あの瞬間キミに恋した

桜川椿

108

「君が4歳の誕生日の日に誘拐されたんだ・・・。探しても探しても見つからなかった」




そうだった・・・晃君もそう言ってた・・・。






「で、最近分かったんだ。誘拐したのが私の元秘書だって言うことが・・・。数年経った今、彼女が私に伝えたい事があると連絡が入った。そして私は彼女に会った。そして彼女は全てを話してくれた」






『私はあなたを愛していました。けれどあなたは私には振り向いてくれなかった。その矢先に奥様が妊娠していることを知って、それからずっと辛くて・・・。そして私は娘さんがいなくなれば、あなたが振り向いてくれると思って誘拐をしてしまいました・・・。ごめんなさい・・・本当にごめんなさい・・・』






「そして誘拐してすぐ後に、施設の前に置いて行った・・・。生年月日と紗羅の名前だけ書いた封筒だけ添えて・・・」








・・・。








許せない・・・誘拐なんてしておいて、今更ごめんなさいって?






そんなんで許せるわけないじゃない!!!








でも・・・誘拐されてなかったら、今の両親には出会えなかったんだ・・・。






そう思うと、その女の人のことを憎めない気がした・・・。




「全て私が悪かったんだ・・・。本当にすまない・・・」








おじさん・・・この人は、私の本当のお父さんなんだ・・・。










「紗羅・・・誰が悪いってわけじゃないんだ」とお父さんが必死で言う。




「うん、わかってる・・・」








でもこれから私はどうなるの?






まさか・・・私を戻すなんてことしないよね?








「紗羅ちゃん・・・都合の良い話だが、戻ってきてくれないかな?私は今まで育ててあげられなかった分、君と一緒に暮らしたいんだ」と涙を流しながら言うおじさん。












・・・。










おじさんの気持ちは痛いほど伝わってきた・・・。








どうすればいいの?






はっきり言っておじさんのことは好きだよ。




でも本当のお父さんだって言われてもすぐには、感情がついていかない・・・。






おばさんや晃君のことだってそう。




急に家族なんだとは思えないのが本音・・・。








「紗羅・・・愛野さんの所に戻りなさい。私達なら心配しなくていいのよ。今まで紗羅と一緒にいたんだもの。会いたくなれば、いつでも会えるし。ねっ」と微笑みながら言うお母さん。




「そうだ。紗羅は幸せ者なんだぞ。父親と母親が2人いるんだから」と笑顔で言うお父さん。








お父さんお母さん・・・そうだね。






私は幸せ者だ、こんなに良い親がいるんだから!!








「お父さんお母さんは、それで良いの?」


「ああ」


「もちろんよ」


「分かった」




それから深呼吸をして「おじさん、これからよろしくお願いします」と笑顔で言った。


「出来ればお父さんと呼んで欲しいんだけどな・・・」


「じゃあ・・・お父様って呼んでいいですか?お母様のこともそう呼んでるので・・・。ダメですか?」


「ありがとう。嬉しいよ」と言って抱きしめられた。






びっくりした・・・。






だって急に抱きしめてくるんだもん。






でもおじさん・・・じゃなかった、お父様の腕の中は不思議と安心できる・・・。








これから私どうなるんだろう?






ドキドキなような不安なような、そんな気分。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品