……もちろん、引き受けます」

そう伝えた瞬間、勢い良く抱きしめられた。
吐息と共に遥斗の呟きが聞こえてくる。

「良かった……断られなくて……」

そう言って私の肩に頭を乗せると、きつく抱きしめてきた。

あんなに強気で迫っていたのに、遥斗の言葉が意外すぎる。
もしかして遥斗は、昔のようにずっと変わらず、人一倍繊細のままなのかもしれない。
無理をして、私の前で強気な姿勢を演じていたのかも……。
目を閉じると、小さな可愛い頃の遥斗の姿が浮かんできた。


ロビーへ降りると、窓際のソファーに黒のスーツを着た桂木さんが座っていた。
今日も相変わらず色っぽく、いつものにこやかな表情で出迎えられた。
私たちは桂木さんの向かい側へと座る。

「お久しぶり。里穂ちゃん」

まるで友人のように声を掛けられた。

「うまくいったようね。これで私も肩の荷が下りるわ」

桂木さんは細い足を組み直しながら、遥斗に向かって呟く。

「今までありがとうみやび。これで安心して紹介できるよ」

「里穂ちゃん、気を付けた方がいいわよ。言ったでしょ。この子、結構な変態で、ストーカーだから」

「あのっ、さっきから気になるんですけど。桂木さんて、いったい……」 

私一人がポカンとしながら、二人の顔を見比べた。

「こいつはTSAグローバルのSEをやってて、高城たかしろの実の娘、俺の義理の姉だ。既に結婚して名前は違うけどな」

「ええっ!?」

まさか、この女性がお姉さんだったなんて。
どおりで一緒に歩いていたり、レジデンスから出てきたり……。
そう考えると、怪しいことは何一つない。

私一人で勘違いしてたなんて……。
今日はいくつもの驚きで、目が回りそうだった。

「本気で結婚するの? 無理に言わされてない?」

桂木さんは心配そうに私を見つめた。

「雅、さっき承諾しょうだくしてもらったばかりなんだ。不安をあおるようなことを言うなよ」

遥斗は嫌そうに桂木さんをにらんだ。

「そのうち色々わかるとは思うけど。まじめで、努力家、浮気の心配だけは無いわ。それは保証する」

遥斗と一緒に生活してきて、桂木さんが言ったことをなんとなく感じ取っていた。
本当の彼はとても誠実で、一直線な人だということを。

「あの……桂木さん。以前、私を会社へ呼び出したのは、何を伝えようと思ったんですか?」

「あぁ。あれは、里穂ちゃんがどんな子か知りたくて。そしたら、意外としっかりしてるから。遥斗があの通りバカ真面目だから、逆に嫌われてんじゃないのかって、心配して」

「なんだよ、それ。まったく余計なお世話だ。人が出張中なのを見計らって、里穂を呼びつけやがって」

桂木さんは苦笑いし、遥斗はそれを軽くにらみつけた。



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