婚活アプリで出会う恋~幼馴染との再会で赤い糸を見失いました~

春乃未果

お礼とお詫び(2)

それから2時間近く奮闘して、テーブルで待つ遥斗の前にビーフシチューを並べた。

「腹が減りすぎて、なんでもおいしく感じそうだな」

「待たせ過ぎちゃって、ごめんね。さっそく食べてみて」

「いただきます」

遥斗がスプーンを手に、煮込みすぎて小さくなった人参をすくい上げ、口に入れた。

「野菜の味が溶け出して、シチューはうまいよ。それに、これなら野菜は嚙まなくても呑み干せそうだ」

「えへへ……。ちょっと煮込みすぎちゃって……じゃが芋がどっかへ消えちゃった」

遥斗に食べてもらうには、ちょっと恥ずかしい出来だけど、味だけは褒められてホッとした。

「ただ、男を落とすには、もう少し勉強する必要があるな」

「遥斗も料理が上手な人と結婚したいの?」

「俺が結婚したい女? ――そんなもの、料理ができようができまいが、最初から決まってる」

視線も合わせずシチューを食べながら、あっさりと話す遥斗の態度で、急に鼓動が早くなる。

この反応……明らかに私じゃない。
勝手に期待して、尋ねている自分がいた。
以前、桂木さんが言ってたセリフを思い出す。
遥斗は一人しか愛せないって……。
やはり、彼女がそのお相手なのかも。

「もしかして、身近にいる人?」

「それは秘密だ。俺の結婚問題は経営にも関わってくる。家族を説得するには、まず外堀を埋めないとな」

やっぱり私ってセフレ確定だーっ!!

あまりにも悲しすぎて、目の前にあるシチューを口いっぱいに頬張った。

「リスみたいになってるけど、大丈夫か?」

「気にしないで。作ったからには責任もって食べるから」

「来週は忙しいから、迎えに行く時間が取れないかもしれない。他の者を迎えにやるか、それとも、しばらく仕事を休んだらどうだ?」

確かに、あんな怖い目に合うと、今後何をされるのかわからない。かと言ってアパートには戻れそうもないし。でも、遥斗に迷惑をかけるのは嫌だし……。

「休みたいけど……、そろそろイベントの準備で忙しいから。それに今休むと、会社からなんて言われるか……」

「そうか。それなら、あの男の犯行を会社に報告して、決着をつけよう」

「あぁっ、待って、待って!! 今、遥斗に出てこられたら、話がもっとややこしくなっちゃう。なんとか一週間だけ休みを取ってみるからっ」

私のことを心配してくれるのはありがたいけど、出資元の専務が社内の恋愛問題なんかに口出ししてきたら、大問題になる。
今回は体調不良で休むしかない……。

「そうとなったら、しばらくは安心して放置できるな」

「遥斗、いつから私のこと見張らせてたの?」

「あのストーカー野郎と付き合い出して、しばらくした頃かな」

「どっちがストーカーなんだか……」

「里穂は俺のものなんだから、当たり前だろ」

甘い言葉に聞こえていても、結局私は都合よく所有されてるだけの話なのだ。それに、大事にされている理由は、きっと復讐のためだろうから。

これからもだまされないように気をつけないと……。
そうやっていつも気を引き締めているつもりが、遥斗の傍にいると、その意志も簡単に崩れ去ってしまう。


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