婚活アプリで出会う恋~幼馴染との再会で赤い糸を見失いました~

春乃未果

初対面の相手(3)

幼稚園時代の記憶がよみがえる。

あの頃の遥斗は白くて、細くて、小さくて。ピーピー泣くからPちゃんって呼んでた。
髪も長く伸ばし、まるで女の子みたいだったのに。
まさか、目の前にいる、この大柄でがっしりとした体格の男性が、同一人物だなんて。

「こうして目の前で会っても、気づかなかっただろ? あの頃、よく里穂に小さいって言われて、学生時代、体を大きくすることにかなりついやしたからな」

「あ……あなたが本当に遥斗なの? す、すごい、こんなに体が大きくなって……ホント、気がつかないくらい変わっちゃってる……」

「どうだ? もうあの頃みたいな俺じゃないだろ? こうして会えるを楽しみにしていたよ」

足元から響くような声で、まるで催眠術師が技をかけていくように言葉を重ねていく。
その声を聞いていたら、次々と昔の記憶が思い出された。

「覚えているか? あの頃、Pちゃん、Pちゃんって。俺のこと子分のように連れまわして。スカート穿かされたり、ままごとやらされたり……今考えると、あれってイジメだよな?」

そう問い詰められて、ますます何も言えなくなった。
心の奥底にある、後ろめたい気持ちが湧き上がる。

「ごめんなさい。でも、遥斗のことバカにしたんじゃなくて、小柄で可愛いくて、本当の弟のようで、つい……」

幼い頃の自分が素直な気持ちで可愛いがっていたのは事実だった。

「そんな謝り方、とても納得できないな」

「じゃあ、どうすれば許してくれるの?」

尋ねた言葉には答えず、いきなり腕を掴まれ、出口へと引っ張られていった。
この状況、まるで誘拐されるみたい。

――――どうしよう……。
誰か助けを呼んだ方がいいの? 

迷っているうちに引っ掴まれ、そのまま引きずられるように人混みが多いメインストリートを抜けた。
しばらく歩くと、人気ひとけの無い路地裏へと入っていく。

すると、案内された場所はコインパーキングだった。
駐車してある一台の黒いSUVに近づくと、ポケットからリモコンキーを取り出し、ロックを解除した。助手席の扉を開けると、にこやかに指示を出す。

「さあ、乗って」

「きゅっ、急に乗れって言われても……」

「心配するな。乱暴はしない」

しないって言われても、このまま拉致されて、監禁されて、行方不明になって……。
頭の中には殺人事件のニュース映像が流れた。
遥斗はポケットからスマートフォンを取り出すと、私に突き出してくる。

「これを里穂に預けるよ。何かあったら警察に連絡できるだろ」

そこまで言われてしまうと疑いようが無い。
慎重に両手で受け取り、従うことにした。

「わかった」

大人しく助手席へ座ると、遥斗がドアを閉め、すぐに運転席へと乗り込んだ。



車は都内の大通りを抜け、湾岸沿いへと向かっていく。
そこは遊歩道や街並みが整備され、高層ビルが立ち並ぶ一角。いかにも高級そうなタワーマンションなどが並んでいるエリア。

夕日が沈む時間帯、車は一棟のタワーレジデンスへと近づいた。
レジデンスの幾何学的な模様の窓にオレンジ色の陽ざしが反射して、とても眩しい。
目を細めているうちに、裏側にある地下駐車場へと入っていく。
遥斗は車を駐車させ運転席を降りると、私が座る助手席のドアを開けた。

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