婚活アプリで出会う恋~幼馴染との再会で赤い糸を見失いました~

春乃未果

お礼とお詫び(1)

頬や耳元に柔らかな感触を感じて目を覚ました。どうやら明るい陽ざしの中、遥斗がしつこく私にキスを落としているようだ。

「起きたか?」

「あれ……仕事は?」

「今日は土曜だろ。休みだよ」

昨日は体を重ねたまま寝てしまったから、お互い布団の中で一糸まとわぬ姿でいた。
遥斗の手が布団を持ち上げ、中の様子をまじまじと覗いてくる。

「明るい場所でゆっくり里穂を眺めるのも、いいもんだな」

「やぁっ! やめてよっ」

慌てて布団を引っ張り返して、抵抗した。

「昨日あれだけ乱れといて、今更恥ずかしがるか? それに、俺のこと欲しがったのは里穂の方だろ」

「何よっ! その言い方。まるで私が欲求不満みたいじゃない」

「いい傾向だ。俺が教えたことをきちんと覚えてる証拠だよ」

飼い主に褒められてるような言い様にちょっとムカついた。けれど、遥斗を求めていたのは事実なだけに、これ以上反論できない。
むくれて背を向けていると、後ろからそっと慰めるように後頭部辺りを撫でられた。

「あのストーカー男、しつこそうだな。しばらく会社を休んだらどうだ?」

「うん……でも、今は忙しいから、簡単には休めない」

昨日の気がかりなことを思い出した。

「そ、そう言えば、昨日はどうして私の居場所がわかったの?」

クルッと向き直り、遥斗の方を見つめる。

「里穂の様子を見るために、しばらく人を頼んで監視させていた。昨日は様子がおかしいと連絡が入り、急いで駆けつけたんだ。張り込ませておいて、正解だったな」

「なっ!! それって、まるで遥斗の方がストーカーみたいじゃない」

「そうだよ。俺は里穂に復讐してるからな」

改めて言われるとちょっと悲しかった。
私の存在って、遥斗から愛されてるようで、やっぱり復讐相手なんだ。
きっと思いっきり惚れさせといて、最後は冷たく切り捨てるっていうことだよね。

「だから今日はたっぷりと、里穂のことを喜ばせてやろうかと思って」

遥斗が手を伸ばし、抱きしめようとするのを見越して、布団の隙間から抜け出した。近くにあった毛布を掴むと、体に巻いて立ち上がる。

「きっ、昨日は私、どうかしてたの。でも、遥斗に助けてもらったこと、凄く感謝してる。だから、今日はお礼においしいものでも作るね」

遥斗は残念そうな顔をしながら、抜け殻のベッドで肘枕をして、こちらを見上げた。

「俺は里穂が食べたいんだが。おいしい料理か……。ま、期待しないで待つよ」

キッチンへ向かいながら、ため息をつく。
昨日の自分を思い出し、後ろめたい気持ちになった。
このまま一緒に居ると、私は都合の良いセフレ? 
昨日のような態度では、まるで私がそう望んでいるかのように見えてしまう……。


冷蔵庫を開け材料を吟味し、作れそうなものを考えた。
牛肉と、じゃが芋、人参、玉ねぎ、セロリ……赤ワインとトマト缶があればビーフシチューができそう。
レシピをスマートフォンで検索し、簡単においしくできる方法を探した。


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