婚活アプリで出会う恋~幼馴染との再会で赤い糸を見失いました~

春乃未果

想定外の恋(4)

食事を終えて車に乗り込み、ホテルを後にする。
寒さで空気が澄み、湾岸沿いに立つビル群や橋がライトアップされ、綺麗な輪郭が夜の空に映し出された。

外の景色を見るフリをしながら、視線は遥斗の横顔に向いていた。
精悍な顔つきで、運転している姿が様になっている。

「遥斗ってさぁ、今までどんな女性とつき合ってきたの?」

「さぁな、忘れた」

「だって、前に何人かと付き合ったことがあるって……」

それに、いつも一緒にいるあの女性のこと、気になるじゃない……。

「初めてだな。里穂からそんなこと質問してくるの」

「そ、そうだっけ?」

心の中を読まれそうで、慌てて視線を逸らした。

「いい傾向だ」

「何が?」

「俺のことが気になり始めてる」

「違っ……」

まずい。あまりこの話をすると足をすくわれそう。
余計なことを言わないように口を閉じ、外の景色を眺めているうちに、車はレジデンスへと戻ってきた。

先にお風呂へ入れと勧められ、素直に従うことにした。いつもより丁寧に体を洗い、ゆっくりと湯船に浸かる。

リビングへ行くと、遥斗は部屋に戻ったのか、姿が見えない。
それからしばらくしてバスルームへと向かったようだった。

もしかして、お風呂から出たらここへ来て、私の傍に座るつもり?
見たいテレビも無いのに、リモコンを片手にソファーに座り、そわそわしていた。

私ったら、何を待っているんだろ…… 。
自分に呆れながら、頬が熱くなり、足音がする方向に耳を澄ませた。

――――パタンッ。
あれ……?

遥斗はバスルームを出ると、自分の部屋に戻っていったようだ。
すぐにここへやって来ると思い、ソファーにかじりついていたまま、いつの間にか1時間が過ぎていた。
するとドアが開く音がして、足音がこちらに向かってくる。

ついに遥斗が来た……。 
思わずリモコンを強く握りしめた。

「――――まだ起きてたのか?」

意外な言葉に驚き、後ろを振り返ると、遥斗の視線とぶつかった。
沈黙する私にそっと近づくと、隣に座り肩を抱き寄せる。胸が高鳴り、返す言葉を失う。

「里穂……。もしかして、俺のこと待ってた?」

そう言うと、私に顔を近づけた。無意識に目を閉じる。
このまま、キスされて、押し倒されて……。

なぜか、その期待とは違う場所でチュッと音がした。
一瞬、額の辺りに柔らかな感触があったかと思うと、すぐに肩に置かれた手が離れ、ソファーが少し傾いた。
目を開けると、すでに遥斗は部屋に戻ろうとして立ち上がっている。

「早く寝ないと、また体調を崩すぞ」

「うん……。そうだね」

「なんだよ。残念そうな顔して」

「しっ、してないよっ!」

慌ててソファーから立ち上がり、部屋へ戻った。ドアを閉めて、ベッドに潜り込む。
さっきから心臓の音が耳に響いて、落ち着かない。

あのまま遥斗に抱かれることを考えていたなんて。
自分がどうかしているとしか思えなかった。
遥斗を好きな気持ちでこうなっているのか、それとも遥斗によって与えられた体の記憶がそうさせているのか、よくわからない。
混乱したまま布団を頭まで被ると、ギュッと目を閉じた。


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