婚活アプリで出会う恋~幼馴染との再会で赤い糸を見失いました~

春乃未果

新しいプロジェクト(2)

一週間後、デパートの外商担当が訪れ、メジャーで体のサイズを測り、いくつかの商品を届けてくれた。

数点の中から好きな物を選ぶように言われ、春らしく淡いピンク色のスーツに決めた。
値段を聞こうとしても、遥斗から止められていると言って、教えてはもらえない。
一体どのくらいするものなのだろう?
どう考えても安いはずがない。
色々と思い悩むから、安い物を買いたかったのに……。


*  *  *


ハンガーに掛けられたスーツを見ながら、数日が過ぎ、すぐに当日の朝が訪れた。
昨日から緊張して良く眠れないし、朝ごはんも少ししか喉を通らない。

「そんなに心配するなよ」

遥斗は笑いながらそう言うけど、何も知らないまま連れて行かれる私の気持ちも考えて欲しい。
遥斗が運転する車に乗り、指定されたホテルへと向かう。その途中、車内で何度も指摘された。

「また、ため息をついてる」

「だって、どんな人に会うのか教えてくれないんだもの。もう、何に緊張してるのか、わからなくなってきた」

心配しすぎて、投げやりな気持ちになった。
湾岸沿いにあるホテルは、レジデンスから車ですぐの距離にある。
ホテル正面でドアマンに車のキーを預け、中へと入った。

「待ち合わせの前に、上へ荷物を取りに行かないと。一緒に来てくれ」

遥斗はフロントでカードキーを受け取ると、38階にある部屋に向かった。
彼の後を追って、エレベーターを降り、長い廊下を歩く。

3805室。

カードキーをドアノブにタッチすると、ランプが点灯し、ドアのロックが解除された。
遥斗はドアノブに手をかけ、少しだけ開けるとこちらを振り向いた。

「先に入ってくれ」

遥斗に言われて、ドアを押して中へと入る。
強い日差しのせいで目が眩しく、暗い廊下から中の様子が分かるまでに数秒かかった。

「なっ、何これ? いったいどうしたの?」 

訳がわからず、部屋中を見回す。
緩くカーブを描いたような広い部屋の足元には、沢山の花籠はなかごが置かれている。
ピンクやイエロー、淡いブルーやオレンジ等の色が部屋中に溢れ返り、心地良い香りに包まれた。

すると、背後にいる遥斗が急に私の肩を掴み、後ろを振り向かされ、いつの間にか至近距離で彼の前に立たされていた。

「この仕事、絶対に断るな。どうだ、約束できるか?」

「――えっ!? なんの仕事か、まだ聞いてないよ。それなのに約束って……」

いつになく真剣な眼差しで私の目をジッと見つめている。
そして急に左手を掴まれると、遥斗の手の上に置かれ、薬指にシンプルな淡いピンク色のリングをはめてきた。

「里穂。俺と結婚してくれ」

遥斗の言葉が頭の中を一周するのに、ずいぶん時間が掛かった。

「えっ? ええええええっ!? だって……私って遥斗のセフレじゃ……」

「セフレ? なんのことだ?」

「だって遥斗、いつも復讐って私のことイジメて、楽しんで……」

お互いがしばらく沈黙して見つめ合った。

「くくっ、はははっ……あははははっ」

遥斗が次第に大きな声で笑い出す。

「そ、そんな笑わなくても。だって、桂木さんは?」

「桂木?」

「いつも隣にいる黒髪で美人の桂木さん」

「あいつが美人だと!?」

スマートフォンを取り出し、どこかへ連絡している。

「――――着いたか? そろそろ下へ降りる」

そう言うと電話を切った。


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