世界に轟け中華の声よ

鈴木颯手

第二十三話「ふんそーです!ろく!」

「撃てぇ!」

 極獄将軍の異名を持つ安高聾あんこうろうの指示に従い砲兵が砲撃を開始する。砲兵の練度は必要最低限という事もあり砲撃は目の前から向かってくるシベリア共和国軍の兵士には当たらず地面に穴をあけるだけだった。既に三回目の砲撃だが与えた被害は皆無といっていい状況でシベリア共和国軍は最初の地点から半分の距離にまで迫ってきていた。

「各指揮官に連絡!銃撃を開始せよ!」
「はっ!」

 安高聾は射程距離に入りそうな所を見計らって射撃の許可を出す。数分後に四度目の砲撃が行われると同時に射撃が始まった。しかし、こちらも大して命中してはおらず逆にシベリア共和国軍の射撃によって損害を出していた。
 安高聾将軍が自ら指揮をしているのは敵首都ウラジオストックの北部にある興凱こうがい湖、その南部の戦線だった。ここは敵首都から北進してきた兵や日本兵が多く展開する激戦区の一つであり大杏帝国に置いて最上級とも言える実力を持つ安高聾が指揮する事で戦線が保っていた。

「砲兵!揃えて撃て!少なくとも個別で撃つよりはマシだ!」
「はっ!」
「後方の予備部隊を第11戦区に投入しろ!直ぐにでも戦線が崩壊するぞ!」
「はっ!」
「第2戦区は後方に撤退!第1、第3戦区は撤退の援護だ!」
「はっ!」

 次々と発せられる命令に伝令兵は誰一人として休む間もなく戦線を走り抜ける。通信機器が今だ保有できていない大杏帝国に置いて支持は歩兵や馬を用いて直接伝えるか狼煙などを用いるしかなかった。しかし、その分伝令兵は足が速く、素早く伝令を伝えられる者が選抜されているためそれなりの速度で命令を伝える事が出来ていた。

「……このままでは不味いな」

 どれだけ指示を出そうとも劣勢の状態から覆らない戦線に安高聾は焦りを感じ始める。だが、列強の支援を受けて力を付けているシベリア共和国とそれを支援する大日本皇国相手に善戦出来ているだけ凄いことではあった。しかし、それも大日本皇国がこの紛争に消極的であり講和への道を探っているからに過ぎない。もし、本気で侵攻していればすでに戦線は崩壊していただろう。

「将軍!大変です!」

 安高聾が次の一手を練っている時だった。一人の伝令兵が生きも絶え絶えにやってきた。伝令兵の服装や顔からこの戦線の人間ではないなと安高聾は予測した。

「遼東半島、及び朝鮮半島より大日本皇国軍が侵攻を開始!戦線は崩壊し敗走中です!」
「何だと!?あそこには精鋭と大量の兵を配置していたのだぞ?」

 大日本皇国の領土と直接接する戦線にはこの激戦区の二倍近い兵が配置されていた。それだけ警戒しているという事でそれがいくら何でも簡単に戦線が崩壊するというのは信じられなかった。

「そ、それが!敵は新兵器を投入したようで、全く歯が立たずに敗走しました!」
「新兵器だと!?まさか……欧州大戦において活躍したという……!これは不味いぞ!」

 安高聾は一つの兵器を思い浮かべると同時に大杏帝国の敗北の未来を想像し顔を青くするのだった。

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