婚活アプリで出会う恋~幼馴染との再会で赤い糸を見失いました~

春乃未果

お付き合い(4)

小田さんは少しイライラした様子でマスターを睨みつけた。

「こんな時に、昔の話を持ち出すなよっ!」

初めて聞く小田さんの苛立つ声。
昔の彼女の話をしたからって、そんなに怒るものだろうか?
初めて見るそんな態度に、ちょっと驚いた。

「里穂ちゃん、ごめん。急に昔の嫌なことを思い出しちゃって……」

「いえ、大丈夫です。誰でも思い出したくないことはありますから」

注文したカクテルを飲み、しばらくすると、いつものように陽気な声を上げた。
私と一緒で、きっと恋愛の嫌な思い出があるのだろう。

カクテルは飲み口がジュースのようで、気が緩むと飲み過ぎてしまう危険性がある。用心して私は2杯飲み、小田さんは3杯飲んで、店を出ることにした。



駅までの道のり、少し足元がふらつく私の手を取り、小田さんと並んで歩いた。
アルコールのおかげで、すっかり陽気になり、次第に触れあうことにも抵抗が薄れてくる。
結局、アパート最寄り駅の改札口まで送ってもらうことになった。

「今日は楽しかったです」

「里穂ちゃん、少し酔っているようだし、自宅前まで送って行こうか?」

「あっ、いえ、大丈夫です。歩いたらすっかり酔いがめました」

「そっか……。それなら、送らなくても大丈夫か……。それじゃ、また連絡するね」

小田さんは残念そうに呟き、繋いでいる手を見つめた。改札口で別れるため、手をほどこうとするが、握りしめたまま離してくれない。

「もう少し、一緒に居たいな。やっぱり自宅まで送ろうか?」

甘えたような声で私に呟く。

「あの、またどこかへ誘ってください。今日はここで大丈夫です」

そう言うと、彼は名残惜なごりおしそうに手を離した。
軽く酔ってる状態でも、頭の芯は醒めている。小田さんとは親しくはなっても、まだ彼に心許すことができない自分がいた。
それが遥斗のことが原因なのか、臆病のせいなのか自分でもよくわからない。

一人でアパートへ向かって歩く途中、ふと周りが気になった。
まさか遥斗がどこかで待ってるなんてこと……ないよね? 
鍵を開けて部屋に戻っても、ドアをノックする音やスマートフォンは鳴ることはなかった。
頭の中は、すっかりもてあそばれている環境に慣れ、どこか期待している自分がいた。

いつも遥斗が変な風に迫るから……。

自分に呆れてバスルームへ向かうと、熱いシャワーを浴び、ベッドに横たわった。
そして静かな週末は何事も無く過ぎていく。


*  *  *


月曜の朝、部署のデスクへ着くと、万智に引っ張られるように、休憩ブースへと連れて行かれた。

「里穂の相手って社内の人だったんだ!」

「えぇっ!? どういうこと?」

「人事の小田さんとつき合ってるでしょ?」

その言葉に、急に動悸が激しくなった。


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