婚活アプリで出会う恋~幼馴染との再会で赤い糸を見失いました~

春乃未果

赤い糸の絡まり(6)

夕方になり、辺りはすぐに薄暗くなる。
二人で駅へ向かう大通りを歩いていると、人混みの中に遥斗に似た男性とすれ違った。

そうだ。遅く帰宅して、また詮索せんさくされても困るし、早めに帰らないと……。

「良かったら、この近くにグラタンがおいしいレストランがあるんだ。せっかくだから夕飯でもどうかな?」

「あの……小田さん。今日は――」

もう帰らないと、と言いかけて、駅から来る人の流れが目に入る。その人混みの中に、ひときわ背が高い、遥斗の姿を見つけてしまった。

「鈴河さん、どうしたの?」

「い、いえ……」

遥斗の隣で歩く相手は、朝食ミーティングで見かけたあの綺麗な女性だった。その女性が遥斗の腕を軽く叩き、親しそうに会話しながら通り過ぎていく。
どう見ても仕事上の付き合いではなさそう。

遥斗が女性と二人で歩いても決して不思議なことではない。それなのに、目の前であんな姿を見てしまうと、なぜか心は揺れ動く。

「本当にどうしたの? 泣きそうな顔してるけど」 

「――いえ、なんでもないです。……そうだ、これからどこか飲みに行きませんか?」

「えっ!! いいの?」

感情が混乱して、思わず飲みに誘ってしまった。とても、このまま平常心で帰宅することができない。
小田さんは一瞬驚き、すぐに嬉しそうな顔をこちらに向けてきた。

二人で駅ビルにある最上階のレストランに入る。
外はすっかり暗くなり、ビル明かりが点灯し始めていた。
カクテルとおつまみになるものを2、3品注文し、夜景が見える窓際の席に向かい合わせで座った。

「鈴河さんから飲みに誘ってくれたってことは、脈があると考えてもいいのかなぁ?」

小田さんは私に熱い眼差しを送ってくる。
恋愛に憧れてはいても、小田さんのことが本当に好きなのか、まだ確信が持てないでいた。
でも、このまま遥斗の思惑に乗せられてしまったら……。

「これから鈴河さんのことをもっとよく知りたい。僕のことは少しずつ好きになってくれればいいから……だから、YESって言ってくれないかな?」

小田さんは良い人だし、外見だって申し分ない。
身長のことは気にしないと言ってくれてるし、彼からのアプローチを受け止めるのが一番自然で、幸せなのかもしれない。
でも…………。

「あの……小田さんとは知り合ったばかりだし、自分の気持ちが、まだよくわからなくて……」

「形だけでもいいんだ。一緒に過ごすだけでも僕は嬉しい。だから、お願いだ……」

懇願するように私の承諾を待っている。

「わかりました。こんな優柔不断な私でいいのなら」

コクンとうなずくと、小田さんは満面の笑みを浮かべた。

「でも、まだ会社の人には秘密にしてください。うちの部で付き合うとなると、大事おおごとになるので」

社内の人とアプリで出会って付き合うとなれば、部署内は大騒ぎになる。

「もちろんだよ。僕は鈴河さんを大切にしたいから」

きっとこの人は、遥斗とは違う。
私のことを理解して、丁寧につき合ってくれるはず。
強引に自分のものにしようとする遥斗とは大違いなのだから。



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