世界に轟け中華の声よ

鈴木颯手

第二十話「ふんそーです!さん!」

「バルトエデネ副将!お待ちください!」

 大杏帝国、大日本皇国、シベリア共和国の国境線に置いて一人の男が国境の先を睨むように見ていた。そんな彼を部下の兵士が引き留めている。男、バルトエデネは近くの岩場に張り付くとそこから様子を伺う。視線の先には大日本皇国の兵士と思われる少数の部隊がいた。彼らは特に警戒をしていないようで見張りも最小限しかいなかった。

「副将!急いで戻りましょう!敵に見つかったら……!」
「うるさいぞ。お前の声で見つかるだろうが」

 部下の声を静かな声でやめさせる。付近では大日本皇国の兵の声か風の音しか聞こえない状況で中国語で話す部下の言葉は確かに目立っている。バルトエデネは再び部隊を確認するが気づいた様子はなかった。部下の方に顔を向けたバルトエデネはかなり怒りを表していた。

「ここが何処か分かっているのか?先に見つけた方が有利となる戦場だぞ?しかもこちらは偵察兵だ。確実に情報を奪われないように攻撃を受けるぞ」
「も、申し訳ございません」

 震える声で謝罪する部下にバルトエデネは深く息を吐く。彼は元々モンゴル出身であり数年前まではモンゴルとロシア帝国との国境で発生する紛争に対処していた軍人であった。その後大杏帝国に轡替えし今では大杏帝国でも屈指の実力者として名をはせていた。
 そんな彼にとって大杏帝国の兵士はとても質が低かった。というより兵士と呼べる者すら一握りだと感じていた。大杏帝国の軍はそれなりにいるが充足率は輸入品を含めて8割で自国産の物だけなら3割にも満たなかった。しかも自国産の銃火器は質が最悪で野砲の配備すら全くできておらず基本的に小銃とキャバリーソードによる白兵戦を主体としたモンゴル軍よりもひどい。はっきり言えばモンゴル軍と大杏帝国軍が同数で戦えばモンゴル軍が圧勝すると即答できるくらいには酷かった。
 故に列強の一角であり近代化と工業化を見事果たし大杏帝国に代わりアジアの代表となっている大日本皇国とその日本の軍事支援と列強のアメリカ合衆国の経済支援を受けているシベリア共和国が相手なら勝てるはずがなかった。大杏帝国が勝利するには大杏帝国は敵の士気を挫く”策”が必要だった。その策が今バルトエデネが偵察に出ている理由である。

「戻るぞ。軍に出撃準備をさせておけ」
「分かりました。それと遼東半島の日本軍を干上がらせるために行っていた海上封鎖はこちらの艦隊の全滅で失敗したそうです」
「だろうな。あんな艦隊とも呼べない船でどうにか出来るわけがない」

 むしろ温存しておき遊撃戦や通商破壊を目的に使うべきだとバルトエデネは呟く。しかし、どちらにしろこれで大杏帝国の北洋艦隊は全滅し海軍能力を完全に喪失したことは事実であった。バルトエデネは大日本皇国に”勝つ”為に策を実行に移すべく自軍の陣地に急ぐのだった。

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