婚活アプリで出会う恋~幼馴染との再会で赤い糸を見失いました~

春乃未果

赤い糸の絡まり(7)

外の景色が薄暗い夕方から、ライトアップされた夜の色へと変わる。
小田さんから自宅アパートのある最寄り駅まで送ると言われ、結局、元の住む駅まで来てしまった。

「また連絡するね」

改札口で手を振って別れた。
しばらく部屋に戻っていないし、今日は久しぶりにアパートへ帰ることにしよう。

『今夜は用事があるので、自分のアパートに戻ります』

遥斗にメッセージを送ってしばらくすると、スマートフォンがけたたましく鳴り出した。

嫌な予感……。

「里穂、今どこにいる?」

電話口、遥斗の第一声は重い。

「どこって、もうすぐアパートに着くところだよ。今夜はこっちで寝るから」

「いつ俺が戻っていいと言った?」

まるで脅すような口調で遥斗が尋ねる。

「今から迎えに行く」

「えぇっ!?」

どこまで私を追いかけてくるつもりなの?



その言葉から30分程でアパートのドアをノックされる。
ドアスコープをのぞくと、宣言通り遥斗が玄関に立っていた。
怒っているのかと、恐る恐るドアを開けてみる。
すると意外にも、どこか寂しげな表情を浮かべた遥斗が立っていた。

「今日、誰かと会っていたのか?」

「遥斗……」

私のためらった沈黙に、遥斗の手が強引に伸びて、体を引き寄せられた。

「俺のことを忘れてないか、確かめさせろ」

遥斗だって、あの女性と会ってたじゃない……。
尋ねる隙も与えないくらい、唇を塞がれ、柔らかに動く先端で激しく口の中を探られた。
抱き締めてキスされたたまま、部屋の奥へと連れて行かれる。
ベッドの上に押し倒されると、器用に服を脱がされた。

「どう……して……」 

強引なやり方に抗議しようと、何度も手を伸ばそうとした。しかし、いつしか抵抗する意志は薄れ、甘い感覚に包まれていく。
そうして、最後は遥斗の腕の中で切なく溺れていった。


*  *  *


外が明るくなり、目を覚ますと、隣には誰も寝ていなかった。
朝が来る前に帰ったのだろうか。
遥斗に抱かれていると、いつもそこから抜け出せない沼に落ちた感覚におちいる。

このまま一緒にいたら私……。

体の隅々すみずみまで遥斗を記憶して、時々ふとしたことで思い出しそうになる自分がいた。

そうだ、今日からここへ戻ろう。すぐに遥斗の部屋を出ればいいんだ。
遥斗の言う復讐が済んでいるのかはわからないけど、このままでは私の心が支配されてしまいそうで怖かった。



出社してエントランスを抜けエレベーターを待っていると、後ろから声を掛けられた。

「おはよう!」

「あっ、おはようございます」

小田さんが明るく挨拶してくれたものの、昨夜の出来事があって、なんだか心苦しい。
付き合うことを了承しておきながら、いくら迫られたとは言え、遥斗に抱かれてしまうなんて……。

人混みに押されるように、一緒のエレベーターに乗り込んだ。目的の階に到着すると、小田さんの方を振り返らず、早々と降りた。
自分のデスクに着くと、すぐにメッセージの着信音が鳴る。

『昨日はありがとう。おかげで楽しかったよ。また行こうね』

『私も、楽しかったです』

そう返したけれど、まだ気軽に話せる間柄ではないし、小田さんとの関係をあまり急ぎたくはなかった。

それに……このままだと遥斗のことが頭から離れそうにない。
こんな関係、早くやめないと……。



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