婚活アプリで出会う恋~幼馴染との再会で赤い糸を見失いました~

春乃未果

初対面の相手(5)

「大丈夫。毒は入れてないから」

そう聞いて、とりあえずフォークにパスタを巻き、ひと口頬張ほおばってみる。
ニンニクの風味とオリーブオイル、塩気がちょうどバランス良く仕上がっていて、それはまるでお店みたいな味。

「おいしい~!」

思わず絶賛してしまった。
その感想を聞き、遥斗がニコニコして私の顔を見つめてくる。

「どうする? 俺が睡眠薬とか入れてたら」

思わずギョッとして、フォークを皿に置いた。

「嘘だよ。あまりにも簡単に男の部屋へ上がって、抵抗なく他人が作った物を食べるから。もし俺が何か企んでいたら、里穂は簡単に落せるよな。眠らせてから、ゆっくり楽しむ、とか……」

こちらに鋭い視線を向けながら、遥斗は冷静に言葉を並べた。

「だ、だって……いざとなったら、これで警察呼べるし……」

「家の中に仲間でもいたら、どうするんだ? 部屋に俺しかいない保証なんてないだろ。あまりにも警戒しないから、逆に心配になるな」

「心配って何よ! 遥斗の方こそ何を企んでるか、わからないくせに」

すると突然彼の手が伸びて、私の右手首を掴んだ。

真顔になって、まるで獲物を捕らえるような視線をこちらへ向けてくる。
鋭い眼差しは見えない糸のように私を縛り、なぜか動くことができない。

遥斗は私の手首を掴んだまま席を立ち、こちらに近づくと、するりと背後に回った。
そして耳元に顔を寄せ、ささやくように尋ねてくる。

「さっき俺と付き合うって、約束したよね?」

「そ、それは……遥斗だって知らなくて……」

「知らなかったら、そのまま俺と付き合っていたのか?」

その問いに何も返すことができなかった。
もし遥斗が打ち明けていなかったら、気がつかないまま付き合っていたかもしれない。

「里穂は少なくとも、俺のことを魅力的だと思ったんだろ?」

声を一層低くしながら、まるでこちらをなじるように言葉を投げ掛ける。

「そ、それは……」

「よし、決まったな。明日からここで暮らせ!」

遥斗が急に明るく突き抜けた声で命令してきた。

「はっ!? はい? いったい何を言い出すの? 強引に連れて来て一緒に暮らせって、飛躍しすぎでしょ?」

すると、いきなり遥斗の空いている腕が素早く伸び、私の体をイスに押さえつけるようにロックしてきた。
そして耳元へ向かって、まるで悪魔のように呟く。

「しばらくここで一緒に生活してくれたら、許してあげるよ。――――昔のこと」

許しの条件と、体に響く遥斗の低音に、理性が一瞬麻痺する。

「…………わかった」

頭では何も理解できていないのに、自分の意識に反して、勝手に承諾しょうだくしていた。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品