世界に轟け中華の声よ

鈴木颯手

第二十七話「おそろしあ……」

「初めまして陛下。ロシア帝国外務省のアレクセイ・コチェルギンと申します」

 相手が連れて来た通訳の元アレクセイと言う外交官が頭を下げる。ロシア帝国は共産勢力との戦いを勝ち抜きシベリア以西の領土を持つ大国だ。今では欧州大戦での損害や共産勢力との戦い、更にはシベリア共和国との紛争で国力は半分近くまで下がっていた。それでも彼の国が有する軍隊は精強でアメリカ合衆国と大日本皇国の支援をたくさん受けているシベリア共和国軍相手に互角に戦っている。
 そんな大杏帝国から見れば大国と変わりがないロシア帝国の外交官がこうしてきている事に疑問しか湧かない。ロシア帝国はかつては南下政策と言う不凍港、つまり冬に凍らない港を目指していた。大杏帝国及び伯国はその標的となっていた。

「朕が大杏帝国の皇帝雨露じゃ。して、ロシア帝国の外交官が一体何の要件なのじゃ?」
「はい。単刀直入に言いましょう。我々は貴殿らを支援したいと思っています」

 アレクセイさんの言葉は僕の疑問を一気に吹き飛ばしてくれた。つまり、大日本皇国は気づいていたか最近気づいたのだろう。ロシア帝国の介入を。よくよく考えてみればロシア帝国にとってこの紛争は好機だ。
 シベリア共和国は元々ロシア帝国の領土だったのだ。それを大日本皇国とアメリカ合衆国が奪いとり国を作った。ロシア帝国としては何としても取り戻したいはず……。だけどソヴィエト革命によって国力は落ちており本気で領土奪還に動けばシベリア共和国を支援するアメリカ合衆国と大日本皇国が黙っていないだろう。
 だから、この紛争で大杏帝国が有利に動けるようにロシア帝国は支援したいのだろう。運が良ければ大日本皇国の国際的地位を下げつつシベリア共和国を解体できるかもしれない。ロシア帝国はそう思っているに違いない。

「支援とは言うがどの程度なのじゃ?」
「まずは物資の提供です。フョードロフ自動銃を1000丁とその弾丸5000発。これは今この場に用意したものです。もし、我が国の提案を受け入れてくれるのであればこの十倍は提供する準備があります」
「何と……」

 青姜さんが驚いている。正直に言って銃を含む武器の知識はない。だからどれだけ凄いのかは分からないが1000丁もあれば一つの戦線すべての兵に行き届かせる事も出来るかもしれない。そしてアレクセイさんは先ずは・・・と言った。つまりまだあるという事だろう。

「次に貴国の勢力圏内に兵器工場を無償で建造します。これらは我が国の技術者を用いますので大杏帝国は土地さえ用意してくれれば問題ありません」
「それは有難い話じゃ。だが、それを運用する製造者が我が国には少ない。宝の持ち腐れとなってしまうのではないか?」
「その辺はご心配には及びません。兵器工場完成の暁にはその手の第一人者を百名派遣します。更に貴国の民に無償でお教えする準備も出来ています。それと、これはあくまで一つの・・・兵器工場に関してです。貴国が望むのであればこれを10、同時に建造します」
「なんとじゃと!?」

 ロシア帝国の本気具合に遂に僕は驚きのあまり立ち上がる。ロシア帝国は本気で大杏帝国を列強と戦える国にしようとしているのだろう。ここまで至れり尽くせりだと逆に怖くなってきてしまう。とは言え建造する場所にもよるだろうけど大日本皇国が帝都を落とし大杏帝国を滅ぼす方が先だろう。残念ながらロシア帝国の提案は、呑めないな。

「ロシア帝国の提案は我らに取って素晴らしい提案じゃ。しかし、我らは大日本皇国との白紙講和を決めておる。もし、そなたたちが数日早ければ提案に乗っていたじゃろう。申し訳ない」

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